霊能探偵リコ
北神 リコは都内の公立高校に通う女子高校生だ。
彼女には彼氏がいた。しかし、その彼氏はリコの目の前で、フェンスに寄りかかった際に屋上から転落して他界した。
警察の捜査で、フェンスのボルトが緩んでいたことがわかり、死因は事故死と断定された。
病院の死体安置室で、リコは彼氏の遺体を見つめている。
すると、半透明の男子高校生が現れる。
「え?」
彼氏だった。
「リコ」
「拓也なの?」
「ああ。どうやら、俺は死んじまったみたいだな」
「戻ってきて。お願い」
「無理だよ。死んだ人間は生き返れないんだ」
「拓也、なんで……」
「あのフェンス、いつもはちゃんと固定されてたんだ」
「え、あの日だけ緩んでたってこと?」
「実はな、ボルトを緩めたやつがいるんだ」
拓也の姿が薄くなる。
「悪い。この姿を保ってられるも時間が限られてるんだ。また来るよ」
「拓也!」
消える拓也。
死体安置室を出ると、リコは帰路に就いた。
(ボルトを緩めたやつがいるって、拓也が言ってたけど、それって殺人事件よね?)
家に着き、考えに耽る。
(それだけ言って、あとは私に解決しろっていうわけ?)
リコは一晩考え込んだ。
翌朝、リコは学校に登校する。しかし、授業には出ず、屋上にいた。
落ちたフェンスの前には柵が仮設されている。
(そういえば、拓也はこのフェンスを定位置に寄りかかってたわ。ということは、ここに寄りかかることを知ってる人物が犯人?)
その時、屋上への出入り口で人影が動いた。
「誰!?」
振り返るが誰もいない。
人影を追ってみるが、見失ってしまう。
「ん?」
リコは階段のそばで髪留めを拾った。
(これって確か、B組の榊さんがつけてた)
リコはB組に向かう。
「なんだ北神? 授業中だぞ」
と、授業担当の教師が言う。
リコは教室内を見渡す。
「先生、榊さんは?」
「榊なら今日は休みだ」
「そうですか」
B組を出るリコ。
(さっき屋上に来てたの、榊さん? 榊さんはなんで屋上に……)
休み時間になり、リコは榊のことを彼女のクラスメイトに聞いて回る。
「あいつ、拓也に告って振られたらしい」
「榊さん、拓也のこと好きだったからな。振られた時はショックだったろうよ」
「拓也、榊と仲良かったし、優しかったから、惚れるのも無理ないって」
(榊さん、拓也のこと……。ふーん)
リコは榊の家を訪ねる。
榊の母が出てくる。
「北神さん!? 学校どうしたの?」
「法子さんいますか?」
「法子は学校に行ったわよ」
(お母さんはなにも知らなさそうだね)
「ありがとうございます」
リコは榊家を後にすると、再び学校へ戻り、職員室へ向かった。
「どうしたんだ、北神?」
「榊 法子さん、登校してるみたいなんで、放送で屋上に呼べないですか?」
「呼んでもいいが、なぜ屋上なんだ?」
「実況見分ですよ。お願いしますね」
リコはそう言って、屋上まで駆け上がった。
そこへ、校内放送で呼び出された榊がやってくる。
「北神さん、何かご用?」
「榊さん、拓也が亡くなったのはご存知ね?」
「ええ、先生に聞いたわ」
「私ね、拓也を殺した犯人を知ってるの」
「犯人? え、拓也は事故死じゃないの?」
「違うわ。フェンスのボルトが緩んでいたのが原因なんだけど、それを緩めた人物がいるのよ」
「……緩めた人物?」
榊の顔が険しい表情になる。
「そうよ。その人物は拓也がいつも寄りかかっている位置を把握しており、ボルトを緩めて殺害を決行したの」
「ふーん。で? その犯人は誰なの?」
「榊さん、あなたが犯人よ」
「ちょっと、何を言うかと思えばそんな出鱈目」
「出鱈目ではないわ。あなた、拓也に振られた腹いせに殺したんじゃないの?」
「こ、殺してなんかいないわ。確かに、拓也には気持ちを伝えたけど、なんでそんなことで人を殺さないといけないのよ?」
リコは懐から髪留めを取り出した。
「そ、それは!」
「これはあなたがフェンスのボルトを緩める時にそこの階段で落としたものよ。あなた、さっきこれを拾いにきたんじゃないの?」
「落としたってだけで、なんで殺したことになるの? そもそもボルトだって緩めてないんだけど?」
その時、黒いスーツを着た男が二人やってくる。
「じゃあ、ボルトについた指紋と、君のものを照合するかい?」
「なっ……」
振り返る榊。
男が榊に逮捕状を突きつける。
「榊 法子、殺人の被疑者として君に逮捕状が出てる。署まで来るんだ」
男が榊を連行した。
そして、もう一人の男が、「通報、ありがとう」と言い残して去っていった。
リコは屋上の縁から、地上を見下ろした。
(お休み、拓也……)