6-7 どうしてこうなった
「へい、らっしゃい……って何だ、卯月か」
お店に入るや否やダルそうな店員に出迎えられた。
「何だその態度は伊崎。こちとらお客様なんですけど?」
「はいはい。優たちも来てるよ。近くの席でいい?」
「やったぜ、優ちゃんの隣に座りたい」
「そりゃ無理だ。男連れだかんね」
ちっ、先輩も来てやがるのか……。
「じゃ、一名様……じゃないね、後ろのちっこいのは?」
伊崎が私の背中に隠れていた妹に気がつく。
「ヒッ……おネエ、怖い! 不良に睨まれたよー!」
おお妹よ、おまえもヤンキーは苦手か。気が合うな。
「妹よ、安心したまい。この目つきの悪いゴロツキは何を隠そう私の友達なのさ」
「嘘でしょ。おネエがこんなのと仲良くなれるわけないもん」
「私もそう思う」
自分でも何で伊崎と仲良くなれたのかよく分からん。
「無茶苦茶言ってくれるな、あんたら……。ま、いいや、テキトーに座っててよ。客も今は優のとこしかいないしね」
「あいよー」
自由な店である。何で潰れないんだろう。
奥側にある四人掛けのテーブル席に優ちゃんとその他一名が隣り合って座ってるのが見えたので、その対面に妹と二人でお邪魔した。
「卯月、来たのね」
「うん」
優ちゃんが微笑んでくれる。天使だ。嫁に欲しい。
「えと、紹介するね、これ私の妹」
「これ!? ねえ、これって皐月のこと言ってるの!?」
私の紹介があまりに雑すぎたせいか、妹がショックを受けたよう顔をしていた。
「うるせえ! 優ちゃんにちゃんと挨拶しろ!」
「やだ。そんな紹介のされ方やだもん」
妹がプイッとそっぽを向いた。
こ、このクソガキ……!
「姉妹揃ってクセが強いな」
先輩が呆れたように言う。
「うるせぇぞ女泣かせ」
「おいやめろマジで」
私の反撃に先輩があたふたとする。ざまあねぇぜ。
「随分と仲良くなったのね?」
優ちゃんが先輩をジト目で睨む。
「いや違うんだって! 断じてそういうんじゃないからな!?」
「分かってる。ほんの冗談」
動揺しまくる先輩を見て優ちゃんがくすくすと笑った。
「……勘弁してくれ」
先輩が安堵とも呆れとも取れるため息をつく。
「それで、皐月ちゃん? お姉さんにはいつもお世話になっています、神谷優です」
優ちゃんがわざわざ妹に頭を下げてくれた。いつもお世話になってるのは私の方ですけど。
「……ども、姉がいつもお世話になってます。うちの姉は変人ですから、ご迷惑おかけしてませんか?」
おい妹この野郎、ご迷惑おかけしてるのも変人なのも事実かもしれないけど、おまえに言われたくないんですけど。
「いいえ。卯月のおかげでいつも楽しいわ」
「それは姉を道化として見て楽しんでるということでしょうか?」
妹の言葉にはどこか棘が含まれていた。
怪訝に思ったのか、優ちゃんがわずかに目を細めたので流石に私も焦った。
「ね、ねえ、おまえいきなり何言ってんの? 初対面の相手に不躾すぎない?」
「実際に見てみて分かったけど、おネエがこんなリア充やさっきのヤンキーみたいなのと友達になれるわけないよ。おネエ騙されてるよ」
あ、ふーん、なるほど。
あくまで私に友達がいることを認めたくないわけか。
でも、どうしてそこまで?
……もともと頭のおかしい奴だと思ってたけど、これはちょっと常軌を逸している。
「皐月、そこの女たらしの先輩のことを悪く言うのは構わないけど、優ちゃんや伊崎のことを悪く言うのは許さないよ。謝りなさい」
「おい、さりげなく俺を貶めてるんじゃねぇ。おまえも俺に謝れ」
すまねぇ先輩、ちょっと冗談でも挟まないと空気がやばくなりそうだから犠牲の犠牲になってくれ。
「皐月はっ! おネエのことを心配してるんだよっ!?」
妹が私の手を握りしめる。
う、うぜぇー……!
ちょっと、いや結構マジでキレそう。
「おまえは私の何なんだよ!? ただの妹でしょ!? 余計なお世話だバーカ!」
「バカじゃないもん! 保健と体育は5だもん!」
やっぱりバカじゃねーか!
あーもう、うざいうざいうざい!
こいつを友達と会わせたりしなきゃよかった!
「皐月、あんたね――――ひょわ!?」
声を張り上げようとした刹那、頭上から何か冷たい液体が降ってきた。
見上げると伊崎が水が入っていたであろうコップを逆さに持って立っていた。
「少し頭冷やしなよ」
私にぶっかけられた水と同じくらい冷ややかな言葉だった。
その場にいた全員が呆気に取られている。
「お、お、おまえ、客に水ぶっかける、普通!?!?」
ずぶ濡れで猛抗議をする可哀想な私。
「あんたは客じゃないからね」
「う……」
そりゃ店内でいきなり姉妹喧嘩を始めるような奴はお客様とは言えないかもしれないけどさぁ……。
「ふん。ほら、友達だったらこんなことするわけないじゃん」
妹は何故か得意げにしていた。
「黙りなクソガキ。あんたにも水かけてやろうか?」
伊崎がドスを利かせ、妹を睨んだ。
うわ、やば、こわ……こいつ凄むとマジで怖いな……何人か殺ってそう……。
「……さ、皐月は、そ、そんなの、怖くないもん」
ガタガタ震えながら言っても説得力皆無である。
「まったく、これからせっかくいいセリフを言うところだったのにさ。あんたの妹の横やりで台無しだよ」
「うちの愚妹がどうもすみませんね。で、いいセリフって何さ伊崎さん」
「卯月、あんたは客じゃない。あたしの友達さ」
伊崎が決まった……というような顔をしたので、無性に殴りたくなった。
「友達に水をかけるのもどうかと思うんですけどね、伊崎さん。で、私びしょ濡れなんだけど、どうすればいい?」
「ああ、着替えがあるから奥においでよ。今着てるのも乾燥機にかけときゃ帰るときまでには乾くでしょ」
「おまえの家かよ」
「いや、佳織んちだけど?」
何当たり前のことを聞いてるんだこいつはといったような目で見られた。こいつほんと破天荒だな。
伊崎に促されるまま店内の奥へと連れられ、着替えることになった。
◇◆◇
「卯月ちゃん、大丈夫? ごめんね、藍子が……」
秋月家の脱衣所。
私の服を乾燥機に入れながら、何故か佳織さんが謝罪してきた。
「いや、まあうん、伊崎だから、まあ仕方ないよね……」
「そうね、藍子だから……」
「して、佳織さん、これは?」
代わりにと渡された服を手に、疑問を呈さずにはいられなかった。
「メイド服だよ。卯月ちゃんに似合うかなって」
「ほわい!? 何故にメイド服!? お店の制服とかでもなく!? メイド服!? 何であるの!?」
混乱しすぎて二回メイド服って言ってしまった。
「うちのお兄ちゃんがそういう衣装とか好きで……私も自分が着るのは嫌だけど、人が着てるのは見るのは好きだから、せっかくだから卯月ちゃんに着てもらおっかなって」
この人、結構天然でドSだな。
「俺を呼んだか、妹よ!」
佳織さんのお兄さんが脱衣所のドアを開けて颯爽と現れた。
「…………」
下着姿でメイド服を持つ私と目が合うと、お兄さんは無言のままドアを閉めようとしたが――。
「お兄ちゃんのアホ! えっち!」
ドアが閉まるよりも早く佳織さんが柔軟剤の容器(2リットル)を投擲し、それをモロ顔面に受けてそのまま卒倒したのだった。
「ご、ごめんね、卯月ちゃん、うちのアホが……本当にごめん……」
「う、う、うん……え、ええんやで……」
下着姿を見られたことよりも、佳織さんの剛腕にビビる私だった。




