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ノエル、追放される


――精霊ノ里


 ここは世界でも珍しい召喚士たちが集まって暮らす場所だ。

 深い森の中心部にあり、普通の人々はあまり寄り付かない。

 周囲には巨大な樹々が生い茂っており、そんな大きな樹の幹を切り抜いて生活の場を設けている。


「ノエルよ、お主をこの里から追放する!」


 暖かな光が差す里の広場。

 陽気な天気とは対象に重苦しい空気が漂っていた。

 広場の中心には白く長い髭を生やした老人ともう一人。

 金髪の青年が向かい合っていた。

 どちらも白い貫頭衣に白いズボンを着ている。

 この里の伝統衣装なのだ。

 変わっている点といえば青年の方は腰に剣を携えている。

 ここでは珍しい装いだった。


 怒鳴っている方が里の長。

 そして、


(ついにこの時がきたか……)


 どこか達観したような、あきらめの表情をしているのがノエルと呼ばれた青年だった。


「なんだその顔は……! 文句あるのか! お主と同い年のルークとセルザは十五という若さで上級精霊を呼び出しているというのに、本当にお前は情けないヤツよ!!」


 言いながら手に持っていた杖をノエルに突き出す里長。

 その動作に合わさるように、


――ビュォオオ


「っく」 


 風が吹き、尻餅をつくノエル。

 里長の杖の上には羽の生えた拳大の少女がちょこんと座っている。

 風の下級精霊、【フェアリー】だ。

 召喚士は精霊の力をかりて魔法を扱うことが出来るのだ。


 ざわざわ。


 二人の周囲を囲むように里の人間が集まっている。


「いつかはこうなると思ったよ」

「まったく、誰のおかげでこれまで食って来れたって話だよな」

「ノエルって本当に無能よね」


 話声を聞くに、ノエルを擁護する者はいない。


「分かった、出ていきますよ。たしかに、俺は落ちこぼれだ」

 

 精霊の里などと呼ばれるだけあって、ここに住む住人はだれしも精霊を呼び出すことが出来る。

 人によって呼び出せる精霊の強さは異なるが、まったく呼び出せないのはノエルだけだった。


「ならさっさと行くがいい」

「……ああ」


 言いながら振り返り、そのまま里の外れへと歩きだす。

 ノエルは現在十五になるが、両親はすでに亡くなっており、兄弟もいない。

 そんな事情もあって、里を離れることは受け入れられた。

 しかし、一つだけノエルには心残りがあった……。


 歩きながらズボンのポケットに手を突っ込むノエル。

 手に丁度収まるくらいの大きさの宝石を取り出した。

 涙型の青い宝石は太陽の光をはじいてキラキラと輝いている。

 そんな宝石にはノエルの魔力が少しずつだが常時送り込まれていた。


「あとちょっとなんだがな、コイツの召喚さえ成功すれば、俺を見る目も変わるハズなんだが」

「いやいや、アンタまだソレにこだわってんの?」


 独り言に突っ込みが入る。

 声の方に首を向けるノエル。

 視線の先には青髪の少女と赤髪の少年が立っていた。

 二人はノエルの幼馴染で先ほど里長からも名前がでたセルザとルークである。


「そうだ」

「バカねぇ~もうそんな石捨てて――いやそれは勿体ないわね、私に献上しなさいよ! そして初級精霊かなんか呼び出して村に戻ってくるのよ」


 ビシッと指をたてて言うセルザはやはりというべきか白い服を着ている。

 ちゃっかりと宝石を貰おうとしているが、なんだかんだでノエルを心配していた。


「無理だな。前にもいったが、宝石から声が聞こえてきた十年前、俺は声の主を呼び出すと決めた。そしてそのためには常時魔力を宝石に流さないといけない。そういう【契約】をしたんだ」

「そんな契約きいたことも無いっての。ルークも何かいいなさいよ」


 契約とは精霊を呼び出すための取り決めのようなもの。

 主に呼び出すための対価のことを指す言葉だ。

 はるか昔は人間そのものを対価にするといったことも行われていた。

 しかし現在では命を犠牲にする契約は禁じられており、もっぱら魔力を対価にするのが主だった。

 ただし、今回のノエルのように長い間魔力を渡し続けるなんて対価はかなり特殊なケースと言えた。

 

 閑話休題。


 セルザの問いかけにルークと呼ばれた少年が反応する。


「ふふふ、ノエルはやると言ったらやる男だからね。僕は信じているよ」

「は、ハァ、あんた何言ってるの?」


 怪しげな表情でノエルに視線を送るルーク。

 線が細い少年で、一見すると頼りなさげに見える。

 実際は炎の上級精霊を使役し、依頼で里の外に出ているうちに【破壊の魔法使い】といった二つ名を付けられているくらいだった。

 そんなルークの発言にしかめっ面をするセルザ。

 セルザの様子は気にもせずにルークは再び口を開く。


「まあこの里で会えなくてもいずれ外の世界でまた会うこともあるだろう。その時には見せてもらうよ、キミの精霊を」


 スッっと目を細めるルーク。

 瞳の奥には友情とは別の何が潜んでいるようだとノエルは感じていた。

 とはいえ、


「ああ、またな」


 今更それについて言及する気にはなれないノエルだった。

 何より、セルザとルークは里での数少ない友人。

 なんだかんだで感謝しているのだった。


「ちょ、本当に行くの!?」


 セルザがそんな突っ込みを入れるが、ノエルはそのまま入口の境内をくぐる。

 たとえ友人が引き留めたとしても、【宝石の声の主】との契約を止める気はなかった。

 どんどん歩いていき、やがて里からは姿が見えなくなる。


 ♢


 里を出て十数分。

 ノエルは樹に影に身を潜めていた。

 視線の先には、

 

「フゴゴッ」


 ドングリを食べている猪がいた。

 背後からゆっくりと近づき、腰の剣を鞘から引き抜く。

 異変に気付き、猪が振り向いたところを、 


――ザシュ


「フゴォオオオ」


 弱点である首を突き刺す。

 暴れる猪にさらにザス、ザスと追撃を加え、絶命させた。


「まあ、こんなもんか」


 ノエルは精霊の里の住人としては珍しく、剣術を扱えた。

 きっかけは村に滞在していた獣人の剣士で、狩りの基本などを教えてくれたのだ。

 その後も精霊を操る術を学べないノエルは、空いた時間で独学していた。

 今では獣の一頭や二頭は狩れる腕前になっている。


「あとは、どうやって焼くかが問題だが……」


 そんなことを呟いていると、


――ピカァアアアアア!!


 ポケットの中の宝石が光り出す。


「ま、まさか」


 慌てて宝石を取り出すノエル。

 宝石はひとりでに宙へ浮き、眩い光を放出する!

 

 光はだんだんと人間のような形になり、


「よ・う・や・く! 人間の世界に来れましたぁあああ!!」


 喜びの声を上げるのは見たこともない女性の人型精霊だった。

 鮮やかなピンク色の髪が腰まで伸びており、黒いシスター服を着ている。

 

「あんたは俺の召喚した精霊ってことでいいんだな?」


 奇妙な姿の精霊についつい疑問を投げかけるノエル。


「その通り! 私こそ大精霊……名前はまだない! 早く名前を付けてくださサーイ、主様」


 言いながら、ウインクをする大精霊。

 基本的に精霊は人間の言葉を話さない。

 こうして普通の人間同士のように会話できる時点で高位の精霊には間違いはないのだが、


「はぁ……」


 思わずため息をつくノエル。


「ちょっと! 何ですか今の態度!! 私はすごーい大精霊なんですよ! もっと喜んでくださいよ!」


 ジト目で大精霊に視線を送るノエル。

 十年かけて、里を追放された結果得たのが今の現状なのだが。


(なんか、思ってたのと違う)


 脳内にはそんな感想が思い浮かぶのだった。

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