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美少女JKなろう作家の完璧かつ華麗なる日常  作者: 中 卯月
第八部 変わり、壊れ、過つ
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8-2 卯月ちゃん、バイトをする

 友達と仲直りをしたあの日から少し時間が経って、今は夏休みだった。


 何かを変えるきっかけになればと、私はバイトを始めようと考えた。その相談に乗ってもらうために、佳織さんちの喫茶店に四人に集まってもらった。


 相談をすると佳織さんが開口一番に「じゃあうちで働きなよ」と言ってくれたが、可愛いらしい制服に身を包んで接客をする自分をイメージしたら吐きそうになったのでご遠慮した。


「イコちゃんは何か色々なバイト知ってそうだけど」


 独断と偏見でイコちゃんに期待の眼差しを向ける。

 余談だが、あれからふざけて伊崎のことをイコちゃん呼びしていたらいつの間にかそれが定着してしまった。


「あー、出会い系のサクラとかやってみる?」


「おまえに聞いた私が悪かったよ」


「冗談だよ。あたしだってそんなのやったことないっての。バイトなら、そうだねぇ、優の兄貴が昔よく変なバイトしてなかったっけ?」


「……変なコネいっぱいもってるからね」


 優ちゃんがため息をつく。


「たとえばどんなバイト?」


「山で珍しい生き物を捕まえてきたりとか」


 めちゃくちゃハードそうだった。


「海で密猟者を捕まえたりとか」


 いや、何やってんの、優ちゃんのお兄さん?


「森でキノコを採ってお得意さんに売ったりとか」


 うん、どれも私には無理そうだ。


「卯月がバイトを紹介して欲しいっていうなら、お兄ちゃんに聞くことはできるけど」


「やめておくね。うーん、何か楽して稼げるバイトはないもんかなぁ」


 私の能天気な言葉にイコちゃんが呆れ顔になった。


「あんた変わりたいっつってバイト始めるって話なのに、すげぇ思考回路してんな」


「やだぁイコちゃん、そんなに褒めても何も出ないんだからぁ」


「褒めてねーよ」


 知ってる。


「仕方ねーだろ、今まで十六年クズ人間として生きてきたんだからよぉ! 人間そんなにいきなりは変われないんだよ! だから私ちゃんはちょっとずつ変わろうとしてんだよ! 偉いだろぉ!?」


「はいはい偉い偉い」


 渾身の逆ギレはさらっとイコちゃんに流された。泣きそう。


「私って結構可愛い方だと思うんだよね。バイトにもこの可愛さを活かしていきたいんだけど」


「あんたって、たまによく分かんないところで自信過剰だよな」


「イコちゃん今日はやけに突っかかってくるねぇ。嫉妬? 可愛さ勝負するか? お?」


「あんたが今日はやけにバカなことを言うからだよ。んだよ、可愛いさ勝負って」


「可愛いことを言って男をドキドキさせた方が勝ち」


「アホらし。てか、男とまともに話せないでしょ、あんた」


「で、でで、できらぁ! ね、優ちゃん!」


 私たちのやり取りを他人事のように眺めていた優ちゃんはいきなり話題を振られ、困惑の表情を浮かべた。


「え、わ、私? なに?」


「私、優ちゃんの彼氏さんやお兄さんともちゃんと話せてたもんね!?」


「ま、まあ……」


 その返答に満足し、私は渾身のドヤァ顔をイコちゃんに見せつけた。


「そりゃ男は男だろうけど、友達の身内と話せたことをそんなに威張るなよ……なんか悲しくなるだろ……」


 同情されてしまった。

 許せねぇ。許せねぇよ、こいつ。


「見てろよ、おまえ」


 イコちゃんに人差し指を突きつけ、席を立つ。

 私が見知らぬ男とも話せるってところを見せつけてやる。


 獲物をサーチするために店内を見渡す。

 中学生くらいの男女の二人組。お爺さん一人。同年代くらいの女の子が一人。おばちゃん四人組。

 若い男が一人。いた、あいつだ! ……なんかロン毛で、しかも真っ赤なんですけど。絶対ヤンキーなんですけど。声かけたら殺されるかな。いや、でも赤髪のヤンキーって意外といい奴だったりするしな。目の前にもいるし、赤髪のヤンキー女が。


「イコちゃんイコちゃん」


「あんだよ」


「あそこにいる赤髪のお兄さんってイコちゃんの」


 お兄ちゃん? と聞こうとしたところでイコちゃんの過去話を思い出して慌てて口の形を修正した。


「お知り合い?」


「違うけど」


「じゃあ声かけてくるから。私があの男とまともに話せたら謝罪ね」


「……あ、卯月、待って。……あれやばいかも、機嫌悪そう」


「優ちゃん、そこで私の成功を見守っててくれたまいよ。帰ってきたら結婚しようね」


 優ちゃんに親指を立て、私は男の席へと向かった。


「……卯月、それ死亡フラグ」


 私はフラグを超えてみせる。

 やるぞ。やってやるぞ。

 会話デッキを用意すれば初対面の相手とも話せるって、ブイチューバーも言ってたもん。まずは天気の話から。


「……あー、きょ、今日……いい天気……っすねぇー……」


 男の席の前に立ち、明後日の方向を見ながら消え入りそうな声で言った。

 私の声が聞こえなかったのか、男は何の反応も示さなかった。つらい。心が痛い。


「……あん? んだ、テメェ。何か用か」


「ひぇっ……」


 目の前で棒立ちの私を不審に思ったのか、メチャクチャ睨まれた。これは間違いなく人を何人か殺してる目だ。怖い。怖すぎる。おしっこちょっと漏れた。


「何とか言えや」


 逃げようにも足が震えて動かない。誰だよヤンキーは意外と優しいとか言った奴は。私だよ。ああ、私この後きっと犯されて殺されて山に埋められるんだ。

 死亡フラグをこんなに爆速で回収することってある?


「……はぁ、卯月のバカ。だから待ってって言ったのに」


 優ちゃんがため息をつきながらも、庇うように私の前に立った。

 優ちゃんってすげぇ。この世に怖いものないのか?


「あん? 優じゃねぇか」


「こんなところにいるなんて珍しいわね、省吾(しょうご)


 え? なに? お知り合い?


「んだよ、優のダチだってんなら早く言えよ、テメェ! はっはっは! ってやべ!」


 ヤンキー男は豪快に笑ったかと思いきや、慌てて両手で自分の口を塞いだ。


「危ねぇ、とにかく座れテメェら……!」


 私と優ちゃんは男に肩を掴まれ、強制的に目の前に着座させられた。


「……危ないって……今、何してるの」


「……尾行だ」


 ヤンキー男が重々しく口を開く。


「……尾行……ああ、あれ? そう、だからそんな殺気立ってたのね」


 優ちゃんが離れた席にいる中学生の男女二人組を目で指した。


「……ええと、お話が見えないんですけど」


「ああ、俺ぁ、あれだ、こいつの兄貴のダチだ」


 優ちゃんのお兄さんのお友達……?

 あの爽やかイケメンとこの人を殺してそうなヤンキーが……?


「で、あそこの仲睦まじそうな中学生カップルと何の関係が?」


「まだカップルと決まったわけじゃねぇだろ!? あ、やべ!」


 隠れて尾行しているはずのヤンキー男はまた店内に響き渡るような大声を出してしまっていた。うん、こいつ多分アホだ。


「大声出させやがって……テメェ、マジで殺すぞ……」


 今の私悪い!?


「卯月、こいつの必殺技は男女平等パンチだから気をつけて」


「人聞き悪ぃな!? まだ女は殴ったことねぇよ!?」


 まだって言ったよ、この人。

 そしてまたデカい声を出してる。やっぱアホだ。


「あれ、妹でしょ。何で尾行なんかしてるの」


 優ちゃんが話の軌道修正をする。

 妹……似てねぇなぁ……腹違いか何かか?


「ああ、話せば長くなるんだがな。俺は今日、朝早くからパチ屋に並んでたんだ。そしたらババアが横入りしてきやがったんだよ! 老人には優しくがモットーの俺だが」


「その下り絶対いらないでしょ。省いて」


 優ちゃんがヤンキーの話をバッサリぶった斬った。


「んだよ……ここからが面白れぇとこなのによ……。何やかんやで朝一から万発出して気分良くパチ屋を出たら、理沙が……理沙がよぉ! 男と一緒に歩いてるじゃねぇか! 兄貴としては変な男に引っかかったんじゃねえかって、心配になんだろ!?」


 理沙っていうのは、あそこにいる妹のことなんだろう。

 その理沙ちゃんの相手の男は……至って普通の男子に見える。どう考えても目の前の兄貴の方が変な男である。


「……私の周りにいる兄っていう生き物は、どうしてこうもシスコンばかりなのかしら」


 言われてみれば、それはそう。

 優ちゃんのお兄さんも、佳織さんのお兄さんも、目の前のこのヤンキーも、みんなシスコンっぽい。

 妹っていうのは、そんなに可愛いものなのかな。皐月の顔が脳裏に浮かぶ。

 ……私には、その感情が分からない。


「丁度いい。テメェら、一仕事しねぇか?」


「しないから。戻りましょう、卯月」


 優ちゃんが立ち上がると、ヤンキー男が泣きながら優ちゃんの腰に縋ってきた。こいつ……私の優ちゃんに気安く触れやがって……!


「待ってくれよ優! もう俺にはテメェらしか頼る奴がいねぇんだよぉ!」


「……話を聞くだけなら」


 優ちゃんが再び席に座り直した。

 なんだかんだで、やっぱり優しいんだから。


「……俺に代わってあの二人を尾行し、どんな関係なのか調査してくれ」


「別に私じゃなくて、うちのお兄ちゃんにでも頼めばいいでしょ。探偵ごっことか喜んでやると思うけど」


 たしかに好きそうだ。


「ダチにこんなカッコ悪りぃこと頼めるかよ!」


 そのダチの妹にこんなカッコ悪りぃことを頼んでるのはいいのか、ヤンキー。


「な? いいだろ? ちょっとしたバイトだと思ってよ。報酬は弾むぜ? こいつは前金だ」


 ヤンキーがポケットから二枚の諭吉を取り出し、テーブルに置いた。

 に、にまんえん! こんなことやるだけで、にまんえんもくれるの!? びっくりしすぎて知能下がっちゃったよ!


「……へへ、私ちょうどバイト探してんすよね、旦那」


 満面の三下スマイルを浮かべながら私は諭吉を受け取った。


「おう、やってくれるか!」


「へへ、よろしくお願いしますぜ、旦那!」


 ヤンキーとガッチリと握手を交わして、こうして私の裏バイトが始まった。

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