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第三章 武者札

「さて、行くか!」

 満天丸が言った。

「行くってどこへ?」

「決まっているだろう、あそこだ!」

 満天丸が指差したのは、サムライたちであふれる眼下の戦場だった。

「え!?本気!?あんなに、たくさんのサムライが戦い合ってるとこに飛び込む気なの!?」

「もちろん!最初から、そう言ってるだろう?」

 何の迷いもない口調で満天丸が言う。


「さあ、行くぞ!それに、おいらは腹が減った!」

 グ〜!

 満天丸のセリフと同時に、彼の腹が大きく鳴った。

「それは、ぼくも同じだけど…」

 キュ〜

 百々丸のお腹も、満天丸の後を追うように鳴ったが、その音は、小さくかわいいものだ。

「地上に下りたら、食べ物があるの?」

「あんだけのサムライがいるんだ!誰か一人くらいは飯を持ってるだろう!」

「そんな、いい加減な…」

 百々丸が呆れ果てたように、下を見る満天丸に言った。


「それに」

 地上に視線を向けたまま、満天丸が言った。

「どうやら、ここから出る方法が見つかったみたいだぞ」

「え?」

 慌てて、百々丸が満天丸の横に駆け寄る。

「見てみろ」

 満天丸が指し示す方を見ると、そこにも戦うサムライたちの姿があった。

「あれが、どうしたの?さっきから見えてた、ずっと戦い続けてるサムライたちじゃないの?」

「もうすぐ決着がつく。そこを見ておけ」

 満天丸の言うとおり、二人が見ていた勝負は、片方が大きく振りかぶった隙をついて、もう一方のサムライが相手の脛を斬り、たまらず倒れたところにトドメを刺す、という形で決着がついた。

 倒れた方のサムライが、蜘蛛丸と同じように、御札に姿を変えていく。

「やった!揃ったぞ!」

 勝ったサムライが、歓喜の声をあげて、懐から同様の御札を出し、いま出来たばかりの御札と合わせて、頭上に掲げた。

 御札が輝きを放ったかと思うと、その輝きの向こうに、鮮やかな色彩の門が出現した。

 御札を手に入れたサムライが、その門に飛び込み、姿を消す。

 サムライが通ると、門もすぐに消失した。


「あ、あれは?」

「おそらく、あれがここから出る方法だな。この御札を何枚か集めると、あの門が出てきて、こっから出られるみたいだ」

 満天丸が蜘蛛丸の御札を手元で玩びながら言った。

「さっきから見てると、たまに、あの門が現れては、サムライが消えていってる。ざっと見た感じ、十枚くらいあれば門が出てくるようだな」

 そう言ってる間にも、少し離れたところで、また門が出現し、勝ったサムライが入ると、門はすぐに消えた。


「そうそう、この武者札(もののふだ)を集めると、あの九曜門が開くんだよね〜」

「へ〜」

「あ!あと、必要な数は十枚じゃくて十二枚だよ」

「そっか、じゃ、あと十一枚だね、て、誰!?」

 とても自然に二人の横に現れた男に、普通に受け答えしていた百々丸が、ハッとなって言った。

「なんだ、百々丸、気づいてなかったのか?その男、ずっと、いたぞ」

 なにくわぬ口調で満天丸が言った。

「へ〜、日の丸の兄ちゃんは、やっぱり気付いてたんだ〜。道理で、隙がないと思ったよ」

 どこか人なつっこい笑顔を浮かべながら、男が言った。

 立っていたのは、常盤色の羽織袴を着たサムライだった。渋い色した着物に対し、手甲と足袋だけは、真紅のものを付けていた。

「で、あんたは何者なんだ?不意に襲いかかってこないところを見ると、蜘蛛丸の仲間ではなさそうだが?」

「オレが、コイツらの仲間だって!?よしてくれよ!オレは、コイツらの敵、みんなの味方だよ」

「それを、おいらたちに信じろ、と?たしかに、河原で会った忍びたちにはなかった匂いだけど、どっかで嗅いだことがある匂いがしてる、あんたを…」

「え!?ナニナニ?オレの体が匂うって!?やだな〜、ここしばらく体洗ってないもんな〜」

 謎の男は、そう言いながら、自分のあちこちの匂いを嗅いだ。

 

 シュッ!


 そのとき、満天丸が、横薙ぎに刀を抜きつけた。

 その動きは素早く、満天丸の刀が、男の体を斬った残像が、百々丸の目には映った。


 しかし。


「ひぇ〜、あぶないね〜」

 男は、わずかに身を躱し、まさに紙一重で満天丸の刀を避けていた。

「おいらの黄道を躱すとは、やはり只者じゃないな」

「イヤ、ほんと危なかったよ。ウン、間一髪てヤツ」

 男は、笑みを浮かべたまま言った。

「わ〜!待ってよ!二人とも!」

 二人の間に張りつめていく不穏な空気に、たまらず、百々丸が割って入った。

「おじさんも、もうちょっと、この人の話を聞いてみようよ!」

「だから、おじさんはやめろって」

 満天丸は、そう言うと、刀を納めた。

 二人から一触即発の気配がなくなったのを確認して、百々丸が男に向き直った。

「で、あなたは、何者なの?此処のこと、何か知ってるの?」

「なあに、オレは、通りすがりのただのサムライだよ。だが、あんたらより、少し前に、此処に来たから、ちょっとだけ、様子に詳しいってだけだ」

「でも、御札やあの門の名前を知ってたよ」

「ああ、それか、それも大したことじゃない、ホラ、その札をよく見てみ」

「え?」

 百々丸が満天丸の手元にある蜘蛛丸の札を見る。先ほどと、何も変わったところはなさそうだ。

「裏だよ、裏」

 満天丸が御札を裏返す。百々丸も裏をのぞき込んだ。

 そこには、いくつかの文章が並んでいた。その最初に、〈武者札 一、この札を十二集めると九曜門が開きます〉と、確かに書いてあった。

「わー!ホントだ!ちゃんと書いてある!さっきは裏まで見てなかったもんね~」

 百々丸が素直に感心した。

「緑のおじさん、教えてくれて、ありがとう!」

「み、緑のおじさん!?オイオイ、俺は、まだ二十四だぞ。おじさんはひどくねーか?」

「百々丸、ホント、誰でも彼でも、おじさんと呼ぶのはよくないぞ!そんなことを言ってると、お前もすぐ、おじさんて年になるんだからな!」

 変なところで同調して、二人は百々丸に詰め寄った。

「な、なんか、ごめん…」


「ところで、まだ大事なことを聞いてねーぞ」

 満天丸が、男を見ながら言った。

「あんたが、おいらたちが蜘蛛丸と戦っていたときから、見ていたのは分かっている。なぜ、蜘蛛丸が御札になってから、おいらたちの前に姿を現した?」

「フッ、まんざらバカじゃなさそうだな」

「え?え?」

 再び、二人の間に流れ出した険悪な雰囲気に、百々丸は戸惑う。

「それに、御札の裏に、いろいろ書いてあることを知ってるってことは、あんたも御札を持ってるってことだよな?」

「おっと!そりゃそうだよね。こりゃ、教えすぎたかな?」

 どこかトボけた口調のまま、男は言った。

「あんた、おいらたちの御札を奪うつもりじゃないのか?」

 満天丸が鋭く問いただす。

「う〜ん、それは、ちょっと違うかな〜」

「ナニ!?」

「いや〜、オレも、まだ九枚しか持ってなくてさ〜。あんたらが持ってる一枚と、あんたら二人を御札に変えたら、ちょうど揃うかな〜なんて考えてたりして…」

 男の顔には、まだ笑顔が浮かんでいた。しかし、男の全身から、さっきまでとは別人のような剣気があふれ出す。

「くっ」

 男の剣気に、満天丸の頬がひくついた。

「ちょ、ちょっと〜二人とも、いきなりどうしたの〜?ケンカはやめようよ〜」

 先ほどとは違い、二人の間で膨らんでいく気の圧力に、百々丸は近づくこともできなかった。


「参る!」


 その声を発したのも、鯉口を切るのも、動き出すのも、全て、息を合わせたように、両者、同時だった。

 二人は駆けるように近づいていき、すぐにお互いの間合いに入る。


 キィィィン!


 高く鋭い音が辺りに響き渡った。

 しかし、満天丸と男の刀は合わさっていなかった。

 満点丸は男の背後から迫っていた敵の刃を、男は満点丸の後ろから近づいてきた刺客の武器を受けとめていた。

「ナ、ナニッ!?」

 二人の背後から襲いかかってきた襲撃者たちは、それぞれ同じ驚きの表情を浮かべていた。

「かかったな」

 男と満天丸の顔に、同じ笑みが浮かぶ。

「バ、バカな…。我らに気づいた素振りもなければ、何の打合せをしていた節もないのに…」

「ああ、そんなことはしてないさ。ただね〜、あんたらの殺気、ダダ漏れなんだよね」

 満天丸が言った。

 満天丸が対峙している相手は、細い針のような剣を逆手に持っている。

 この敵は、謎の男の首筋に、針を突き立てようとしているところを満天丸に阻まれたのだった。

「それな!あまりにも、あからさますぎて、気づかないふりをする方が大変だったよ」

 男が言った。

 彼は、鋭い牙で満天丸の肩口に喰らいつこうとしていた刺客の口元を、刀で制していた。

「おのれ、剣豪丸!宿敵のお前の首とここからの脱出、一石二鳥と思ったところを!」

 牙を持った刺客が、剣豪丸と呼んだ男の刀から、一度、間を外して言った。

「こんなところまで、追ってくるなんて、しつこいって、鋸刺鮭丸(ピラニアマル)

 剣豪丸と呼ばれた男が、相変わらずのトボけた口調で言った。

「それに、仙人掌丸(サボテンマル)だっけ?二人とも、ホント、ご苦労なこって」

 剣豪丸は、鋸刺鮭丸と呼んだ敵に気を配りつつ、満天丸と対峙している敵にも、声をかけた。

「サボテンとピラニア…なるほど」

 満天丸が一人で合点がいった顔をして言った。しかし、すぐにハッとした表情になって叫ぶ。

「いや、よく勘違いされるんだけど、ピラザウルスはピラニアじゃないんだよ!」

「満天丸のおじさん、何言ってるの?」

「そこ、わざわざ、おじさん付けんでも、満天丸さんでよくない?」


「何をゴチャゴチャ言っている!」

 仙人掌丸が言った。

「こうなりゃ、みんなまとめて地獄に送ってやる!」

 そう叫ぶと、懐から無数の針を取り出した。

「くらえ!忍法、覇王樹!」

 数え切れないくらいの針が満天丸めがけて飛来する。

 しかし、満天丸の姿は、そこにはなかった。

 針は虚しく地面に突き刺さり、大地をえぐった。

「どこに消えた!?」

 目標を見失った仙人掌丸は、周囲を見回す。しかし、前後左右、どこにも、満天丸の姿はなかった。

「ここだ!ここだ!」

 満天丸は、上にいた。常人ばなれした跳躍力で、一瞬で飛び上がったらしく、はるか上空に、その姿はあった。

「クッ!」

 仙人掌丸が、第二撃を放とうと、再び懐に手を入れた。

「遅い!日輪霊陽流!斜陽!」

 空中で一回転した満天丸の体は、仙人掌丸めがけて落下して、その体を袈裟に斬りおろした。

「ぐ…」

 一息吐いた後、仙人掌丸の姿が武者札に変わる。

「みんなまとめて地獄に送ってやる、は死亡フラグだと知らなかったのが、お前の敗因だ」

 武者札へと姿を変えた仙人掌丸に向かって満天丸が言った。

「また、なにか不思議なこと言ってる…」


「な!なにィ!」

 仲間が武者札に変わったのを見て、鋸刺鮭丸が動揺した。

 その隙を見逃す剣豪丸ではなかった。

「如来弥陀流!風の流れ!一の斬!」

 その叫びと同時に、押し潰されるような風圧を持った力強い一撃が鋸刺鮭丸を真向両断した。

「うぉーッ!」

 断末魔とともに、鋸刺鮭丸の体も武者札に変わった。


「これで、俺たちの御札を合わせたら、十二枚になるな」

 刀を納めながら、剣豪丸が言った。

 その姿は、先ほど豪剣を振るった男とは同じ人物とは思えないほど、最初のトボけたものに戻っていた。

「おい!」

 満天丸が剣豪丸に詰め寄ってきて言った。

「お前に言っておくことがある!」

「なんだい?そりゃ、俺が天下十剣の剣豪丸って、名乗らなかったのは悪かったと思うけどさ〜」

「そんなことは、どうでもいい!」

「じゃあ、ナニ?」

「いいか!ピラニアはアマゾニアだ!ピラザウルスは架空の爬虫類だ!」

「は、はぁ??」

「さっきから、満天丸さん、おかしなことばっかり言ってるよね」

 やっと本人の希望通り、おじさんと呼ぶことをやめたらしい百々丸が言った。


 地上では、たくさんのサムライが戦っていた。

 そして、何人かのサムライは、門を開き、その中へと向かっていた。

 そのなかに、黒装のサムライの姿があった。彼は、満天丸たちの姿を一瞬だけ見ると、目の前に現れた門へ入っていった。

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