7-7 罪
私には、何もない。
自分は無価値だ。
優しくされる価値がない。
勉強もできない。運動もできない。人付き合いも下手。
唯一取り柄だった文章も今はもう書けない。
自分のことでいっぱいいっぱいで、人に優しくできない。
生きる価値がない。
何も持っていない。
それでも。
「私は、そこにいてもいいの?」
言葉と一緒に、涙が溢れた。
悪ぃ、やっぱ辛ぇわ。
ちゃんと言えたじゃねぇか。
こんな泣きながらでも脳内でこんなネタを繰り広げてしまう私って何なの?
多分だけど人間として致命的な欠陥を抱えてる。だから一人でいるべきだと考えたんだ。
それでも、それ以上に。
誰かの隣に居場所が欲しかったんだ。
「うん、おかえり、卯月ちゃん」
佳織さんが腕を広げる。
私はその胸に泣きついた。
「ママー!」
「ママはやめて!?」
「あ、やっぱダメ……? そう……」
冗談だったが、私が本気で落ち込んでいるように見えたのか、佳織さんが慌てふためいた。
「あ、いや、う、卯月ちゃんがそう呼びたいなら、いいけど」
「マジ!? やった! ママー!!」
胸に顔を埋めると、甘くていい匂いがした。
「ママ、いい匂いがする……スーハースーハー……!」
「えっ、ええぇっ!?」
佳織さんが困惑するのが面白くってついやり過ぎてい?と、後頭部に衝撃が走った。
「調子に乗んな」
伊崎に後頭部を蹴られたらしい。
「普通頭を蹴る? こんな感動的な場面で?」
「官能的だったから蹴ったんだよ、バカ」
上手いこと言うな、こいつ……。さては天才か?
「仲直りできて良かったねぇ、中ちゃん」
何故か関係のない矢野が私たちのやり取りを見て涙ぐんでいた。
「良かったのかな」
「え、良くないん?」
「……どうかな、分かんない」
「友達は大事だよ、中ちゃん。んじゃ、あとは水入らずで、部外者のあたしは失礼すっかなー」
「……矢野、悪かったね、さっきは言いすぎた」
矢野が席を立つと、伊崎が謝罪の言葉を口にした。
「……んーん、実はね、伊崎さんの言葉、図星だったんよ。あたしこんなんだからか、友達にハブられちゃってさ。それで、一人ぼっちの中ちゃんなら友達になってくれるかなって。……あたしの方こそ、ごめんね」
矢野は気まずそうに笑うと、そのまま店を出て行った。
もしかしたら、どこかで何かが違っていれば。
あいつと友達になる世界線もあったのかもしれない。
それから優ちゃんも合流して、久しぶりにこの四人で集まった。
優ちゃんは私のことを聞いて家から急いで走ってきたらしく、店に着いたときには汗はダラダラで髪はボサボサになっていた。感動のあまり優ちゃんに飛びかかって抱きつこうとしたら、華麗に避けられて私は地面にキスをした。
「拒絶された!?」
「そ、そうじゃなくて、今すごい汗かいてるから」
「優ちゃんの汗はご褒美だよ!」
「卯月、それは流石にちょっと引く」
そんなドン引きの表情もご褒美だよと思ったが、早々にまた関係に亀裂が生じることを恐れて口には出せなかった。
戻ってきた。
この温かな場所に。
それが本当に良いことだったのかは、まだ分からないけれど。
今はただ嬉しい。
――――ここで、この場所で、妹にした仕打ちを、友達に吐いた暴言をもう忘れたのか?
頭の中で、冷静な自分がそう言った。
「……あ」
思い出した。思い出しちゃった。
私は何をバカみたいにはしゃいでるんだ。
「卯月? ご、ごめんなさい、引くは言いすぎた」
私の表情が曇ったことに気づいた優ちゃんが心配そうに顔を覗き込んできた。
「そ、そうじゃ、なくってね……私、優ちゃんにあれだけ酷いこと言って……一人になるって啖呵切って……なのに、またここにいて……私……」
体が、言葉が震える。
自分が何を言っているのか分からなくなる。
「……卯月は、それを罪だと思っているのね」
「……うん、多分、そう」
「その罪はきっと、私が許すと言っても、あなた自身が許さないでしょう」
「…………」
「……それでいいんだと思う。罪は消えるものでも許されるものでもなく、向き合っていくものだから」
「向き合う……もの……」
優ちゃんが私の目をじっと見て、こくりと頷く。
「だから、一つだけ約束して。もうその罪の意識から逃げ出さないって」
それはきっと、今後みんなと一緒にいる中でまた同じように苦しむことがあっても、一人になろうとするなと、そういうことだと理解した。
「……うん、分かった。約束、する」




