プロローグ
「や〜〜!! ユイとねる!!」
王城に響く、幼い声。自身の右手をしっかりと掴む幼い王女に、女性ーー安達優衣は苦笑する。
「ごめんなさい、もう帰らなきゃ……」
ご指名は嬉しいのだが、優衣には、正当な雇い主がいるのだ。住み込みで働いているので、許可が無ければ外泊できない。
どうしたものか、と視線を巡らす。すると、帰りが遅いことに気付いたのか、いつの間にか雇い主がやって来ていた。
深緑の頭を雑に掻きながら、雇い主は膝を折り、王女に向けて言い放つ。
「困ります、姫様。彼女の雇用主は私ですので」
きっちりと整えられた長髪。蜂蜜色の、切れ長の瞳。そんな彼の美貌に壁際に控える侍女は見惚れているが、王女には通用しない。
「きょうだけでいいの!!」
一歩も譲らぬ王女に、雇い主は肩をすくめた。
「昨日もそう言いましたよね」
「だめっていわれた!! オリバーのけち!!」
はいはい、と一国の王女を雑にあしらいながら、オリバーはユイの左手を取った。ユイと目が合うと、蜂蜜色の瞳が緩んだ。
「彼女なしでは眠れないので」
煌びやかなシャンデリアの下、右手を王女、左手を雇い主である年上の男に握られ、優衣は苦笑する。
日本で普通に暮らしていたのに、どうしてこうなったのかしら、と。
安眠をテーマにしたお話です。
週1更新を目指して書いていきたいと思います。