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<--冒険者になりたい人達-->  作者: nanasino
7/21

第7件目 『 縁の巡りに 』

※注意※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、事象とは無関係です。







「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「!!!!☆★”#$%&■△∵&%$”○:$%#!!◆lt;〆★Å※††††!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」



「!!!━━━━━━━━━━」




 殺到した小柄な人影達のわめきが足元にひしめいてやかましい。

 ゴブリン共はこの闇夜の森の中で一切の迷いなく一斉に俺目掛けて駆けつけた。

 先手を取るどころか俺は最初っからこいつらに見つかっていたのだ。ゴブリン共が夜目が効くとか嗅覚が鋭いとかいうことを俺は無論知っているが、こうも先に居場所を知られているのはおかしい。こちらから魔法で呼び寄せた魔物とはいえ、なぜ最初から俺個人が囲まれてしまうほどに位置がバレているのか。

 そのことに驚いてしまって俺は初手で投げつけるつもりだった石ころを構えたまま倒木の上で動けずにいる。




(━━━━━…そうか、あいつ…)




 これは誤算だったが、俺はすぐにピンときた。あの魔法少女の”魔寄せの魔術”はそういう、俺個人を目掛けてゴブリンが集まってくる魔法だったのだ。単にゴブリンをこの場に呼ぶというだけではなくて。

 

 これは会話不足…というか、そういう説明なかったぞあのチビっ子。こういうちょっとした細かい説明不足が命取りになるから勘弁してほしい。ともかく俺の立っている倒木の真下は縦ノリのゴブリン共で大盛況の有様ですっかり囲まれてしまったのだった。


 狂った野犬の切望するような唸り

 餌の時間に集まるアヒル共の狂喜の喚き

 酔っぱらった若者達が叫ぶ無意味な咆哮


 そんな感じの不協和音がごちゃ混ぜになったような群声で耳障りだ。いつまでもキャーキャーガーガーポーポーうるさい。倒木の周りをウゴウゴしているゴブリン達の姿は違法魔薬物で気が狂いっぱなしの奴らを見ているみたいでキリがなかった。




「…ん?…早く登ってこいよwムカつくな!」




 見ていてもどかしくて笑えてきたけど俺は半分キレてる。ゴブリン共はなかなか俺の用意した土俵まで上がって来る様子がないのだ。

 さっさと倒木の上まで登ってきてくれれば戦い易くていいのだが、倒木の幹周りは大人の背丈を超える程に太いので小柄なゴブリン共が飛び乗るにも這い上がるにもちょっと頑張ってもらわねばならないみたいだ。がんばれゴブリン上がってこい。


 そんなわけで俺はゴブリン共を眺めまわす余裕が随分ある。

 俺はゴブリンを見ると毎回思うんだが、こいつらは見た目が人間とけっこう似ている。

 姿が人間に似ているからといって殺すのを躊躇う人も稀にいるくらいには似ている。


 だが人間と見間違えることはない。ゴブリン共の体型や容貌は個体差がかなりあって極端なくらいである。牙や角や尻尾が有ったり無かったり、頭がデカすぎたり小さすぎたり、耳や鼻がデカすぎたり小さすぎたり、肩が上がりすぎてたり下がりすぎてたり、首がなかったり、やたら猫背だったり、すごい出っ尻鳩胸、腕や足が短すぎたりと、部分的にどこか人間離れした骨格や肉付きの個体が多いので一眼で分かる。体色も様々だ。それに基本的に全裸。そして汚水と腐葉土と腐肉の混ざったような悪臭がするから何かふがふが臭くて全裸で奇声を上げていればそいつはゴブリンなのだ。中には人間と同じ背格好の奴もいるが、やはり全裸である。

 とはいえゴブリンの種類には色々あって衣類を着こなすゴブリンも居るのだが、今回のこの”漂流ゴブリン”という種は決まって全裸で例外は無いのだ。───というのが人からよく聞く一般論だから俺もそう考えている。以上の特徴からこいつらは全員ゴブリンと断定できたのだった。


 ただ、見ていていつも不思議に思うのは、こいつら漂流ゴブリンは全員小柄でヒョロっちい思春期の少年みたいな奴らばっかりなところか。人間でいう15才くらいの体格の個体ばかりだ。

 俺は田舎に居た時にもこの種の奴らを何度も見たことがあるが、しかし屈強な漂流ゴブリンというものは見たことがないし聞いたこともない。今ここにも人間の大人のような体格のゴブリンは居ないし、見たところ全員知能が低い。どこの地域にも山林にはたいがい漂流ゴブリンが居るし、その生息数はおそらく膨大だというのに、どういう訳だろう。


 ともかくそういう、どいつもこいつもヒョロガリで、同じ殺られ方ばかりする事からゴブリンは弱い魔物とされている。


 だが、こいつらはやる気だけはめちゃくちゃある。それは見ていて分かる。気違いじみた嬌声も猿かバッタみたいな飛び跳ね具合も害意剥き出して元気いっぱいだ。

 なんせ、ゴブリン達の目の前にいる俺はこいつら魔物にとっては食料なわけだから。それも、魔物としては最下層の”食われる者”━━━━━オークやトロルやドラゴンなど大型の魔物から喰われる立場であるゴブリン達が、その彼ら”喰われる者”にとっての喰い物である人間の血肉を前にして興奮しないわけがないだろう。


 ゴブリン達は全員、常に俺だけを見ている。

 俺という人間を一個の食べ物として見ているのだ。食べてゴブリンの血肉になり、糞便になるのが俺だという目で。


 その熱すぎる食欲の視線を一身に浴びる俺は心底こいつらを殺さなければならないと思った。

 ゴブリンのような弱い魔物からでも”食べ物”として見られていると、心に変な不安がさして背中が寒くなってくるのだ。

 だが、それこそが━━━━━




(その不安が、俺の力なんだよ)




 そうして自分の中の不穏な”力”に気付いたところで、やっとこせ幹をよじ登ってきつつあるゴブリンを見つけた。

 ギラついた目で俺の顔を見ている涎ダラダラな1匹目のゴブリン。

 俺の体はそんなに美味しそうかい?

 俺の体は君の食べ物なのかい?

 そのハゲ頭を俺は手にしている石ころで思い切り殴りつけた。上から下への落差もあって衝撃は倍増である。石ころが頭骨を割って深く沈む深刻な感触と鈍い音━━━━━爆散した血肉と骨片が盛大に飛び散る勢いを俺は顔面に受けた。これは即死の手応え。まず1匹討伐。


 同様に登りかけの奴を3匹打ち落とした頃には幹の上に登りきったゴブリン達に前後を挟まれる格好になってしまったが、四方を囲まれるよりは随分マシだ。あとは2対1の繰り返しで済む。

 ゴブリンが下手くそに棍棒を振り回すよりも先に俺は間合いを詰めて左右の手に持つ拳大の石を顔面へ叩きつける。ゴブリンの奴らは身を躱そうにも倒木の上で横へは動けず背後も仲間が並んでるためつかえて退けず、石ころをまともに顔面に受けてしまい頭のない胴体が崩れ落ちた。


 背後から来るゴブリンの攻撃もまた棍棒である。倒木の上の戦いで一直線上に居るからには暗闇でも立ち回りに迷うことはなくて、俺は振り向きざまの勢いで左手の石ころを打ちつけてゴブリンの棍棒を払い除けた。その勢いのまま振りかぶった右の石で殴ると肩で受けたゴブリンは幹の上から転げ落ちた。

 仕留め損なったかもしれないが、ゴブリンは大きな外傷を負うともう立ち上がれないか気絶するか逃げ出してしまうから勝負はついたようなものである。




「おーし来いっ!うまくいった!」




 俺の下準備は完全に功を奏していた。

 懸念していたゴブリンからの投石は一発も飛んでこないのだ。どいつもこいつもちゃっかり棍棒を握ってぶん回しながら飛びかかってくるじゃないか。あれらの棍棒は全て俺が入念に地面へ突き刺してまわった大きな折れ枝なのだ。




「言葉のわからんお前らに言ってもアレだけど、素手で来られる方がよっぽどやり難いぞ?」



「「「「……………!!!!!」」」」




 怯んでかかってこないゴブリンを挑発するつもりで言ってみたが効果はなかった。言葉が分からなくても意図は通じるはずだが、5匹も瞬殺されると群れに動揺が広がってしまうのか勢いが止まってしまっている。既に仲間の血臭が立ち込めて生臭く、ゴブリン達は機敏に劣勢を悟ったのだろう。


 だが俺の言ったことは実際、複数のゴブリンから一斉に掴みかかられると身動きが難しくなり厄介なのは本当だ。

 が、しかしゴブリンという魔物は石ころとか棒切れとかそういった、獲物をぶっ叩くのに手頃な物体を見つけると必ずいちいち手にとってしまう習性がある。だから俺は棍棒を量産して地面に刺しておいた訳で、それがまんまと上手くいっている。


 で、しかもゴブリンというのは事前に石ころを両手に持っていたとしても新たに棍棒が落ちてればやっぱり拾ってしまうのだ。だからその時に、石ころは全て手放してしまうという訳なのだった。

 そのくせ重い棍棒を振り回す腕力はというとそんなに無い。振るのが遅いし狙ってくるのは必ず頭だし躱すのが容易だ。


 そういう、俺が田舎でやっていたゴブリン討伐で得た知識を総動員して張り巡らした罠が全て綺麗に当て嵌まった瞬間が今だった。これはもう”勝ち”でしょう。既に無傷で5匹討っているこの流れをゴブリンが変えられるとは思えない。

 この罠にはまだ続きがあったのだが━━━━━




「もう終わりだよなぁ…。こねぇわ」



「ヒギッ」

「!!」

「ギャぎゃッキャ!?」



「上手くいきすぎたな━━━━━」




 半歩、足を踏み出した俺に恐れをなしたゴブリン達は一斉に逃げ散ってしまい、あっという間に辺りは静かな森に戻ってしまった。


 襲撃の余韻が残る空気に浸って、俺はまだ倒木の上から降りずにいる。

 俺が倒したのは6匹だからまだ14匹は元気なゴブリンがいたはずで、それらが一斉に全部逃げ出すのはちょっと意外だった。数の上ではゴブリン達がまだまだ圧倒的に優勢なのだが━━━━━


 ところが、それがそうでもなかった。そろそろと倒木から降りて地面を調べると、倒れ伏して気絶しているゴブリンは全部で12匹もいたのだ。 ちなみに、俺の攻撃を肩で受け止めたゴブリンの左肩は左胸の奥にめり込んで心臓を潰しているみたいだった。我ながら自分の腕力にゾッとする。




「…やっぱりめちゃくちゃ上手くいったな。どハマりだわ。…拍子抜けだけど」




 あっけなかったが、俺は予想以上の結果に満足だ。これはもうゴブリン討伐のたくみを名乗ってもいいんではないか。

 身に覚えの無い7匹の死因は俺が彼らに提供した罠の続き━━━ゴブリン共が握りしめる匠棍棒の成果なのである。

 興奮したゴブリン達はやたらめったら棍棒を振り回すので仲間にめちゃめちゃぶち当ててしまうのだ。つまり7匹は同士討ちで死んでいる。




「大きな太い枝で作った重い匠棍棒。当たれば衝撃はデカかったみたいだな。という訳で12匹の討伐ウェ〜イ!」




 さてここからが楽しい物品漁りとなる訳だがどいつもこいつも全裸でやがる。漂流ゴブリン種は基本的に全裸ね。やっぱり間違いない。裸のやつが道具なんて持ってるわけもなくて12匹全部調べても何にも持っていやしねえ。それでも稀に指輪やネックレスを拾って身につけてる生意気なゴブリンがいたりするのだが、今回は無し…。


 俺は渋々、ゴブリンの片耳を引きちぎって持って帰ることにした。

 魔物の死体は特殊な処理をしない限りは半日も経たないうちに灰のようになってボロボロ崩れて消えてしまうから、持ち帰った耳もすぐに消えてしまうだろう。討伐の証拠に提出するにはこのままギルドに直行だな。




「━━━魔石は?取らないんですか?」



「おっ!びっくりした。…?…君、気配がないよね……」



「あ、すみません。まだ魔法が…ヨショ!はい。魔石取りましょう!」



「!!━━━━━…」




 のそっと茂みに立っている魔法少女の白漠はくばくとした虚無の気配に驚いた俺だったが、少女が杖を少し動かすと存在感があらわになった。

 それは魔法で気配を消していたんだろうが、それも跨がる杖から降り立ったところを見るとどうも上空から俯瞰で俺の戦いを見ていたらしい。


俺が彼女に驚いたのはそれだけでは無いのだが、━━━━━しかしともかく魔法少女は魔石の採取を急かしてくる。

 そんなに欲しければ勝手にどうぞって感じなのだが、たぶん俺が倒したゴブリンということで遠慮でもしてるんだろう。俺が首肯して促すといそいそとゴブリンから魔石を掘り当てて、指の爪くらいの大きさで歪な形状の魔石の粒を黒い小袋に集めてゆく。


 俺はこの魔石───とくに”魔原石”ってやつが苦手だ。魔原石は魔物の体内に必ず在るとされている結晶で、価値あるものには違いないから採取した方がいいんだが、ゴブリンの体内のどこにあるのか調べるのも面倒だし俺はいつも無視している。

 ゴブリンの体内のどこに魔原石があるのかは個体によって違うし、探り当てるには経験と勘が必要で難しい。色と形状が不定形で見た目の特徴が分かりづらく、輝いてもいないから骨か石ころみたいな物体で見分けも難しい。俺が魔原石や魔石を避ける理由は他にもあって、それこそが重要なんだけど━━━━━


 それにしても魔法少女は手慣れている。ゴブリンの死体に近づくと魔法杖を動かして何事か呟き、ゴブリンの全身をすぐさま灰にしてしまった。これもおそらく魔法で死体を灰にしているんだろうが、こういう面でも魔法使いは常人より有利なのだ。その残った灰から汚い魔石粒を見つけて拾い上げている。俺の方を見て自慢げな顔だ。簡単でしょ?と言わんばかり。


 俺はそんな魔法少女に返す表情が分からなくて相槌も打たなかった。

 この少女は何の為に魔原石なんてキモい物を集めているのだろう。最初からこれが目当てだったのだろうか。

 金貨片3枚もの報酬を提示した彼女が俺のあっさりしたゴブリン討伐を見て満足したかどうかは疑問だし、まあやっぱり魔石目当てだったんだろう。


 だが、魔石の価値の相場がどれほどかは俺は詳しく知らないが、おそらく金貨片1枚にも及ばないのではないだろうか。

 それに魔石の原石というのは換金しようとしても一般的な商店では扱ってくれない。


 それが、俺が魔石を嫌う理由に繋がる。魔石━━━特に魔原石を所持していると、人間は心身に異常を来す場合が多い。多分それが理由で、魔石を加工した品だけしか一般市場には出回らないのだ。

 だから魔原石を売るには専門の買い取り業者などを通す伝手が必要とかで、どこでどうやって取引されているかを知る人は少ないらしい。俺の周りでは聞いたことがないし、追求して探るのは魔界に縁ができてしまう非常に恐ろしい不吉なことと隠避されているから知らない方がいいのだろう。


 噂では魔原石の取引は魔族との交渉で成り立っているというのが巷の流説だが本当かどうか。まあ言ってみれば魔原石は裏社会を通さないと貨幣に換金できないキワモノなのだ。

 魔族は魔物とは別種の知恵ある奴らだが、中身は魔物と変わらない厄介な奴らである。ゴブリンのような魔物と同様に人間を食料にしているから人類の仇敵だ。

 だから普通に考えたら、人間を食料にして喰う魔族と交渉とかそんなの無理だろう。嘘っぽい。


 という訳で魔法少女の得体の知れなさに不穏なものを感じた俺が怪訝な顔をして黙っていると、魔法少女は何だか困ったようなしょんぼりしたような感じになっているから何か声をかけてやらないとと俺は気を回した。




「ゴブリンはどうだったんだよ?」



「ん〜〜〜あの、なんか、あっという間すぎて…どうして、こんなに簡単に……?」



「ハッハ〜w…だよね。作戦が上手くいくと、こんなもんだよ。派手な戦いが見れなくて残念だったね〜♪」




 魔法少女が戦いについて何も分からないなんて事はないだろうに、俺の立ち回りがどういう流れだったかはよく見ていなかったのだろうか。その辺は意外だったけど、うーんやっぱり見た目通り子供なんだろうかこの少女は。

 ともかく魔石の採取について問い質すのは止めておいた。たぶん聞かないほうがいいし知らない方がいい。興味はあるが。

 ともあれ、これでもう用は済んだから俺はさっさとユピテリアの街へ帰って飯でも食うことにした。腹減ったっしょ。




「じゃ。またどっかで」



「え?あ、━━━━━」




 という感じで俺はあっさりその場を立ち会って魔法少女とはお別れした。

 出会いと別れってのは、俺は運任せだ。縁があればまた会うだろう。

 魔法少女はまだ何か言いたげだったが、また会ったらその時に。

 だって腹減ってるからね。






▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽






 倒木の樹冠が示す先━━━━━ユピテリアの街まで一直線に、それも猛烈な本気走りで森を脱出した俺はもう山野を抜けた先に広がる広大な畑の農道を突っ走って街の外堀にまで辿り着いている。めちゃくちゃ急いだからほとんど数分だろう。


 暗い静かな夜の橋の向こう、堀の内側には街を囲う高い外壁が連なり、その街囲いと堀の間の狭い土地には小さな灯りが点々と灯っている。

 金がなくて宿も取れず夜間の街に居場所のない食い詰め者たちが集まってぐだぐだしているのだ。ここで野宿して夜を明かす者が多いみたいだが警備上問題ないのだろうか。


 その貧客を目当てに小さな屋台などちょこちょこ出ており、その軒先に掲げた小さなランプの明かりに彼らは集まっていてそこそこ賑やかだ。

 炭火が肉を焼く旨そうな料理の香りが漂っていて俺はめちゃくちゃ食欲が限界にきて居ても立っても居られない。橋を渡るのに警備の兵士が怪訝な顔をして何か声をかけて来たが俺は無視して屋台に直行すると、どの屋台も亭主一人が担いだり荷車で移動するような小さな組み立て式の屋台である。そこに火鉢などがあって肉を焼いたり鍋でスープを作ったりしているのだ。




「なあなんか食いもんくれよ」



「おう兄さん。うちは串焼きしかねえよ。安いぜ?」



「それ何の肉?旨そうやん」



「獣だよ。魔獣じゃあねえから大丈夫だ」



「…お、おう。じゃあ、まず1本くれ」



「金わい?先に払えよ」



「あぁ先払いか。金は…これじゃあダメか?」



「オメェ、これぁ…ゴブリンの耳か。きったねぇ。こんなもんじゃダメだ」



「ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜????」



「「「「「「「「wwwwwwww」」」」」」」」




 俺と亭主のやりとりを見ていた周りのうらぶれ者たちから爆笑が起こった。みんな汚ったない身なりで薄汚れてて歯とか抜けてるしダメだこれ。

 でも知ってた。無理だって知ってた俺。でも俺にはこれしか財産ないから。しゃーねえな。

 でもやっぱり魔法少女から金貨もらっとけばよかったなと俺は後悔した。




「ほい、兄さんほれ。食いな」

「おう、俺からも1本やろう」



「!?お、マジで!?いいん?じゃもらうわ!ありがと!」

 


「酒はどうだ?いけるか?」

「どっから来たんだ兄ちゃん」

「お前さんも随分と汚れてるな」

「ほぉ〜ゴブリン退治して来たんケェ?ずいぶん倒したなぁ」

「若いのにやるのう」



「━━━うめぇ!…うま!…うま!!…おじさん、これ、世界一ウメェよ!」




 謎の串焼き肉は超絶上手くて俺は人生で一番この串焼きが美味いと絶賛した。たぶん牛とか豚とかの端肉の肉ともいえない脂身ばかりなんだろうけど、めちゃくちゃ美味い。塩辛く味付けしてあるのも最高だ。俺が褒めれば褒めるほど亭主は上機嫌になったし宿無し達も集まって来て大いに盛り上がった。街壁の下の暗がりも悪くないじゃないか。


 彼らは若い新入りを面白がって喜び、やたら飯を奢ってくれた。

 酒は飲めないので酒気を飛ばした葡萄や麦のジュースを水で薄めたらしいやつを飲むんだがこれも美味くてますます食が進む。シュワシュワする喉越し最高だ。他の屋台から奢ってもらったのは焼飯とかスープとか煮物とか色々だが中身が何かはどれも全然分からなかった。でも腹が減ってたら何でも美味いのである。


 俺は彼らの質問に答える余裕がないくらい料理をたらふく食っていて、その間に彼らが話す雑多な会話━━━俺の若い頃はゴブリンなんぞ━━━━━あちこち旅をして━━━━━とかにいちいち相槌を打って聞いていた。酔っ払い達の嘘か本当か分からない武勇伝は尽きることがない。だがその中の一つの話題が一同の空気を変えた。




「おう、ゴブリンと言えば、アレよぅ。なぁ?」

「そうだぜ、たった今ぁ、西門の方じゃ大騒ぎだがぁ…お前らは行かねえのかよ?」

「いやぁ俺も行きたいよ?でもあれだろ?この前の戦で〜膝に〜矢を受けちまってよう?」

「俺はもう眠い…」

「疲れるんだよね」

「お前らは魔物が怖いだけだろ」

「おぅそうだ。もう降魔ヶ刻に迫る刻限じゃねえか?安息日は終わりだ」

「屈強な魔物が蠢く深夜の森や山など、捜索は冒険者共の独壇場だろうな」

「そうでもない。報酬の特賞に聖石が掛けられただろ?あれ、とん~でもない高額らしいから役人や領主も動くぞ」

「ほう。すると〜軍隊や騎士団、武家の連中まで西の森に集まるんか?」

「もう行ってるだろうな。現に今、この街のこっちっ側はもぬけの殻みてぇに静かなもんだろう」

「ウンウン。確かに静かだ」

「この東門側の区画は特にな。反対側だからよ」

「やる気のねえ奴らしか残ってねえのよな」

「♪やる気ぃのぉ〜おぉ〜無い〜〜やる気のぉ〜〜〜無ぁ〜〜い〜〜〜〜漢ッ♪」

「♪下緒の垂れたぁ〜〜ヒョウエ〜殿♪気ぃまぐれ〜〜〜ひとつ♪」

「♪剣ぃのぉ〜〜錆びぃ〜〜にぃ〜〜〜♪剣ぃのぉ〜〜錆びぃ〜〜にぃ〜〜〜っと♪」



「…」




 何だか街は騒ぎがあったみたいで、それが西門の方に集中しているということらしい。

 気になる。冒険者として気になるぜ。こうしちゃいられねえ。

 俺は十分に飯を食ったし、歌い出した酔っぱらい達にこれ以上付き合ってはいられない。確かな情報を得るためにギルドへ向かうべく屋台を後にした。ゴブリンの耳もさっさと提出して、僅かな報酬を頂こうじゃないか。


 というか俺は気づいたのだが、ここは東門なのだ。

 俺は確か西門から出て西の森のゴブリン退治に向かったはずだが結局反対側の山中まで迷い歩いていたらしい。そういえば行きにはあんなデカイ農場なんて通らなかったか…やれやれだぜ。







nanasinoななしの twitter

https://twitter.com/lCTrI2KnpP56SVX


この連載は本編の外伝的作品としての物語です

本編はこちら

<――魔王を倒してサヨウナラ――>

https://ncode.syosetu.com/n9595hc/

よかったらどぞ


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