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番外編 2022年12月26日 その2

 意気込んで出てきたはいいものの、完全に無計画だった。若さとはそれ即ち、無計画で無軌道なのである。


 朝方降った雨の影響でぐちゃぐちゃになった雪道を二人で歩く。今年の冬はなんだか急激に寒くなったり、雪ではなく雨が降るほど気温が上がったりとジェットコースターのようだ。私の人生と同じである。


「うるせぇ、誰の人生がジェットコースターやねん」


「ツッコミに時差ありすぎだろ。で、どうする?」


「事情聴取と洒落込みましょうか、ワトソン君。まずは……」


 誰がワトソンだというイコちゃんのツッコミはスルーして、思考を巡らせる。


 いきなり優ちゃんの彼氏である暁パイセンに突っ込んでもいいが、はぐらかされる可能性もある。まずは外堀を埋めていくべきだろう。


「イコちゃん、新一さんの連絡先とか知ってる?」


「優の兄貴の? 知らないね」


 詰んだ。とりあえず家に行ってみるべきだろうか。


「何にしても、このぐちゃってる雪道を歩くのはしんどいね……うん、足を呼ぼう」


「足?」


「ポチッとな」


 足になってくれる人に電話をする。


『どうした』


 足はワンコールで電話に出た。私のこと好きすぎるだろこいつ。照れる。


「もしもし彼ピッピ? あなたのうーちゃんですけどー」


 彼ピッピに無言で電話を切られたので、すかさずかけ直す。


『どうした』


 こいつ全く同じ電話の出方をしやがる。先ほどの電話がなかったことにされていた。


「今暇? 暇でしょ? 今日休みだって言ってたもんね? ドライブデートしよ?」


『おまえ今日は友達と過ごすって言ってただろ。もしかしてハブられたのか?』


「はっ倒すぞ、この野郎。話せば長くなるんだけど、ちょっとあちこち行きたいから足が欲しいんだよね。だったら大輔かなって」


 大輔とは私の彼ピッピの名である。


「もうちょい頼み方ってものがあるんじゃない? そんなんじゃ来てくれるものも来てくれないだろ……」


 イコちゃんが私に白い目を向けてくる。


『分かった、どこに迎えに行けばいい?』


「んー、いつもの喫茶店の近くにいるから、そこまで」


『ああ』


 電話終了。


「……あんた、いい彼氏を持ったね」


「でしょぉ」


 呆れ顔のイコちゃんに渾身のドヤ顔を披露した。


 寒いから一度店内に戻ろうかとも思ったが、威勢よく飛び出してすぐ戻るのはあまりにも格好悪いので、私たちは彼ピッピの車が到着するまでの十数分間、そのまま外で待機していた。


 私は当然のように助手席に、イコちゃんは後部座席に座る。


「さんきゅー彼ピッピ。うーちゃん嬉しい」


「その呼び方やめろ」


 感謝の言葉を一蹴されてうーちゃん悲しい。


「お邪魔しまーす、お兄さん久しぶりじゃん」


「ああ。藍子だけか。他の二人は?」


 彼ピッピは私の友達とも面識があるのである。

 ……やべぇ、イコちゃんは乗せるべきじゃなかった。実はこの女には前科がある。無駄にでかい乳を、無駄に大輔に見せつけて、無駄に誘惑しようとしたのである。

 まあ、そのとき私はまだ大輔と付き合ってたわけじゃないからいいけど……。


「ま、暇人なのはあたしらだけってことだよ」


 あんた仕事入ってただろ。

 さ、さては私が大輔を呼ぶことを見越してたのか? もしかして狙ってるんか!?

 友情崩壊の危機である。というか、そんなことになったら修羅場をどうにかしようとしている私たちが修羅場ってしまう。


「で、どこに行く?」


「優ちゃんちまで。ちょっと新一さんに用事があるんだよね」


「了解」


 彼ピッピが車を走らせる。


「お兄さんこんな急に呼ばれて、何があったのかとか聞かないの?」


 イコちゃんが至極当然な疑問を口にする。


「俺がそれを知る必要があるなら、卯月の方から言ってくるだろ」


 胸ズキュン。

 何イケメンみたいなこと言ってんだこいつ、フツメンのくせに……好きになっちゃうじゃん……もう既に好きだけど……。


「……ふーん、質問に対する答えになってない気もするけど、いい信頼関係だね」


「そりゃどうも」


 程なくして優ちゃんの家に到着する。

 車ってすごい。持つべきものは年上の彼氏である。


「行くぜイコちゃん、明日に向かって突撃だ」


「あんたちょっと楽しんでない?」


「そんなことないって。ただ、これからやること考えると冗談でも言ってないと頭がどうにかなりそうなんだよ」


「おまえの頭はもう既にどうにかなってるから安心しろ。じゃあ、俺はいったん帰るから迎えが必要なら呼んでくれ」


 うるせぇぞマイダーリン。ありがとうマイダーリン。


 イコちゃんと二人で車を降りて、呼び鈴を鳴らす。

 しばらくしてからドアが開くと、新一さんが姿を現した。


「……おまえたちが来たか。まあ上がってくれ」


 訳も聞かずに私たちを家に通そうとしてくる。


「ふーん、誰かしら来るのが分かってたみたいな言い方だな? 心当たりはあるわけだ?」


 イコちゃんは初っ端から喧嘩腰だった。やだ、やっぱりヤンキーって血の気が多いのだわ。


「イ、イコちゃん、どうどう」


「気に食わないんだよ。こいつは何でもお見通しみたいな顔をして、結局何もしてない。兄貴のくせに優を放置してる。それが許せるか?」


 伊崎藍子、友情に熱い女だった。


「と、とりあえず話を聞こうよぅ……知ってる感を出してるだけで本当は何も知らないのかもしれないし……」


 ヤンキー怖い心理で無意識のうちに萎縮してしまう。


「……来れば分かる」


 いつも陽気な新一さんにしては沈んだ顔をしていた。

 促されるまま家に上がり、居間へと通される。

 そこには既に先客が四人いて、一目見て分かるほどに重たい空気が流れていた。暁パイセンと、香苗ちゃん先輩と、楓さんと、あの赤い髪のヤンキー……名前は忘れた、ごめんよヤンキー。

 いつだかに暁パイセンの家でツイスターゲームをやっていたときと同じメンツなので、いつメンなのだろう。


 というか、赤い髪の男のヤンキーと赤い髪の女のヤンキーが揃ってしまった。赤い血が流れるかもしれない。


 全員この場に揃ってるなら話が早い。早いが……とても私が喋れるような空気感じゃなかった。


 そんな中、イコちゃんはずかずかと進むとソファに座っている暁パイセンの胸ぐらを掴んで無理やり立ち上がらせた。すげぇぜイコちゃん、やべぇぜイコちゃん。


「あんた何してくれてるわけ?」


「…………」


 暁パイセンは何も答えなかった。

 女性陣が突然のことにあわあわとしている中、赤い髪のヤンキー♂がイコちゃんの腕を掴み、力ずくで暁パイセンから引き剥がした。

 あ、これ血流れるわ。やばいわ。イコちゃんを連れてきたのは失敗だったかもしれない……。


「テメェ、事情も知らねぇ部外者がいきなり何してくれてんだ?」


 ヤンキー♂がヤンキー♀にメンチを切る。


「あ? 部外者っつったか? 優はあたしの友達で、その友達がこのクソ野郎に傷つけられてんだけど?」


 ヤンキー♀が負けじと睨み返す。

 怖い、怖すぎる。イコちゃんがここまでキレてるのを見るのって、よくよく考えたら初めてじゃないか……?

 あ、分かった、イコちゃんってば初めからキレるつもりで来てたんだ。


「ああん? 今暁をクソ野郎っつったか? こいつは確かにクソ野郎だがなぁ、それを言っていいのはダチの俺たちだけなんだよ! ぶっ殺すぞテメェ!」


 ダチからもクソ野郎呼ばわりされ、暁パイセンはどことなく切なそうな顔をしていた。


省吾(しょうご)、落ち着け」


 新一さんがヤンキー二人の間に割って入る。そうだ、そういえば省吾っていうんだった、ヤンキー♂の名前。


「うるせぇよ! 元はと言えばテメェと香苗が悪ぃんだろうが!」


 ヤンキー♂はますます殺気立っていった。そして割と重要なことを言った気がする。香苗ちゃん先輩は冷や汗をだらだら流していた。あ、絶対なんかやってる、この人。


「……そ、それはー、どういう意味で?」


 勇気を振り絞り、質問してみる。


「このクソガキが性懲りもなく暁に手を出そうとしやがったんだよ」


 ヤンキー♂が香苗ちゃん先輩を睨みつける。

 性懲りもなくってことは前科があるんだな……。


「だって寂しかったんだもん! どうしてこの中であたしだけがクリボッチなんだろうって! そんなときに暁との熱い夜を思い出しちゃったんだもん! 仕方なくない!?」


 めちゃくちゃ逆ギレだった。薄々感じてはいたが、香苗ちゃん先輩はガチやばい人だ。サークルを破壊するタイプだ。というか、現在進行形で破壊している。


「理由になってねぇんだよ、バカガキ! それを言ったら俺だってクリボッチなんだよ! そんなら俺と二人で過ごせば良かったじゃねぇか!」


「クリスマスに省吾と二人なんて絶対嫌!」


「うるせぇ、俺だってテメェと二人なんて嫌なんだよ! でもテメェを一人にしたらろくなことにならねぇのが分かったからな! 来年のクリスマスからテメェは強制的に俺んちだ!」


 何それヤンキー流の愛の告白?


「いーやー! やーだー!」


 この二人は、仲が良いのか悪いのか……。

 それはともかくとして、香苗ちゃん先輩の熱い夜がどうのこうのって言葉が真実なら暁パイセンも大概である。


「暁パイセンって香苗ちゃん先輩にも手出してたんですか? たしか楓さんとも付き合ってたことがあるって……」


 暁パイセンに軽蔑の目を向ける。


「うぐ……そ、それは……優と付き合う前のことだ……」


「でも最低かと」


「……返す言葉もない」


 何で優ちゃんはこんな男を選んだのだろう……。


「でも、優ちゃんから聞いた話だと暁パイセンが抱きしめていたのは楓さんだって聞いてるんですけどー……」


 話が逸れまくったので軌道修正をする。


「……その状況にあったことは、否定しないわ」


 楓さんが答える。


「えっと……ちょっと整理させてください。あ、イコちゃん落ち着いて、楓さんを今にも殺しそうな目で睨むのやめよ、ね? その人たちからいったん離れてこっちおいで? おっぱい揉む? おっぱい揉むと気持ちが落ち着くらしいよ?」


「……あたしは冷静だよ」


 絶対嘘だ。けれど、ぶつぶつ言いながらもイコちゃんは私の言う通りにしてくれた。私の背後に立ちマジでおっぱいを揉んできた。


「マジで揉むのか……」


 流石の私も困惑する。


「……布を揉んでる感触しかないな」


 イコちゃん、あとで殺す。


「あー、当日の時系列を整理して話すとだな、暁にフラれた香苗は俺のところに来た。俺は香苗に睡眠薬を盛られて、気がついたら服を脱がされて襲われそうになっていた。そこに楓が来てだな……」


 新一さんが仕切り直して状況を解説する。

 ていうか何やってんの香苗ちゃん先輩、まずいですよ!


「なんかもう、誰でもいいかなってなっちゃってて……」


 見境のない殺人鬼のようなことを言う。


「だからって私の彼に手を出そうとするのやめてくれない?」


 楓さんの目は冷ややかだった。

 もうこの二人の関係は修復不可能なんだろうな……。


「そう言うあんたも人の男に手を出そうとしてたんじゃないか?」


 イコちゃんの言葉は時にナイフよりも鋭い。


「決めつけはやめてくれる? 新一くんが説明してくれてるんだから、話の腰を折らずに黙って聞いてなさいよ。ああ、すぐに癇癪を起こすお子様には難しいことかしら?」


 楓さんも負けじと言い返す。この人、一を言われたら十で返すタイプだ……。


「はっ、そこのビッチに突っかかって話の腰を折ったのはあんたが先だろ」


「ビ、ビッチー!? あ、あたしそんなんじゃないし!」


「はいイコちゃん! どうどう! みなさんも落ち着いて!? 新一さんのお話聞こうね!?」


 どうにか場を収めようとする私を見て、新一さんがフッと笑う。


「たくましくなったな、卯月」


 喜んでいいのか微妙な褒め言葉だった。


「話の流れは分かりました。で、それを見た楓さんはどうして暁パイセンのところに?」


「……こんなこと相談できる相手が他にいなかったからよ」


「ふむん。暁パイセン、楓さんは相談に来た。合ってますか?」


「……ああ、そうだな」


「それで何で抱きしめる流れになったんです?」


「……そのとき、楓は新一が香苗と浮気したと思っていて不安定だった」


「だからって――――」


 怒鳴ろうとしたイコちゃんの口を私の手で抑える。勢い余ってほぼビンタになってしまったが、先ほどの屈辱のお返しということにしておこうと思う。


「今の結構痛かったぞ……」


「おっぱいを布って言われた私の心の方が痛いよ。で、暁パイセンには下心はなかったと?」


「……ああ、だからって許されるわけじゃないし、軽率だったと今は思う」


「そうですねぇ」


 話は理解した。

 これは要するに痴情のドミノ倒しだ。


 誰が一番悪いかと言えば香苗ちゃん先輩だが、初動をミスってドミノ倒しを止められなかった新一さんも悪いと、そういう意味でヤンキー♂はその二人が悪いと言っていたのだろう。


 調査完了。

 この人たちの関係が今後どうなるかは分からないが、私の役目はここまでだろう。あとはこの話を聞いて優ちゃんがどう判断するかだ。


 この人たちの関係はぐちゃぐちゃになるのだろうが、これ以上この話に首を突っ込む理由も義理もない。それこそ部外者の私なんかが介入したところで、どうなるわけでもないだろうし。


「……帰るよ、卯月。これ以上ここにいたら、また暴れちまいそうだ」


 イコちゃんも私と同じ結論のようで、踵を返して家を出ようとする。それが賢明だろう。


 ――――もう嫌なの。

 ――――私の目の届く範囲にいる人たちが不幸になるのは。


 優ちゃんはいつだったか、そんなことを言っていた。

 当時の私には理解ができなかった言葉だが、今なら少し分かる気もする。


 このままだったら、どう転んでもいい結末にはならない。自業自得と言えばそれまでだが、彼らの関係が壊れることで優ちゃんが嫌な気持ちになるのは、なんていうか嫌だなと思う。言語化下手くそか。


「……私は、今回の件であなたたちの関係がどうなろうが別に知ったこっちゃないんですけど」


 考えがまとまるよりも先に口が動いていた。


「優ちゃんは、きっと違う。身内の人間関係が壊れたら悲しむし、傷つくと思う。そういう子だから。……そんなの、私よりも優ちゃんとの付き合いが長いあなたたちなら分かってますよね?」


 皆一様に、真剣な面持ちで私の話を聞いている。

 演説しているみたいで恥ずい。こんな役割、柄じゃない。でも誰もやらないのだから仕方ない。


「……まー、でも結局のところ人間って自分が最優先なんで、自分に余裕がなくなるとそんなこと考える余裕もなくなるんでしょうけど」


 私が今こんなことを言えてるのも、周りを気にする余裕があるからだ。一昔前なら、この件を調査しに行こうとすら考えなかったはずだ。


「自分が一番大事ってのは健全だと思う。それでいいと思う。……けど、それで周りを見る余裕をなくして、自分が大事にしてる人を傷つけて……そうなったら、結局自分も傷つきます」


 自分で言っておいて何だが、言葉のブーメランがグサグサと刺さってる気もする。心が痛い。考えなしに喋るもんじゃないなと思う。


「……暁パイセン、優ちゃんが大切ですか?」


「……ああ、大切だ」


「なら、彼女にちゃんと事情を説明して、謝ってください。許してもらえるかは知らんですけど。……新一さん、優ちゃんが大切ですか?」


「……そうだな」


「以下同文」


「それ言われたの、校長から卒業証書を受け取るとき以来だぜ……」


 省略された新一さんは少し切なそうな顔をしていた。


「今のはほんのジョークです。新一さんは優ちゃんのお兄ちゃんなんだから、この役目は本来あなたがやってなきゃダメなんですけど。自覚を持ってください」


「……ああ、その言葉、心に刺さったぜ……軽く致命傷だ……」


 軽傷なのか重傷なのかどっちだ。昔ネットで流行ったブロント語みたいだな。


「……楓さん、優ちゃんはあなたのことを実の姉のように尊敬してました」


 多分だけど。

 本人の口から聞いたわけじゃないけど、うん、多分そう。


「……楓さんは、どうですか?」


「……私も、実の妹と同じくらい大事に思ってるつもりよ」


「つもりだと今回みたいなことになるので、これからは本当の妹のように思ってください」


 人の言葉の揚げ足を取る今の私、ちょっとひろゆきっぽいな……。


「……その通りね。今回の一連については周りが見えてなかったと反省するわ」


 ここまでは良い。エモいハッピーエンドの流れである。

 問題は残る二人……ヤンキー♂と香苗ちゃん先輩である。こいつら優ちゃんのことあんまり大事に思ってなさそ〜〜〜!


「えっと……あ、赤い髪の人……ご、ごめんなさい名前なんだっけ……」


 私の発言に場の空気が弛緩した。ボケたつもりはなく、マジでまたこの人の名前を忘れただけなのだが、当人以外、みんな笑いを堪えて肩を震わせている……。


「シャン●スだ」


 新一さんが助け舟(?)を出してくれる。懸賞金高そう。


「……えーと、じゃあシャ●クス」


「省吾だよ! テメェ、そのまま進めようとすんじゃねぇよ!」


 ものすごくキレられてしまった……怖い……。

 流れに乗って、めざましじゃんけんをするくらいの度量を持ってほしいものである。


「……シャ●クスは言いました。酒や食い物を頭からぶっかけられても笑って見過ごすけど、友達を傷つける奴は許さないと。……省吾さんにとって、優ちゃんは友達……ではないかもしれないけど、大事な友達の大事な彼女であり、大事な妹ですよね?」


「ああ、だから俺はキレてんだよ」


 そういやそうだった。じゃあマジでシャ●クスじゃん、この人。

 見た目がアレなだけで、実はこの人がこの中で一番まともなのかもしれない……。


「じゃあ何も言うことなし!」


「お、おう」


 拍子抜けしたような返事をされるが、実際何も言うことが思い浮かばないのだから仕方ない。


「香苗ちゃん先輩」


「う、うん、何?」


「判決を言い渡します、死刑」


「ねぇ、あたしにだけ厳しすぎない!?」


「テメェが諸悪の根源なんだから当たり前だろうが、クソガキ」


 香苗ちゃん先輩が涙目で抗議するが、シャ●クスが覇気で一蹴していた。


「追放刑でもいいですけど。パーティを追放されて辺境でスローライフを過ごしますか? あるいは無双しますか?」


「卯月ちゃんが何を言ってるか分からないけど、どっちもやだよ!」


「……じゃあ、まずみんなにごめんなさいするべきでは? あ、それとも、もうしてました?」


「……それは、まだだけど」


 うーん、昔の自分を見ているような気分になる。

 自分は被害者で、何もかも周りが悪いように思えて、だから謝れない。

 さっきからシャ●クスがガキガキ言ってる通り、子供なのだ、この人は。しかも前に見たリスカ痕から察するにメンヘラで、そのうえ恋愛あるいはセックス依存症だ。レベル高ぇ、私の手に負える相手ではない。

 ……そんな感じで誰からも匙を投げられ、放置されてきた結果が今回なのだろう。それじゃダメだ。この場は収まったとしても、きっとまたいつか繰り返す。


「香苗ちゃん先輩、いや香苗ちゃん、私と友達になろうぜ」


 結論、こうなった。

 こうする他ないと思った。

 全員が呆気にとられた表情をしている……と思ったら暁パイセンだけは真顔だった。

 私の意図が、彼だけには伝わったのだろうと思う。


 世界中の誰からも必要とされていないっていう感覚に陥ったことある人ーと挙手を求めたら、この中で手を挙げるのはきっと暁パイセンと香苗ちゃんだろう。だから香苗ちゃんは未だに暁パイセンを忘れられないでいる。


 どんなに友達ができても、仲間ができても、恋人ができたとしても、この手の同類と傷を分かち合えるのは、結局のところ同類だけだ。私も同類だからそれが分かる。


 癒しにはならない。

 慰めにもならない。

 ただ、分かち合うだけ。

 言ってしまえば傷の舐め合いである。

 だけど、それが救いになることもある。


 香苗ちゃんには、きっとそういう相手が必要なんだと思う。


「……友達に? あたしと卯月ちゃんが?」


 香苗ちゃんは私の言葉の意味を理解しきれていないようだった。


「だって香苗ちゃん、今回で友達いなくなったっしょ? だから私が友達になろうかなって」


「か、楓、あたしたち友達だよね?」


「……お花畑すぎるでしょ。人の彼氏に手を出そうとする友達とか普通に嫌よ」


 楓さんはきっぱりと言い切った。そりゃそうだ。


「あ、あのときは気の迷いで! あたし頭がどうにかなってて! もう絶対やらないから許して!」


 香苗ちゃんが楓さんに泣きつくが、許されるはずもなかった。というか私にも今や彼氏がいるので、香苗ちゃんとお友達になるのはリスキーではある。


 けど、放っておけない。

 かつて自分が優ちゃんに救われたように自分も誰かを救いたいと思ったのかもしれないし、あるいは私がこうすることで彼らの関係の破綻を最小限にし、優ちゃんへのダメージを減らしたいという気持ちもあったように思う。


「はい、というわけでー、香苗ちゃんはもらっていきますねー。彼女が真人間に更生したらまた友達になってくださいねー」


「えっ、えーっ!?」


 うろたえる香苗ちゃんの手を引き、そのまま家を出た。

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