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45Lの追憶

作者: 34

夜10時。仕事から帰ると、昨日まで整然と並んでいた家具や小物がちぐはぐなことに気づいた。


妙にすっきりしたテーブルには、水色の付箋が貼られていた。


「さようなら 今までありがとう」


とだけ書かれたそれが、キーホルダーもついていない鍵に添えられて。



今日は彼女が引っ越していく日だった。3年間、2人で歩いてきた人生を、またそれぞれで歩き出す日。


原因はずっと分かっていた。けれど、何も言わない彼女に甘えてしまっていた。



ほとんど1日で荷造りを済ませて行ったとは思えない程、彼女のものだけが綺麗さっぱり無くなっていた。まるで最初からいなかったかのように。


その見事さからか不思議と、思っていたほどは気持ちが落ち込まなかった。



ひとまず空腹を満たすために棚からカップ焼きそばを取り出し、周りのビニールを外し、そのビニールを丸めてゴミ箱へと投げ込む。


そこでふと、ゴミ箱に入っていた丸められた粘着テープに目を奪われた。


いつもなら気にも留めないものだったのに。

ただそこに付いている彼女の長い髪が、異様に大事に思えたのだ。


思わず手を止め、しゃがみこんでゴミ箱を見つめる。


彼女の長い髪がついた粘着テープ。使い古され、掃除に使われたであろう靴下。彼女が好きだったスナック菓子の空き袋。


ただのゴミのはずなのに、そこには確かに2人で暮らしていた日々のかけらが残されていた。



冷蔵庫に貼られたゴミ収集カレンダー。明日は燃えるゴミの日だ。


このゴミは明日の朝捨てなければ。

分かっていたのに、そこにあるゴミをそのままにして、その代わりゴミ箱の横に新しいゴミ袋を置いた。


自分でも下らないと思っている。


でも、これを捨ててしまったら、彼女との生活が完全に無かったことになってしまう気がした。



今更元に戻れるなんて思っていない。もう二度と会うことも無いと分かっている。


だけど今の自分にとって、確かにそれは、自分が自分でいられるために必要なものだった。



あんなにも美しかった日々は今、このゴミ箱の中にしか残っていない。


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