第13件目 『今日から君は』
※注意※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、事象とは無関係です。
『『『『『『『『『………………………………』』』』』』』』』
魔物の群れは集まりつつも”勇者〜ず”に迫ることなく、様子を伺うかのように遠巻きに蠢いている。
自分たちが獲物を奪っていい”位”の相手ではない、自分たちはそこに立ち入っていい魔力ではない、と、無思慮なはずの魔物達が遠慮をするほどに次元の違うバケモノ達がそこに立っていることは逆に魔物除けになっている。
「「「「━━━━━━━━━」」」」
モエーが大地に突き刺した杖の先の魔法灯明が広々と照らす周囲━━━そこに見える異形の魔族の姿はおよそ9体。それが今この場にいる”勇者〜ず”4人から見えるだけの異形達だが、もっといるかもしれない。
そんな風に思えてか”美味しさ冒険隊”は慎重に初動の戦機を伺い動かずにいるのだが、しかしそれだけで動かないのでもない。
魔族達のその気配は”勇者〜ず”にとっても異常と思えるほどなのである。
目の前にいる異形の魔族達の姿が歪に動いて変化し続けながら立っている。
金属のような裸体の四肢の刃のような煌めき━━━━━
青黒い裸体の全身に白くヒビ割れた模様の蠢く有様━━━━━
奇怪な頭や手足を幾つも増やし、無数に触手や毛羽を伸ばして人の形状すらない者━━━━━
角や翼、牙や獣爪を伸ばす、それらの色も形も脈々と鼓動するように変化してはまた全く違う姿を見せる。どの個体もそんなめちゃくちゃな変化を続ける外見で、一眼で人類以外と分かる禍々しい姿。それでいて虚無を見るかのように立ち尽くしている顔貌からは生物の意思というものが感ぜられない。
”美味しさ冒険隊”4人は魔族のこの状態が果たして隙と言える瞬間なのかどうかも怪しくて動けないでいるのだ。
「(モエーさん、これは…こいつらは…?)」
「(黙れ。魔族だろ。動物や人間に見えるかよ?)」
「(こんなの、見たことない。亜人にもいないよ、こんな…)」
「…」
このバケモノ共はなんなのだろう━━━と声を潜め、見れば見るほどに全員の足は動かなくなっている。
知ろうとするほど”それ”から感じとれるものがあって、今近づいてはならないと思えて。
異形達の姿の異常、その姿形をバケモノにしている何かがあるような、魔族達以外の恐ろしい”何か”までもがこの場に居ると感じて”暁を駆る5連星”は動けない。
目には見えないが魂が感じる、異質な存在感そのものがこの場に”在る”と。
見えない存在という、普段は人々が意識しない超常の意思の塊が世界に”在る”ことを”勇者〜ず”4人も知っている。
知らない者はいないだろう。
この世界は、この世界を生きとし生ける者達はその縁の中に生きている。
そのことを普段は知らないふりをして生きている。
あらゆる事象には”そう在る”という力がある。
その力の源。
その力を預かり、行使する権限者。
魔族を魔族と、異形たらしめている魔力そのものの根源を司る魔法の元締め。魔界の眷属神━━━━━その眷属。
知恵と能力を欲する人類に惜しみなく魔術と魔法を授ける眷属。
だがそれは与えるばかりではないという事なのだろうか。
欲して得た魔力が人を歪な魔族に変えてしまうなら、それはどういうことなのだろう。
茫漠な力そのもので在る不可知の眷属。
この世を超越した未知なる存在は、敵なのか、味方なのか━━━
そう考えを凝らしてしまうほどに、この魔族達が俯いて立ったままで動こうとしないのも奇妙な時間だった。
『『『『『『『『『………………………………』』』』』』』』』
「「「「………?」」」」
”暁を駆る5連星”4人は魔族と遭遇するのが初めてではないが、しかしせいぜい三度四度の遭遇といったところで経験が豊富というわけでもないからこれらの魔族の形態も態度もどういうものか分からない。
魔族がこのように魔界の姿を顕すのは稀なことか、もしくはかなりの強者であって己を”魔族”と強示する魔貴族達だけだろう。━━━というのが”勇者〜ず”という若者達の認識で、人から聞いた程度の知識ばかりだからそう思う他ないのだ。魔貴族という魔族の長たちは、己の魔業を誇り、喧伝のためにも魔界の姿で”魔族です”と憚らない示威的な奴ら。悪ふざけのように戦意剥き出しで、その強大な魔力権限による無詠唱思念魔法を駆使して一瞬で人類を殺す危険な奴らなのだと。
だから目の前の魔族達は様子がおかしい。
おかしいと思えたからこそ4人は”その事”に気がつけた。
この魔族達と、その足元の冒険者達の死体を見ているうちに徐々に解ってくる事実が。
魔族の始まりを見ているのだ。
噂ばかりで謎とされていた魔族の起源の一端を今見ている。
それにはさっきまで捜索魔法の裏切りという流れと、魔法使いルーローの話があったから気がつけたこと。
━━━━━冒険者したい
という、それだけだったのだ。”彼ら”には。
冒険者ギルドに集まる多くの登録者達の動機が、そんないっときの冒険心。
今日生きていく金銭を稼ぐため。
今日食うため、今日寝るために必要な報酬を得るため。
明日も、明後日も、その先もしばらくは━━━━━と、人々は冒険に身を委ねてゆく。
それは何も、冒険者ギルドに寄せられる様々な種類の案件に頼る必要なんてないはずなのだ。
村や町や街道に出現する魔物はいくらでもいて、それらを討伐する仕事は別にギルドの窓口に頼らなくても傭兵団や隊商が直接雇用もしている。
単に生活のための金だというなら、何も魔物と戦う必要すらない。
穀物や野菜や鶏や牛豚といった農作物の生産や、衣服に食器に家具といった生活に必要な雑貨の製造、薪や炭や油などの燃料資源の採取、新規事業の研究や開発や、法律や政治や行政に関わる折衝や警備や交通機関の整備や土地の工事や廃棄処理や事務手続き。人口の密集する都会であれ辺境の田舎であれ、多かれ少なかれ人と関わることで金銭を稼いで暮らす一般的な仕事はいくらでも何でもあるのだ。
特殊な暮らしでよければ、人と殺しあう戦争軍人、斎場を守る斎主に神官という生き方もある。血統権限を維持する王侯貴族になる事も人の縁次第では可能。
だが、ギルドに集まった冒険者たちは”その時”一般人であろうとはしなかった者達。
ギルドが取り次ぐ”案件”という、あらゆる組織や個人から依頼された種種雑多の単発仕事を成功させる事で得られる金銭や宝物などに加えて、目的や価値観を同じくする仲間達と冒険を楽しみたい者達。
企業や個人が自身で解決困難か、危険だったりして、それらの保証や責任や法律や世間体を排除したくてギルドに寄せられる仕事の依頼報酬は割が良い上に刺激的だ。冒険者達がその日暮らしを続けて行くのに不自由というほどのことはない。
その案件内容の7割が魔物討伐関連なのは良いやら悪いやら、なんせ魔物は世界中どこにでもいつでも湧いて出てくる冒険資源だから尽きることがない。
野を行き、山や谷を越え、大河や海を渡り、時には空の島へ飛び立ち、或いは地中のダンジョンへどこまでも潜って、そして外国の、そのまた外国へと、どこまでもどこまでも仲間達とずっとずっと旅をする。
知らないことを知って、見たことのないものを見て、聞いたことのない音、食べた事のない味、触れた事のない暮らし━━━━━
楽しい楽しい冒険。
それはいつまでもいつまでも続いて欲しい青春。
━━━━━そのはずだった。
気がつけば同期の古馴染みは周りに1人か2人。自分の得意とする案件で見かける顔ぶれは新顔が5割、馴染みが3割になる。後の2割が何処の誰だか分からないという具合になる。
皆んな、それぞれが何処かで冒険者から足を洗う。
怪我や病気や妊娠結婚、専門職への就業、様々な組織からの特殊採用、死亡や行方不明とかで冒険者ギルドから居なくなる。なかには冒険が嫌になっただけの奴もいるだろう。
じゃあそれでもギルドに残ってる奴らはなんなのか。
馬鹿か?
一生青春したいワクワクさんか?
それとも、冒険者ギルドに囲われる冒険業の本職━━━魔物討伐の強者か。
或いは━━━━━━━━━━━
『魔界転生』
人類の言葉でそう溢したのは1体の異形だった。
異形に造形を変化させ続ける魔族達の姿は一定の形に定まり始めている。
目の色にも変化が現れて、光のない意思がそこに蘇るかのように何かがまた変わった。
『━━━魔族。か』
『俺は…この姿は…』
『仕方がなかった。こうなるしか━━━』
『依頼を成功させるには、力と知恵を得るには、もっと魔力が必要で』
『もっともっと魔法を使えれば…強い魔物を簡単に倒して、仲間の怪我や病気をなんでも治して、そしたらもっと冒険を続けて…』
『冒険者でいたかった…行き着く先が、これでも』
『だから、供物が必要だった。魔力を頂くために、眷属様への捧げ物が…だからもっと借りたんだ!魔力を!それなのに…』
流暢な人類の言葉を話す異形の者達は項垂れるようにして自分自身を観ている。
足りなかったのだ。
借りても借りても返しきれない、冒険者自身の求めに応じて貸し付けられた魔力と権限に課せられる供物の滞納━━━━━
その契約不履行につき、魔法を司る眷属達の取り立ては━━━━━死か、魔籍か。
その2択を迫られた時、冒険にすがって生きてきた彼らに死は選べなかった。まだまだ、自分にはやりたいことが、冒険があるはずで。
『だから殺した』
『仲間を。自分を殺した』
「━━━”大切な命”で支払ったのね。眷属に」
「…それで、まだ冒険って…次は誰の依頼で、どんな冒険を?」
『『『『『━━━━━』』』』』
刃を向ける新人勇者達の問いかけに、異形の者達は暗い顔を上げた。
光の無い眼を虚に彷徨わせる彼らは人の言葉を理解できる。生前の自分の全てを引き継いでいるからだ。
『新しい冒険が始まるの』
『魔界だよ。そう、悪者の役目を…魔族になったんだ』
『さっき言われたから。魔界で、魔神様から…”今日から君は”って…』
「…それって自覚あるのね。いっそ自分で死んでくれない?面倒なんだよ!倒してまわるの」
「そうですよ。効率よく、お願いできませんか?まだ人の心が残っているうちに…」
「成仏してね!」
「…」
『━━━どうやら、俺たちは自殺できない』
『私たちの命も体も、私たちのものではないの…』
『お前達は勇者だったな。じゃあ殺してくれ』
『そうしないと、殺してしまう』
『命を狩って、上納しないと、私たちが喰われてしまう。だから━━━』
「そう。知ってる━━」
四肢四十指が剣に変化した異形の魔族が振るう刃は草木を滅ぼすように薙いでゆく。
その魔族が魔族として動き出した時には既にモエーの短刀二振りが一体の異形の右脇を深々と抉り貫いていた。黒血とともに一塊の魔石が吹き出て地に落ち、魔族も崩れるように伏して動かなくなった。
魔族討伐の経験者にしかできない急所を狙った一撃必殺。躊躇いのない太刀取りのモエーに表情の曇りは全くない。
ウーアが両手の眷銃の引き金を引き掛け、ミルコが担いだ剣を振り下ろす軸足の力を踏み込みへ移そうとした時━━━━━
《魔族━━━という、食人の凶敵を勇者は無視せざるるなり。勇者の宣名は討魔一生を意味する、意思、志の宣誓である》
《その者、陽に勇ありて、陰に討魔の因あり。浮き世の裏の理に司り魔族撃滅に執す。》
《人の世の儚き理不尽に、逃れ得ざる魔手の悪辣に、抗う者なり》
『━━━━━そう書かれている。この本に。その通りなのかニャ?』
遠くから聞こえるのに囁くような声━━━
勇者〜ず4人は頭上から降ってくる不思議な声に驚いて顔を上げると、箒のような何かに跨る者が遥かな樹冠の隙間に見える星空から降りてくるのが見える。
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この連載は本編の外伝的作品としての物語です
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<――魔王を倒してサヨウナラ――>
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