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美少女JKなろう作家の完璧かつ華麗なる日常  作者: 中 卯月
第六部 ポイント・オブ・ノー・リターン
52/78

6-15 さようなら、大好きな人たち

「あたしはただ、せっかくできた友達を失いたくないだけなんだと思う。こんなんだから友達が多い方でもないしね。ただ単純に寂しいからって……多分それだけの理由だよ。あんたのためだとか、友情は尊いものだからとか、そんな大層なことは言えないけどさ……」


 それから伊崎は目を瞑り、深呼吸をしてから言葉を続けた。


「あたしは、あたしのためにあんたと一緒にいたいと思ってる」


 うん。

 ……うん。

 これは、とても伊崎らしい。


 私は――――


 ――――いい友達を、持てたと思う。


「……うん、あんがとね、伊崎。めちゃくちゃ嬉しい。ニヤケが止まんないや」


「…………」


 伊崎はこれまでの人生の中でも私のことを一番分かってくれた人間だったと思う。


 だから多分、私の答えもきっと察してる。

 私が嬉しいって言ったことに対して黙ってるのは、そういうことだと思う。


「けどね、私はやっぱりみんなのところには戻れない。戻りたい気持ちはあるけどね、また絶対迷惑かけちゃうと思うから。大事な友達だから、大好きな友達だから、そんなのはもう嫌なんだ」


「……卯月」


 これでいい。伊崎のことを本当に好きだと思えたから、逆に決心がつけられた。

 私はこれからまた、ひっそりと生きていけばいい。


「……じゃあ。制服届けてくれて、あんがとね」


 精一杯の笑顔を作って、片手を上げて伊崎にバイバイして背中を向けた。


 一人は寂しいけど。

 心の底から好きだと言える人たちに出会えただけでも、良かったって、そう思えるから。


 ここからまた、新しい一歩を踏み出すんだ。

 決意を胸に、歩みを進める。


「じゃあ何でさっきあたしを呼び止めたんだよ……! 戻りたいって思えるなら、戻ってきなよ!」


 涙声だった。顔は見えないけど、多分泣いてるんだろう。

 伊崎のくせに泣くなよ。こっちまで泣けてくるだろ。


「ふざけんな! あんたは口だけだよ! 本当にあたしらのことが大事だって思ってるなら、いなくならないでよ!」


 うるせぇな、その通りだよ。

 結局、私は自分のことが一番大切なんだろう。

 傷つけたくないのは、自分がそれで傷つきたくないから。それが真実だ。


 ていうかさ、おまえ、そんなキャラじゃないだろ。

 伊崎藍子はもっとサバサバとしててさ。

 そんな泣いて引き止めるようなことしないよ。

 解釈違いなんですけど。


「あんた……これからずっと一人で生きていくの……?」


 はい、そうです。

 ……ごめんね、伊崎。私なんかと関わったばかりに、そんな泣かせちゃって。


 でも、最初で最後に自分のためにこんな泣いてくれる友達ができて、私は幸せだよ。


 ……ありがとうね。




◇◆◇




 ヅャスコを出ると、すぐそこに見知った顔がいた。


「ヘイ彼女、そこのメクドナルドで飯でもどうだ?」


 先輩だった。


「ナンパですか。彼女がいるのにサイテーですね」


「ああ、彼女なら後ろにいるが」


 優ちゃんが先輩の後ろからおずおずと出てきた。

 ……私がここにいたって、伊崎が教えたんだろうな。


「……卯月」


 名前を呼ばれる。

 ただそれだけで、伊崎との別れで堪えていたものが両目から溢れ出してしまった。


 罪悪感なのか、寂寥感なのか。何とも形容しがたい感情を心が覆った。


 大好きだった優ちゃん。

 私をドン底からすくい上げてくれた優ちゃん。

 私の、初めての友達。


「……ごめんなさい。卯月はもう私の顔なんて見たくもないかもしれないけど……どうしても、卯月に謝りたかったの……」


「……なんで? 神谷さんは別に何も悪くないよ?」


「ううん、あなたの家の事情も知らずに首を突っ込んで……偉そうなこと言って……叩いちゃって……私が悪い……本当にごめんなさい」


 優ちゃんが深々と頭を下げた。


「…………」


 返す言葉が浮かばない。

 悪いのは私なのに、優ちゃんが頭を下げる必要なんてないのに。


 大好きな人にこんなことをさせて、私は本当に何なんだ。

 自己嫌悪に苛まれ、その場から逃げるように駆け出した。二人の横を通り過ぎようとしたとき、先輩に足を引っ掛けられて盛大に転けた。


「…………」


 優ちゃんが呆気に取られた顔をしている。


「あんた外道か!? 怪我したらどうすんですか!? 普通泣いて逃げる女の足引っ掛けますか!?」


 流石の私もブチギレて先輩の胸ぐらに掴みかかった。


「ああ、普通じゃないからな」


 この男、当然かのように言ってのけやがった。

 ……分かった、こいつは基地外だ。


「普通じゃない人間の生き方は二つある」


「……はあ?」


 突然何か語り始めやがった。

 ブン殴っても許されるかな。


「一人で生きていくか、普通じゃない者同士で傷を舐め合うか」


「……何が言いたいんです?」


「だから舐め合おうぜ、卯月」


 私の手が出るよりも先に優ちゃんの足が出た。

 ケツを思い切り蹴られ、先輩はその場でゴロゴロとのたうち回った。これ年末の笑ってはいけないやつでよく見るやつだ。


「大丈夫ですか田中さん」


 あんまりにも痛そうだったので、思わず半笑いで聞いてしまった。


「田中じゃねーーーよ!」


「暁が悪い。今のはセクハラ」


 優ちゃんはとても冷めた目で自分の彼氏を見下ろしていた。


 場の空気が弛緩した。

 ……何だこれ。さっきまで超シリアスだったんですけど、急にギャグ時空にするのやめてくれませんか。


「……セクハラのつもりはない」


「でも本当は?」


「……ほんの少しはそういう意図もありました」


 優ちゃんに詰問され、先輩は何故か敬語になりながら正直にゲロった。今度は顔面を蹴られてぶっ飛んでいった。


「……卯月、重ね重ね、本当にごめんなさい」


「い、いや、別にいいけど……」


「……お、俺が何を言いたいかと言うとだな」


 ぶっ飛んでいった先輩がヨロヨロと戻ってきた。頑丈だなこの人。


「人は一人では生きていけない」


 ヨボヨボとしながら、B級映画のB級決め台詞のようなことを言い出した。


「私はずっと一人で生きてきましたけど」


「俺もそうだ。十八になるまで友達もいなかったけど、生きてはこれたよ」


「秒速で矛盾するのやめてくれます!? 何なのこの人、頭でも打ったの!? いや蹴られてたな! 普通に怖いんですけど!」


「暁はたまに頭がおかしくなるから……」


 優ちゃんが呆れ顔でため息をついた。その頭がおかしい人、あなたの彼氏ですけど。


「うるせぇな。……卯月、おまえどうせ一人になるつもりなんだろ?」


「……ええ、まあ」


「却下だ」


 ……んな。

 まさかの言葉に空いた口が塞がらなくなる。

 何を言ってやがりますか、このイカれポンチは?


「どうして先輩に却下されなきゃダメなんですか? 私のことは私が決めます」


「優が悲しむからに決まってんだろ」


 う、う……う、うぜぇ〜〜〜!!

 最後の最後まで惚気かよ!?


「そ、そんなの、そっちの都合ばかりで私の気持ちはどうなるんです!?」


「ああ。おまえは本当はどうしたいんだ?」


 そんなの、もう伊崎と話したときに決めている。

 私は一人に戻る。そんで、シコシコと創作をやって生きる。これは決定事項だ。


「わ、私は……」


 言え。一人で生きていくと、この馬鹿野郎に言ってやれ。

 私の本当の気持ちを言えば、それでいい。


「ひ、一人で……」


 声が震える。

 言葉が喉に引っかかって出てこない。

 クソ、クソクソクソ、あーもうムカつくなぁ!

 せっかく決心してたのに!


 ……どうして、どいつもこいつも、そうやって揺るがそうとしてくるんだよ。

 伊崎に、あそこまで大見栄切って一人になるって言ったのに。やめてよ、本当に。


「……私は卯月の選択を尊重する」


 ……ああ、やっぱり。

 彼女の声は、とても気持ちが安らぐな。


 優ちゃん、ありがとう。

 みんなと出会えて良かった。

 幸せだった。


 だから言うね。

 私の本当の気持ちを。


「私は、やっぱり一人で生きていくよ。今までありがとうね。……優ちゃん」


「……うん。最後に名前で呼んでくれてありがとう、卯月」


「……うん」


 これで、最後。

 しっかりと目に焼き付けておこう。

 私の最初で最後の友達の顔を。


 …………。

 ……うん、脳内フォルダに保存完了。


「……それじゃ、私行くね」


 最後はせめて笑顔で。

 優ちゃんも、笑ってくれた。


 満足した。これ以上ない別れ方だ。先輩に足を引っ掛けられたのは一生根に持つけど。


 さようなら、大好きな人たち。

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