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第七章 搶禍空忍

「なあ、いい加減、機嫌なおせって!」

 満天丸が言った。

 それでもまだ、百々丸の怒りはおさまらない。

「だいたい、毎度毎度、考えなしの行動が多すぎるよ!」

「そんな先のことを不安に思うより、まず動くことが大事だろ?」

「そういう問題じゃなくて!」

「まあまあ」

 さすがに見かねた剣豪丸が二人の間に割って入った。

「そろそろ腹も減ってきたことだし、人間、腹が減ると怒りっぽくなるからな。ここらで臥龍童子が用意してくれた弁当でも食おう!」

 剣豪丸は、そう言うと、懐から、弁当の包みを取り出した。

「ホラ、本人も反省して、こう言っていることだし」

 満天丸も百々丸をなだめるように言った。

「まあ、剣豪丸さんが、そこまでいうんなら、食べるけど…」

「あ。ああ」

 剣豪丸は、そう言うと、二人の弁当を、それぞれに渡した。その顔には、あれ?なんか、俺が悪いみたいになってないか?という疑問は浮かんでいたが。


「わあ!スゴい!」

 包みを開けた百々丸が驚きの声をあげた。

 包まれているときには、小さく見えたのに、開いてみると中には、たくさんの食事が入っていた。焼き魚に煮物揚げ物、厚焼き玉子に、おにぎり。ちょっとした幕の内弁当だ。

「いっただきま〜す!」

 百々丸は、そう言うと、さっそく箸を持った。

「まずは、やっぱり、コレかな〜!」

 百々丸の箸が、きれいな色に焼けている厚焼き玉子に伸びる。

 その玉子が、百々丸の口に、まさに入ろうとした瞬間、玉子焼きが姿を消した。

「?」

 百々丸は、ちょっと不思議そうな顔をしたが、気を取り直して、今度は、里芋の煮物に箸をつけた。

 それも百々丸の口に入る前に、パッと姿を消す。

 二度も続いたおかずの消失に、さすがに、気のせいではない、と気づいた百々丸が、満天丸に向かって言った。

「ちょっと!満天丸さん!ちゃんと自分の分もあるんだから、ぼくのおかずを取るのやめてよ!」

 少し離れたところで、自分の弁当を食べていた満天丸が、けげんな顔をする。

「一体、何の話だ?おいらは、何もしてないぞ?」

「まったく!しらじらしいよ!今度やったら、ぼく、本気で怒るからね!」

 百々丸のあまりの剣幕に、満天丸はキョトンとした顔をする。

 三度、箸を取った百々丸は、今度はエビの天ぷらをつまんだ。

 今度こそ、口に入るか、と思ったとき。

 パッ

 やはり、天ぷらは、その姿を消した。

「もう!いい加減にして!」

 怒りで顔を真っ赤にした百々丸が満天丸に詰めよる。

「だから、さっきから、何を怒ってるんだ?」

「とぼけても、ぼく、わかってるんだからね!目にもとまらぬ速さで、人のおかずを取れるのって、満天丸さんくらいでしょ!」

「ホントに、おいらじゃないって!」

「あー、まだ、認めないんだ!ぼく、見損なったよ!」

 二人は、いつものようにケンカをはじめた。

 剣豪丸は、そんな二人に構わず、自分の弁当を食べていたが、ある方向を見たときに、その手が止まった。

「なあ、あれは誰だ?」

 ケンカ中の二人に、声をかける。

「え?」

 剣豪丸が示した方向には、弁当をむしゃぼり食べる男がいた。

 その弁当は、どう見ても、三人が、いま食べているものと同じものだった。

 百々丸が、ハッとして、さっき自分が弁当を置いてきた場所に目をやった。

 彼の弁当は、忽然と姿を消していた。

「あー!あれ、ぼくの弁当だ!」

 百々丸は、不意に現れた男が食べている弁当を、指差して叫んだ。


「デリシャス!デリシャス!」

 男は、周りの騒ぎには無関心に、百々丸の弁当を食べている。

 その中身が空になると、男は弁当包みをきれいにたたんで地面に置いた。

「ゴチソーサマンサ!」

 きちんと、両手を合わせて、そう言った。

 百々丸が彼に駆け寄り、置かれた弁当の包みを奪うように取った。包みをほどくのも、もどかしいくらい焦って、再度、弁当包みを開いたが、中は見事に空っぽだ。

「ぼくの弁当が〜」

 百々丸が泣きながら、地面にくずおれた。

 そんな百々丸の側に、満天丸と剣豪丸が近寄ってきて、警戒するように、男をにらんだ。

 男は金の髪をしていて、目が青い。肌も白く、この国のサムライではなさそうだった。

「お前、何者だ?見たところ、メリケン人みたいだが?」

 満天丸が言った。

「オー!」

 ここで、はじめて気づいたかのように、男は三人を見た。

「サムライ!ファンタスティック!」

 男の演技がかった態度を無視して、満天丸は鋭くにらみつける。

「そう言うが、お前も、ここに来てるってことは、自分の国のサムライなんだろ?」

 満天丸の言葉に、男の表情がガラリと変わった。

「サムライ?まあ、戦士であることは間違いないな」

 さっきまでの片言のしゃべり方とは、全然、違い、流暢な日本語で、男は言った。

「お前、話せるのか?」

「ああ、この世界に来て、長いもんでね。ただ、たまに、ガイジンぶってないと、自分が何者だったか、忘れてしまいそうになる」

「…」

「改めて名乗ろう、ミーはロック。まあ、いわば、メリケン・サムライだ」

「なるほど、世界忍者ならぬ世界侍というわけか。で、どうなんだ?」

「どうとは…?」

()るんだろ?」

「フッ」

 満天丸の誘いに、かすかに笑うと、ロックと名乗った男の雰囲気が急に変わった。

「そうだな、お前もミーと同じで、自分より強いヤツがいるのが気に入らない人間のようだ。そうなると、どちらが強いか、闘って決めるしかないんだろうな」

「話が早いな」

 満天丸とロックは、自然な姿で対峙した。

 二人の間には、目に見えない殺気が飛び交い、どちらかが相手の間合に踏みこんだら、その瞬間に命のやり取りが始まることが、誰の目にも明らかだった。

 二人の気に誘われたのか、強い風が吹きだした。

 吹きすさぶ風がよく似合うサムライたちだった。


 そのとき。

 ドォーン!ドドーン!

 対峙する二人の周りに何かが飛来し、地面に落ちたかと思うと、爆発が起こった。

 爆発の寸前には、満天丸とロックの姿はすでにそこにはない。

 落下物の気配を感じ取り、爆発の範囲の外に飛んでいた。

 自然、二人は、互いの間合からも外れており、落下物を落とした者を見上げる余裕が出来た。

「何者!?」

 二人は同時に新たなる敵の姿を捉えた。

 上空に二つの影があった。

「鳥、それと虫かな?」

 同じように空を見上げた百々丸が言った。

 百々丸の言うとおり、空に浮かんだ二つの影は、一つは羽根を広げた鳥、一つは翅を羽ばたかせた虫の様に見えた。

 しかし。

「いや!人だ!」

 目をこらした百々丸が叫んだ。

 それは、背中から羽根をはやした人だった。

「搶禍忍軍の空忍だな。噂には聞いたことがあるが、見るのは俺も初めてだ」

 百々丸の横に立った剣豪丸が言った。

「搶禍は、太古の秘術で、人に他の生物の能力を移植することができると聞く。その中には、翼を持ち、空を飛ぶ者もいるとは耳にしていたが、まさか、あのように人の姿をしていないとは…」

「ヒィーッ!ヒッヒッ!剣豪丸に網を張っていたら、他に、雑魚が三匹かかっておるわい!」

 鳥の姿の忍者が言った。ハゲ頭に黒い翼を持ち、手にも足にも鋭い鉤爪が生えており、腰には火薬玉をいくつも提げている。この火薬玉が先ほどの爆発の正体のようだ。

「お察しのとおり、我は搶禍空忍、禿鷹丸(コンドルマル)

「そして、妾は蜂姫!」

 もう一人の虫のような忍者が言った。背中には虫のような四枚の翅を持ち、額からは触覚のようなものが生えている。こちらは、腰に竹の筒をいくつもぶら下げている。姫という言葉のとおり、その体つきを見る限り、くノ一の様だ。


 クンクンクン

 満天丸は、周囲の匂いを嗅ぐと、禿鷹丸と蜂姫に向かって叫んだ。

「おいらのこと、雑魚呼ばわりしたけどよ、お前らの匂い、嗅ぎ覚えがあるぞ!お前ら、河原でおいらと剣匠丸に斬られたなかにいた奴らだな!」

 ムッ。

 その言葉を聞いた蜂姫は、プライドを傷つけられたようで、目に見えて不機嫌な顔をした。

「ええいっ!うるさい!あのときは、妾たちが飛行能力を使う前に不意打ちしおったくせしておって!」

「そりゃ、相手に得意な技を使わせずに勝つのが兵法の極意だからね~。それを卑怯と言われても…」

「ええぃっ!その減らず口、二度とたたけぬように、お主から先に札にしてくれるわ!」

 蜂姫は、そう言うと、竹の筒を腰から外し、満天丸を目がけて構えた。そして、上の底面から伸びた紐を引く。

「搶禍忍法、針雨(はりさめ)!」

 蜂姫の言葉通り、無数の針が竹筒から飛び出し、満天丸の頭上から、雨のように降り注ぐのだった。

「日輪霊陽流別法、乳母日傘!」

 飛来する針に対して、満天丸は、抜いた刀を頭上で円形に回した。その刀が描く軌跡は、傘のような形を描き、針の雨から満天丸の体を守った。

 やがて、針は、全て地上に落ちた。

「な、なに!?」

 周囲二十尺ほどに降り注いだ針の雨だったが、満天丸の周囲、ちょうど刀の長さである半径三尺ほどの空間には、一本の針も落ちてなかった。

「しかし、どうやって、針の山に囲まれた、そこから出る気だい?その針には、猛毒が塗ってある。ちょっとでも刺されば、命はないよ」

 蜂姫が不敵に笑った。

「問題ない!」

 満天丸は、そう言うと、針の上を歩き、円形の針の山を脱出する。

「おいらは、少し宙に浮いてるんでね」

 満天丸は、そう言うと、朗らかな笑顔で蜂姫に言った。


「そういや、蜘蛛丸と戦ったときも、満天丸さん、同じようなことを言ってたけど、あれ、ホントなの?」

 百々丸が、隣に立つ剣豪丸に言った。

「ウム、自分の重心、体重、足の裏の感覚、全てを理解して、体をさばいているのだろうな。並大抵の修練では、そんなこと出来るようにはならんが…」

「へぇ、それなりにスゴいんだ〜!」

「あの男、やはり只者ではなさそうだ。俺たち、天下十剣以外に、あの域にまで達しているサムライがいるとはな」

 のんびりとした口調で話す百々丸の横で、剣豪丸は何かを考えるように静かに言った。


「さあ!今度は、おいらの番だ!さっさと降りてこい!」

 満天丸が、空の二人に言った。その言葉を聞いた二人が、顔を見合わせて笑う。

「クククッ、バカか、お前は?こちらの優位は、何も変わらんのに、なぜ降りる必要がある?」

 禿鷹丸がニヤニヤしながら言った。

「くそっ、意外と分かってやがる」

 満天丸が空を見上げて歯噛みする。

「ノープロブレム!」

 その様子を見たロックが言った。

「あ!そういや、お前もいたな」

「オイオイ、つれないこと言うなよ。同じ釜の飯を食った仲じゃないか」

 ロックが肩をすくめながら言う。

「それ、ぼくの弁当、盗んだだけじゃん!」

 百々丸がロックを責めるように叫んだ。そんな百々丸の声には耳も貸さず、ロックは満天丸に近づく。

「あいつらのところまで行ければいいんだろ?」

「?」

「ミーだけでも、なんとかなるが、二人を相手にするより、ミーとお前で、一人ずつ相手にした方が合理的だ」

「そりゃ、空を飛べたら、おいら一人でも、あんな奴ら片づけてしまうが、そんなことできるのか?」

「できるとも!」

 ロックは、そう言うと、自分の胸を指差しながら言った。

「なぜなら、ミーの別名は飛鴻鬼。重力を自由に操る、この第二層の戦鬼だからさ!」


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