6-3 なんか惚気られた
無駄に注目を集めてしまったため場所を変えようということになり、私たちは屋上へとやってきた。
私たちと言っても来たのは私と彼氏さんの二人だけだったが。伊崎はそもそも興味がなく、佳織さんと香苗ちゃん先輩がいたら話がまとまらなくなるからと、優ちゃんがその二人を物理的に抑え込んだのだった。
優ちゃんは特に香苗ちゃん先輩に対しては容赦がなかった。あれ多分もうちょっとで腕折れてたよ……。
ていうか、何これメチャクチャ緊張するんだけど。
最近は顔馴染みとばかり一緒にいたからあんまりコミュ障発動することもなかったけど、これはアカンて。手汗止まらんて。
屋上のフェンスを背もたれ代わりに寄っかかっているが、そのフェンスを握る手から汗が滴り落ちている。何これ病気?
ほぼ初絡みの年上男子と二人きりとか頭がフットーしちゃうよぉ!
「えーと、卯月って呼んでもいいか?」
「は、ひゃ、ふぁ、ふゃい!」
【悲報】卯月ちゃん、緊張のあまり言語機能が崩壊する
「優からよく話は聞いてるよ」
「さ、ささ、さいですか?」
うわぁ、どんな話されてるんだろう……。
カップルの笑い話のネタとかにされてんのかな……こえぇな……。
……いやいや、優ちゃんはそんな子じゃないはずだ。それにこの人だって、優ちゃんが選んだ人なんだからきっと良い人なはず。
「さっきは、その、何だ。香苗が勝手に話を進めて悪かった。本当は恋だの何だの、そういう話じゃないんだろ?」
「そ、そそ、そうです! な、なんで分かるんですか!? エスパーですか!?」
私がそう問いかけると何か面白かったのか、彼はフッと笑った。
「いや悪い、今笑ったのはバカにしたとかじゃなくってだな、優から聞いてた通りの子だなって思ってさ。で、なんで分かるも何も、香苗に詰め寄られてたとき違うって自分で言いかけてたろ」
そういやそうだった。
いやでも、よくあんな騒がしい中で私のボソボソ声を聞き逃さなかったな、この人。
「さて、昼休みが終わるまでもう時間もない。俺で力になれるかは分からんが、話だけでも聞こうか」
「え、ええとですね、あのぉ、えー、あー、えー……」
顔を上げられない。
言葉も出てこない。
冷や汗止まんねぇ。
私は完全にコミュ障モードに移行してしまった。こうなるともうダメなことは私自身が一番よく知っている。
気まずい沈黙が場を支配し、それからどれだけの時間が過ぎたのか。
昼休み終了のチャイムが流れたが、体を動かすことも声を発することもできないままでいた。
やばい。
絶対おかしい子だと思われてる。
やだな。
この人が優ちゃんにあんなのと友達やめろとか言ったらどうしよう。
なんで私は、こんななんだろう。
この性格が災いして、自分だけじゃなく人様にまで迷惑をかけてしまうんだ。
私は無意識にそれを自覚していたから、中学までずっと一人でいたのかもしれない。
人と関わっちゃいけない類の人間なのに、優ちゃんから差し伸べられた手を取ってしまった。
その手を取っちゃダメだったんだ。
やっぱり私は一人でいた方が――――
「卯月」
先輩から名前を呼ばれたことで、ネガティブ思考がシャットアウトされる。
……ああ、なんか優ちゃんに名前を呼ばれるときに似てるな。大丈夫だから、焦らなくていいから。そんな風に言われてるような気持ちになる、優しい名前の呼び方だ。
「少しゆっくり話そうか」
「で、で、でも、午後の授業が……しょ、しょんなご迷惑おかけするわけには……」
「俺は元々サボる予定だったからいいんだよ。ああ、優には内緒にしてくれな。サボったのバレたら怒られるから」
「いや、私も一緒にサボって帰ってこなかったらその時点でバレるのでは!?」
「ああ、それなら卯月は体調が悪くて保健室にいたってことにしろ」
この人結構メチャクチャだな!?
「それより俺はもともとサボり常習犯だからいいけど、卯月はサボっても平気なのか?」
「あー……ええと……サ、サボッたことは今までないですけど……こ、これも経験だなと思うので……サ、サボります、はい」
創作をするのにも色々な経験はしておくべきだろうし。人の彼氏とはいえ男子と二人きりで話したこととか今までないから、ラブコメ書くときとかに活かせそうだし。
ああ、それよりもどうしよう。
先輩が私に惚れちゃったりしたら、優ちゃんと三角関係になっちゃうよ。
いや、あるいは……3●(ピー音)!?
やべぇよ、Pのところにピー音を入れても隠しきれてないよ。むしろ強調してるよ。
「俺のことを少し話そうか。何も知らない相手に何か相談しろって言っても難しいもんな」
それから先輩は話し始めた。
優ちゃんとの馴れ初めを。
それは簡単に言えば惚気だった。
あ、これないわ。三角関係も3●(ピー音)もないわ。この人、優ちゃんに死ぬほどべた惚れしてるわ。「俺がお前を守ってやる」とかそういうクサい台詞を現実で言う奴いたんだっていうお気持ちになりました。
それから一時間、ずっと惚気話を聞かされた私はすっかりお腹いっぱいになったのだった。




