8-3 パンツちょうだい
優ちゃんと二人ならこんな仕事楽勝だぜ。
ウキウキ気分でみんなのところに戻ったところで、優ちゃんが私のことを白い目で見ていることに気がついた。
「ゆ、優ちゃん? い、一緒に頑張ろうね!」
「私はやるとは言ってない」
あ、やべぇ、ちょっと、いや、かなり不機嫌そうだ。
「何話してきたんだよ」
かくかくしかじかと、イコちゃんに向こうの席での出来事を説明した。
「えぇ……」
佳織さんがドン引きしていた。
「あんたって金のためなら何でもやるのな」
イコちゃんまで引いていた。
「だって、これってそんなに悪いことじゃないじゃん!? 二人がどういう関係なのか調査するだけじゃん!? 妹のことを心配する優しいお兄ちゃんを助けてるだけじゃん!?」
「まず第一に他人の恋路に首を突っ込もうってのが趣味悪いってんだよ。それが兄妹だとしてもね。しかもそれで金をもらおうってのがまた最悪」
私の必死の弁明はイコちゃんにボコボコに論破された。
「自分のお兄ちゃんがそんなだったら、私嫌だなぁ」
佳織さんが苦笑する。
「右に同じ」
優ちゃんが冷めた顔で冷めたコーヒーを啜る。
「な、何だい何だいみんなして! あの二人がまだカップルだって決まったわけじゃないじゃん! 恋路じゃないかもしれないじゃん! 妹ちゃんが変な男に付き纏われてて困ってるだけかもしれないじゃん! みんな決めつけが過ぎるよ! 決めつけの刃だよ! 無限列車編だよ!」
「……決めつけの刃が何なのかはよく分からないけど、卯月の言うことに一理なくもない」
「優ちゃん……!」
「いや一理ないだろ」
イコちゃんは黙ってな。
「つまり、卯月は省吾の妹のことが純粋に心配であると、そういうことね」
「そう、それ!」
優ちゃんの賛同を得られたことが嬉しくって、私はウンウンとヘドバンした。
「それなら、お金は別にいらないわね?」
「うん! ……え?」
「そう。じゃあ省吾にそのお金を返しにいきましょう。それなら私も手伝ってもいい」
は、は、謀られた……!
二万円は正直惜しい。だって、ウ●娘のガチャが100連もできるんだよ? 育成が捗るんだよ?
だが、ここでその提案を拒んだら、私はただ金に汚いだけのド腐れ外道になってしまう。
「も、もちろんだよぉ、さっきはついノリで受け取っちゃったけど……後でちゃんと返すつもりだったんダヨ?」
「そう。それは良かったわ」
優ちゃんが微笑む。
私は心の中で泣いた。
グッバイ諭吉。
フォーエバー諭吉。
優ちゃんの笑顔、プライスレス。
かくして私はヤンキーにお金を返し、優ちゃんと共に妹ちゃんを尾行することとなった。
妹ちゃんたちが店を出たので、私たちもその後を追う。
にしても、タダ働きかぁ……これじゃバイトじゃなくてボランティアだよ……。
「そんなに落ち込まないの。誰かのために頑張る卯月には、私から何かプレゼントするから」
あからさまにしょぼくれている私を見かねたのか、優ちゃんがそんなことを言ってくれた。
脊髄反射でじゃあパンツちょうだいと言いかけたが流石に引かれそうなので自重しようと思う。
「じゃ、じゃあ、パ、パパ、パンツちょうだい」
自重できなかった。
しかもメチャクチャどもったせいでガチ感が出てしまい、メチャクチャ気持ち悪い感じになった。
「分かった」
え、マジ!? 分かってくれるの!?
「卯月に似合う下着を買ってあげる」
分かってくれていなかった。
「そ・れ・で・い・い?」
言葉に圧を感じる。
なるほど、理解した上であえてスルーを決め込んだようだ。大人の対応である。
「ひゃ、ひゃい、それでいいです……」
優ちゃんがため息をつく。
ごめんね変態で。微かな罪悪感が胸をかすめた。
「卯月は女の人が好きなの?」
火の玉ストレートな質問が飛んできた。
「い、いや、どうかな……多分違う……と思う……いや、どうなんだろう……」
恋愛経験値どころか対人経験値がなさすぎて、自分でも正直分からなかった。イケメンは好きだが、可愛い女の子も好きだ。ただ、それが恋愛的な意味でかと問われると、どちらもハッキリとそうだとは言えない気がした。
「そう。……すぐに答えを出すものでもないのかもね。異性でも同性でも、好きだと思えた人が好きで、それでいいんだと思う」
「ふぅん……」
じゃあ私は今のところ優ちゃんかなぁと思ったが、それを口に出すとあらゆる意味で困らせてしまうことが目に見えていたので今度こそ自重した。




