雨の日にいつも俺の事を見下すゲス男(♀)を拾いました
俺は今同窓会に来ている。
煌びやかな内装に、豪華な料理、参加費が1人1万円もあってか、そこそこ豪華な同窓会だった。
みんな夢だった俳優、女優、中にはスポーツの日本代表など、みんな夢を叶え、新たな目標に向かって走り続けていた。
それに比べて俺は····················
「未だコンビニ店員かぁ」
俺には夢も目標もない。
安い時給で、金を稼いで、たまに同人誌などを出してそれで稼いでいる。
地味な人生だ。
「よっ、岳人。どうだ?夢、見つかったか?」
「ハハッ、未だコンビニ店員から卒業できてねぇよ」
こいつはイケメン完璧超人··········ではなく、夜雲。ただの人の皮を被ったイケメン完璧超人だ。
とても良い奴である。
中学生の時からの友人で、もう結婚もしている。
しかも大手企業に務めていて、今や幸せの有頂天。
俺からしたら彼方お空の人間だ。
学生の頃、一緒にラーメン食ってた時代が懐かしい。
「なぁ、やっぱりやる事ないなら俺の会社来いよ。社長からは俺からしたら言っとくし、お前ならきっとやって行ける」
「···············お前ほんと良い奴だな。女だったら絶対告白してる」
「嬉しいこと言ってくれるな、だったら」
「だけど大丈夫だ。なんだかんだ店長にもお世話になってるし、今の生活も結構好きなんだよ」
「岳人····················」
夜雲は本当に良い奴だ。
俺みたいなやつにいつも話しかけてくれて、心配してくれて、ずっと気にかけていてくれる。
普通たかが学生の頃友達だっただけの俺にここまで良くはしてくれない。
夜雲の優しさは嬉しい。だがそれ以上に、夜雲の期待に応えられなかったらどうしようという怖さが勝ってしまう。
要は臆病なのだ。一歩踏み出すのが怖い。
「おいおい、そんな奴いつまでも気にかけたって無駄だっての」
「あ、顔面偏差値だけは高いゲス」
「夜雲、お前なんで那岐にだけそんなに当たり強いん?」
こいつは··········スネ夫でいいや。
「よっ、スネ夫」
「岳人も大概だと思うよ」
「てめぇら喧嘩売ってんのか」
まァ冗談はさておき、こいつは那岐。
俺の事をいつも見下すいい性格(もちろん嫌味)の男。
「チッ、貧乏人の分際で」
「そーだよ、貧乏人だよ」
「はっ、わかってんじゃねぇか。仕事もろくにつけない、金もない、惨めだよなー。俺なんて親の企業を継げばいいし、金にだって困らねぇ。人生マジで薔薇色だよ。それに比べて、お前って本当に可哀想だよなぁ」
俺はこいつが嫌いだ。
昔から色んなやつに期待されて、褒められて、才能があって、優しい家族がいて、俺とは正反対の人間。
好きな物はいくらでも手に入るし、人脈もそこそこある。
でも、俺がこいつの1番嫌いなところは
「···············お前みたいに、金があってもつまんねぇ人生歩むくらいなら、俺は貧乏人で可哀想な人間でいいや」
俺に自分のことを自慢して、俺の不幸を笑うくせに、1番不幸で、辛そうな顔をしているのは、いつも那岐だった。
「じゃ、俺帰るわ」
「あ、おい!那岐の事なんて気にすること···············」
「そんなんじゃねぇーよ」
そう言って俺は会場を出ていく。
俺は会場を出る前に、那岐にたっぷりの嫌味を込めて
「幸せになれるといいな、那岐」
「···············なんだよ、それ」
俺はそう言って会場を出た。
§§§
あいつなんであんなに俺の前だと性格悪いんだろ。
顔も普通に凛々しくてイケメンで、女性陣からも普通に人気だし、なんなら男からも「笑顔がなんかドキッとして可愛い」とか言われて人気だし、俺以外の奴だったら普通に性格もいいし、学生の頃も悪い噂だって一度だって聞いた事がない。
俺あいつになんかしたか?
「コンビニ弁当でも買って帰るか」
会場に居ずらかったのはマジだ。
あそこマジで周りがキラキラして料理も高級なものばっかりでいくつか未知の味すぎて美味いかまずいのかすら分からなかった。
俺は正直このコンビニ弁当の方が上手いと感じてしまっている。
という訳で、今日は1人で映画でも見ながら、自分がどれだけ惨めか噛み締めるか。
自分で言っててなんか虚しくなってきた。
「お弁当温めますかー?」
「お願いします」
さて、後は帰ってゆっくりするか。
にしてもあの会場から俺のマンションまで本当に距離あんな。
タクシーで行くと高いし、かと言って車もバイクもないし、そもそも免許がない。マジでそろそろ原付免許くらい取ろうかなぁ。
すると帰る途中、誰かが道の済で体育座りで丸くなりながら何か唸っていた。
直感で理解した。関わったら絶対面倒くさい。
「····················おいあんた、こんなとこ居たら風邪ひくぞ」
「うるへぇ〜、ひょんなのおりぇのはっへらろ!」
「チッ、だいぶ酔ってんな」
ハー、なんで声掛けちまったんだろ。めんどくさい。
「ほら、タクシー呼んでやっから、自分の家わかる?」
「あー?おせっかいにゃんだよ〜···············がくとぉ?」
「あ?···············なんで那岐がここに」
「がくとぉ〜」
そう言って那岐は俺に抱きついてきた。
「····················は?」
「へへぇー、がくとぉ··········」
「お、おい、那岐、俺にそっちの趣味はねぇ。一旦離れ···············」
「おれをすてんのかぁ?」
「え?」
「うああああああ!すてないで!すてないでえぇ!!」
「ばっ!こんな所で叫ぶんじゃ···············」
すると近くの民家の明かりが着き、何にごとかと窓から人が顔を出し始める。
俺はやばいと思い、1秒でも早くこの場から逃げようと急いでマンションに向かった。
那岐がまったく離れてくれなくて、けっきょく那岐も連れてマンションに向かうことになったが。
途中雨が降ってきてびしょ濡れになりながら5キロ先のマンションまで
「おい!嫌がらせにしても限度があんだろ!」
「へへぇ、がくとのいえきちゃったぁ」
「人の話を聞け」
ダメだ、なんなんこいつ?
たった数時間前まで貧乏人とか色々俺の事バカにして見下してたじゃん。
俺の事ガチアンチだったじゃん。
まぁいいや、このままだと俺もこいつも絶対風邪ひく。
まずはとにかく風呂に入れて冷えた体を温めえねぇとやばい。
だって今真冬の12月だ。外土砂降りでマジで凍えて死ぬかと思った。
「おい、服脱げ」
「わー、岳人だいたーん」
「ぶっ殺すぞ」
喧嘩売ってんだろこいつ。
ズボンを脱がせようとするが、抵抗する那岐。
俺は無理矢理にでも脱がせようとする
「いいから脱ぎやがれッ!」
「あ···············」
「····················お前息子はどうした」
服を脱がせれば、可愛らしいピンクの女性物の下着がピッタリと水でくっついており、あるはずの膨らみはなかった。
「へんたい」
顔を赤くさせながらも、妖艶に笑う那岐が、俺の両頬を撫でながら、俺を見つめていた。
▲▽■▽▲
昔から確かに運動ができる割に、筋肉が全くなかったり、イケメンの割に妙に可愛かったり、なんかいい匂いがする事はあった。
だけど、こいつは昔から口が悪いし、喧嘩も強いし、男のように振舞ってたし、私服もスカートを履いてる姿なんて見たこと無かった。
だから俺は勝手にこいつが男だと思い込んでいた。
まぁそんな事どうでもいい。
問題は俺がこいつにセクハラして、その弱みを握られてしまったこと。
これから俺はこいつにどんな事をされるのか、一応那岐は抵抗してたし、それでも無理やり服を脱がせた俺は完全に犯罪行為をしてしまった。
言い逃れは出来ない。完全に詰んだ。
俺はこれから那岐に何をされるのか、焦りながら考えていたが
「···············」
「···············」
かれこれ30分、酔いが覚めた那岐は何も言わないし、なにかしてくる様子もなかった。
「俺、結婚することになったんだ」
「え、めでたいな」
「好きでもない、全くの初対面の相手でもか?」
「そう言われると···············でもさぞかし性格も良くて、イケメンなんだろ?贅沢言うなよ。俺なんて結婚相手どころか、彼女すらいな───」
俺がそんなことを面白半分で言っていると、那岐は俺の言葉を遮るように押し倒した。
「俺が、お前のことがずっと前から好きで、それでもお前は良かったって言えんのかよッ!」
「はぇ?」
「お前はいいよな!誰からも期待されなくて!自由に生きて!好きなことして!自分の行きたいところに行ける!でも俺は、俺は誰かの作った未来しかない!俺の人生は俺のものじゃない!俺は誰かの操り人形だ!お前の言う通りだ!金があって、みんなに期待されて、仕事もある。これは幸せだって自分に言い聞かせた!···············俺は、お前の言う通り可哀想で··········惨めだ」
そして那岐は両目から大粒の涙を流しながらわんわん泣き出してしまった。
那岐との付き合いはなんだかんだ長い。
でも昔から俺と那岐は正反対だった。
那岐は家族に愛されて育った。皆からの信頼も厚くて、周りの奴から期待されていた。
実際那岐は夜雲並になんでも出来た。小学生の頃だけじゃない、それは大学生になっても健在だった。
と言うかもっと凄くなっていた。
実際何度もテレビに出たり、海外のなんか偉い人まで那岐の元に訪れるようになっていた。
でもその貼り付けたよ笑みが、誰よりも苦しそうで、可哀想だった。
俺の父親と母親は俺を捨ててどこかに行った。
俺を育てたのはろくに目すら見えない祖母だった。
祖母は俺を愛してくれていると、そう思っていたが、祖母が愛していたのは俺の親父で、祖母は俺を親父と勘違いして育てていた。
結局俺は愛されていなかった。
親のいない俺は、周りから偏見の目で見られて、いつも独りだった。
それでも俺は好きなように遊んで、好きなように楽しんでいた。
愛されないならそれでいい。誰も見てくれないならそれでいいと、独りで生きた。
でも、大学生になってから夜雲が俺の唯一の心の拠り所だった。
そして夜雲と知り合い出してからだった。
那岐が俺に冷たく当たるようになったのは。
俺は色んなやつから期待されて、愛されてきた那岐が羨ましくて。
そのくせして誰よりも不幸で辛そうな顔をしている那岐が許せなかった。
だけど那岐は誰からも愛して貰えず、誰からも期待されずに突き放されて、孤独に生きてきた俺に嫉妬して、その癖心の拠り所を見つけた俺を許せなかった。
「俺の事、好きだって言ったくせに!俺の事幸せにしてくれるって言ったくせに!夜雲になんかに唆されやがって!」
「····················は?」
え、ちょっちょっちょっ、ちょっと待ってください。
····················え?
「誰が、誰に唆されたって?」
「お前は、夜雲と結婚するんだろ。俺の事騙しやがって!幸せにするって言ったくせに!」
「まず1つ、いつ俺がお前のこと幸せにするって言ったよ」
「小学生時代の肝試しの時だよ!」
「覚えてるかそんな昔のこと!」
確かその時は那岐が迷子になって俺が見つけてやった時か。
確かにそんな感じのことは言った気がする。
「だいたい、夜雲に唆されたってなんだよ!夜雲は男だろ!」
「あいつは女だ!!」
「······························」
どうしよう。俺はもう何からツッコめばいいのか分からない。
「いい加減答えを聞かせろよ!」
「なんの!?」
「お前が俺の事をどう思ってるかだよ!!俺はお前の事が大好きなんだ!俺の事をわかってくれて!俺の不幸を知ってくれて!さんざんお前に酷いこと言ったのに、俺が泣いてた時、お前が俺を慰めてくれた!そんなお前が大好きなんだよ!!」
慰めたって···············あー、そういえば高校の時こいつが屋上で泣いてんの見て相談相手になってやったっけ。
懐かしい思い出だ。
「俺は言った!お前はどうなんだ!?」
「··········」
頭を抱えるしか無かった。
今までそんなそぶりを一度も見せなかった那岐が、突然の愛の告白。
同情してやることは出来る。慰めてやることもまぁできないでもない。
だが、そんなんで那岐の告白を答えていいはずがない。
男なら真剣に考えて
「···············好きとか愛してる以外の答えだったらお前にセクハラされたってこと訴えてから首吊って死んでやる」
「もはや脅し!」
とは言ったものの、確かに訴えられたら確実に俺は負ける。
知らなかったとはいえ抵抗していたし、それを無理やり脱がせたのだ、どう考えても痴漢やセクハラ、性的犯罪に該当してしまう。
そして俺が精一杯考えて出した答えは
「ま、まずはお友達から始めませんか··········?」
その声は、人生で一番情けない声だった。