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安眠スキルで異世界平和!!  作者: 借屍還魂


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新たな相談

 魔術宮に行ってから三日。私は接触時間と『安眠の加護』の関係について実験をしながら、他は屋敷の家事をするだけという穏やかな日々を送っていた。


 実験のためにオリバー様の睡眠環境も変えないようにしているので、新しい安眠アイテムの開発やスキル成長も止まってしまっている。


「一応、魔術宮に追加で渡す分は完成したけれど……」


 数を作れば『安眠アイテム』スキルが進化する訳ではないらしい。オリバー様の睡眠時間もわかりやすく接触時間に比例しているわけではなく、関連性の有無はまだ判断できない。


 関連性よりもオリバー様の睡眠が大切なので、朝まで眠れるように進化してほしい所である。本人は改善していると口にしているが、未だに夜中に目が覚めているようだ。


「そう簡単には改善できないみたいね」


 余程、睡眠不足が習慣化していたのだろう。少しずつ眠れる時間が長くなるように、眠りの質が良くなるように、根気強く改善していくしかない。


 起床や入浴、食事の時間。朝日を浴びたり、運動する習慣。カフェインやアルコールは避け、栄養バランスのいい食事を摂る。

 まだ屋敷に来てから一週間程度だ。地道にやろうと気合を入れる。


「さて、今日は多めに作らないと」


 今日の夕食は三人分頼む、とオリバー様が言っていたのだ。誰が来るかの説明は無かったが、渡したアイテムが無くなる頃なので、十中八九アッシュ様だろう。


 渡したアイテムの効果を聞いて、魔術宮全体で何個必要か、次から材料の調達や受け渡しはどうするかも話しておきたい。

 確認事項を箇条書きにしてから、調理を始めたのだった。


 

「ユイさん、こんばんは」


「おお、噂のユイ嬢か!! こんばんは」


「すまない……」


 十六時。仕事終わりの鐘が鳴ってから、きっちり一時間後。眉を顰め、頭を抱えたオリバー様は、その肩を見知らぬ方に掴まれた状態で帰ってきた。


 物凄く既視感を感じる光景である。具体的に言えば、四日前に似たような光景を見ている気がする。

 おかえりなさいませ、とオリバー様に目線を向ける。


「アッシュ様と、そちらの方は……」


 どう見ても同僚ではない。魔術宮に訪れた際、殆どの人と顔を合わせたが、この人の顔は記憶になかった。

 長身のオリバー様より身長が高く、肩幅も広く全身にしっかりと筋肉がついている。腰に剣を佩いているので、騎士だろうか。


 じっと観察しながら関係性を考えていると、不審に思っていると判断したのだろう。先に名乗るべきだったな、と右手を差し出された。


「俺は騎士のイーサン。平民だ。よろしく頼む、ユイ嬢」


 茶色の髪と目に精悍な顔立ちの騎士は、礼儀正しく私に名乗る。アッシュ様とは別の意味で女性に人気がありそうな人だ。

 そんな人にお嬢さん扱いされる気恥ずかしさを感じつつ、出された右手を握り返した。


「ユイと申します。よろしくお願いいたします、イーサン様」


 手を握る力は優しく、加減されていることが良く分かる。良い人そうだな、と微笑みながら、オリバー様に質問をする。


「あの、オリバー様。イーサン様とは、どのようなご関係で……?」

 

「友人だな」


「知人だ」


 同時に答えたイーサン様とオリバー様だったが、内容は異なるものだった。反応に困っていると、アッシュ様が笑って言った。


「僕達、王宮に勤め始めた時期が同じで、寮が一緒だったんです」


「そうなんですね」


 それぞれ、オリバー様と隣と向かいの部屋だったらしい。寮の食堂を利用する時間も同じで、三人一緒に行動することが多かったのだという。

 オリバー様とアッシュ様が個人の屋敷を貰ってからは、月に一度食事に行くくらいの関係性だったらしい。


 それは友人でいいのでは。もしかすると、今日のイーサン様が屋敷に来たのは、その食事会のつもりだったのだろうか。

 オリバー様の謝罪は、人数を伝え間違ったということならば、納得はいく。


「お食事なら、準備は大丈夫ですので」


 安心してください。そう伝えたのだが、オリバー様は溜息を吐き、アッシュ様は苦笑いをし、イーサン様は首を横に振って私の方に歩み出た。


「いや、俺はユイ嬢に助力を乞いに来たんだ」


 今日は二人に無理を言って連れてきてもらった、と真剣な表情で言われる。わざわざ、オリバー様たちではなく私に、ということは、相談の内容は一つしかないだろう。


「魔術宮の問題を解決したユイ嬢にしか頼めない。騎士団も、睡眠で悩んでいるんだ」


「すまない。断りはしたんだ。本当に」


「いえ、大丈夫です」


 解決できるとは限らないが、折角知識を持っているなら、睡眠不足に悩む人は減らしたい。本人は知人と言っているが、オリバー様のお友達なら、特に。

 症状を尋ねると、イーサン様は少し考えてから口を開いた。


「遠征帰りのイビキや寝言を減らす方法はあるだろうか?」


「は?」


 地を這う様な低い声を出しながら、オリバー様がイーサン様を睨み付けた。そんな下らないことで相談しに来たのか、と全身で示していた。

 イーサン様は両手を顔の横にあげ、最後まで聞いてくれと眉を下げた。


「騎士団内では深刻なんだ。久々に合えた愛しい家族に拒否される、と凄まじく士気が下がっている」


「防音魔術を使えばいいだろう」


「あれは領域指定型だから、範囲が広くて役に立たない」


 イビキや寝言が問題なのは、騎士の半分以上らしい。オリバー様の言う通り、寮暮らしの騎士たちは自分の部屋に防音魔術を使用しているようだが、問題は家庭持ちの騎士たち。

 つまり、同じ部屋で寝る人がいる騎士たちのようだ。


「範囲調整すればいい」


「オリバー。全員が全員、魔術が得意ではないんですよ」


「それに、寝ている間は無理だ」


 イビキや寝言は、単純な不眠よりも問題になりやすい。一緒に寝る人の睡眠も妨げてしまうからだ。確かに防音すれば他人に迷惑は掛けないが、それでは本人の睡眠状況は改善しない。


「問題は、遠征から戻った数日間だけですか?」


「遠征から戻る途中もうるさいが、まあ、騎士同士ならば慣れているから問題ない」


 遠征中や普段王城で働く期間は問題ないらしい。遠征終了後、帰りの道中と家に戻った数日間だけ、症状が出る。となると、原因は疲労とストレスだろう。


「何か、良い方法はあるだろうか?」


 騎士なら運動は十分であり、生活も規則正しいものだ。肥満や顔の筋力不足は考えにくい。ひとまずアルコールを控えて貰い、横向きに寝て貰えばイビキの症状が軽い何人かは改善するだろう。

 イビキは疲労で口呼吸していることが影響するので、横向きやうつ伏せに寝て喉を広くすれば改善することが多い。


「後は、簡単な柔軟運動と丹田呼吸法、というものを試すといいかもしれません」


 寝言に関しては、遠征の緊張が残っていることが原因だろう。遠征の帰り道から問題ならば、アイテムよりも緊張をほぐすストレッチや呼吸法が役立ちそうだ。


「ぜひ、教えていただきたい!!」


「それは構わないのですが……」


 前のめりになり、かなり距離を詰めて来ていたイーサン様を、オリバー様が引きはがす。


「先に食事だ」


 冷めるだろう、と不機嫌そうに言ったのだった。

次回は来週末に更新予定です。

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