6-5 できちゃった
午後の授業をまるまるサボるという暴挙を働いてしまった。もう帰りのホームルームも終わっている。ほんの少しの罪悪感を胸に教室に戻ると、優ちゃんと伊崎が待ってくれていた。
「おかえり、不良」
伊崎がニヤニヤとしている。
「おまえにだけは言われたくないよ……。佳織さんは?」
「家の手伝いあるからって先に帰ったよ。あたしもこの後佳織んちでバイト」
「ほーん。じゃあ私も伊崎の似合ってねぇウェイトレス姿でも見に行くかな」
「貧相な体してるあんたよりかは似合うよ」
伊崎がこれ見よがしに胸を張ってくる。
こいつは私たち四人の中で一番乳がでかい。死ね。
「おい超えちゃいけないライン考えろよ!? ねぇ優ちゃん! 今のひどいよね!?」
「そこで私に振らないで、傷つくから……」
優ちゃんは私たち四人の中で一番小さい。その、なんていうか、全体的に小さくて軽い。
「それよりも、暁と話してどうだった?」
「面白い人だった」
「そう。悩みは解決できたの?」
「……悩み? なんだっけ?」
「……デートスポットの話」
「あ」
完全に忘れてた。
やべぇぇぇ! その話なんもしてねぇぇぇ!
ていうか、もうこの後すぐ妹と合流じゃん!?
「…………」
気のせいだろうか。優ちゃんがアホだこいつって目で私を見ている気がする。
「アホだなこいつ」
うるせぇぞ伊崎。歯に衣着せろ。
「今回ばかりは藍子に同感」
「優ちゃん!?」
あ、あの優しかった優ちゃんが私を白い目で見てる!?
つ、つらい……でもちょっと気持ちいいかも……。
「バタバタしてて聞けてなかったけど、そのデートの相手って誰なの?」
「い、妹です……」
萎縮し、優ちゃんに対して敬語になってしまう私だった。
「デートするの? 妹と? ……姉妹百合?」
優ちゃんが怪訝な顔をする。
「そういうのじゃないから!? ていうか優ちゃん姉妹百合とかいう言葉知ってたの!?」
私の言葉に優ちゃんがしまったという顔をする。
「……知らない。何それ」
この人、とぼけるの超下手くそだな!?
今までそんな素振りを見せてこなかったけど、優ちゃんってもしかして……。
私と同類!?
その件についてもっと追求したかったが、妹から電話がきてしまった。
「も、もしもし」
『もしもし〜、おネエ? 皐月だよ〜』
知ってるよ。
ど、どうしよう、どこ行くか何も決めてないのに。
急用ができたとか言ってブッチしちゃおっかな……。
『今日どこ行くか決まった? めっちゃ楽しみ〜!』
ダメだ、急用ができたくらいじゃこのテンションの妹は止まらないだろう。もっと、なんかその、物凄いものができないとダメだ。
「さ、皐月、ごめん……その、ちょっとアレができちゃって、今日行けないかも……」
『えー! やだやだ!! アレってなによー!?』
「その、えと……」
そりゃそうだよ、アレって何だよ。
ど、どうしよう、何か起死回生の一言を絞り出せ、私!
ここでクエスチョンだ。
卯月ちゃんにできちゃったアレとは?
1.急用
2.ニキビ
3.ベイビー
「じ、実は……お腹に子供ができちゃってさ……」
『……は?』
「は?」
「は?」
電話先の空気と、それからこの場の空気まで凍りつくのを肌で感じた。
やべぇ、選択肢ミスった! これじゃなかった! セーブデータからロードしてやり直せないかな!?
「う、うそだよ! 今のジョークだからね!?」
妹は応答しない。
スマホの画面を見ると既に通話を切られた後だった。
「……さ、さあて、あたしもバイトいかんと」
「い、伊崎さん!? 今の嘘だからね!? 私まだ処女だかんね!?」
「……卯月、あんたがこれからどういう選択をするか分からないけどね、何があってもあたしだけはあんたの友達だよ」
「名言っぽいこと言うのやめろよ!?」
「あっはっは、ま、頑張んなー」
ゲラゲラ笑いながら伊崎が教室から出ていった。
……まあ、あの様子ならあいつは嘘だって分かってくれてるか。
優ちゃんと二人残され、何だか気まずい感じになる。
「卯月」
「は、はい」
や、やびゃい、優ちゃん、この目はちょっと怒ってらっしゃる?
「……私だって、何があったって卯月の友達だから」
違った! 伊崎に対抗意識を燃やしてただけだった!
しかもこっちはマジで信じてそう!
それから優ちゃんの誤解を解くのに三十分かかり、言っていい嘘と言っちゃいけない嘘があると叱られた。




