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美少女JKなろう作家の完璧かつ華麗なる日常  作者: 中 卯月
第六部 ポイント・オブ・ノー・リターン
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三月七日 ハッピーバースデー卯月ちゃん

 今日は誕生日でした。

 日曜日です。なので、トイレ以外は丸一日ベッドの中でソシャゲをやって誰にも会わずに過ごしました。


 当然、誰からも祝われません。

 これが私の選んだ道です。

 一人で生きる道です。

 でも、こんなことはもう慣れっこです。


 だから、ノーダメージ。

 何も感じない。

 これでいいのです。


「腹減ったな……」


 夜の十時を過ぎたころ、丸一日何も口にしていなかった私は食い物を求めてのそのそとベッドから這い出た。

 二階の自室から一階の居間へと降りる途中、妹の部屋の前を通り過ぎながら、そういえば去年はあいつがケーキを作ってくれたんだっけと思い出す。


 ケーキを作るところを見られるのが恥ずかしいからと妹に家を追い出されて、出た先であの子と出会って。

 それから、高校に入ってすぐに再会したんだよね。


 私の最後の友達。大切だった。大好きだった。

 なのに、私が愚かなばかりにその縁を切ってしまった。


 もう二度と取り戻せない。

 キラキラした日々。

 夢のような日々。

 幸せな日々。


 満ち足りてしまった。

 それに耐えられなかった。

 アイデンティティが崩壊した。


 心には容量があり、容量には個人差がある。

 それは多分、他者との触れ合いによってのみ育むことができるものだ。

 対人経験値が少ない人間は、だいたいにおいてその容量が小さい。自分のことだけですぐにいっぱいいっぱいになるからだ。

 他者という存在は心の容量を圧迫する。他者と触れ合い、幸せな気持ちになっても嫌な気持ちになっても、その“気持ち”というものそのものが容量を食い潰すのだ。


 私はきっと、幸せであるということに心を食い潰されてしまったのだろうと、そう推察するのであった。


「…………」


 アホらしい。

 こんな言葉をこねくり回したところで何の意味もない。


 要するに私が愚かちゃんでしたの一言で済む問題だ。

 愚かちゃんは一人で生きていくべきだと、そう決めたのだから、今さらこんなことをグチグチと考えるのはクソださ過ぎる。


 そんなモノローグに耽っているうちに体は自動的に台所に辿り着いていて、自動的に鍋に水を入れ、自動的にコンロに火をつけて、自動的にインスタントラーメンの袋を開けていた。


 一人でも自動的に生きていけますよ。

 ヤケクソ気味に乾麺を鍋に突っ込んだところで、ポケットに入れていたスマホが振動した。ソシャゲのスタミナでも全快したのだろうか、いやでもさっき使い果たしたところだしおかしいなと考えながらスマホの画面を見る。


 途端に、視界が滲んだ。

 頭が真っ白になった。

 あるはずのないものが、そこにあった。


 違う。

 本当はもしかしたらって、ずっと思ってた。


 愚かな私は。

 自分で言うほど覚悟の足りていない私は。

 最後に残ったその繋がりを断つことができていなかったから。


 泣いていたらインスタントラーメンはすっかり伸び切ってしまい、色々な意味でしょっぱい味がした。



挿絵(By みてみん)

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