6-1 皐月なのに八月生まれとはこれ如何に
私は一人称が自分の名前の女が嫌いだ。
自己肯定感高すぎない?
そんなに自分のことが大好きか?
正直羨ましいよ、ちくしょう。
隣で朝食を食べる妹をガン見しながらそう思う卯月ちゃんであった。
「な、なに? 皐月の顔に何かついてる?」
「別に。おまえって可愛いよね」
皮肉を込めて言ったつもりだが、妹はそのままの意味で受け取ったのか頬を赤く染めた。
「お、おネエにそんなこと言われたら、ドキドキしちゃうよ……」
妹が胸元を押さえながらそんなことを言う。
やめろ、その恋する乙女みたいな反応。
「ごちそーさまでした」
食事の途中だったが、妹から逃げたい一心で席を立った。
「卯月、まだ残ってるでしょう」
それまで沈黙していたママンがジト目を向けてくる。
「食欲ない。学校いってきます」
また怒られるかとも思ったが、ママンはため息をつくだけでそれ以上は何も言わなかった。
機嫌がいいのか、あるいは何を言っても無駄といよいよ見限られたのか。どちらにせよ私にとっては好都合なので、そのまま歯磨きをして家を出た。
◇◆◇
家を出て間もなく、背後から誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。
「おネエ〜!」
案の定と言うべきか、妹だった。
「何だよ」
「ねぇ、皐月のことで何か忘れてることない?
妹が私の隣を歩きながらかまちょな彼女みたいなことを言い出してきた。
「え? おまえ誕生日とかだっけ?」
私は家族の誕生日を覚えていない。興味がないからである。
「ちーがーうー! 皐月の誕生日は来月だよ!」
「へぇ〜」
空返事をしながらスマホをポチる。そんなことよりも私はTwitterでフォロワーのみんなに朝の挨拶をしなければならないのだ。
「てか、皐月はおネエの誕生日にケーキを焼いてあげたのに……おネエは皐月の誕生日覚えていないんだ……」
ごめんな妹。
お姉ちゃん、割とガチめにクズなんだ。
流石にほんの少しだけ罪悪感を覚えた。
「う、うそうそ、本当は覚えてるって」
「本当? じゃあ何月何日か言ってみて?」
「八月八日」
「……なんだ、ちゃんと覚えてるじゃん。えへへ」
え! マジで!?
メチャクチャ適当に言っただけだったのに当たってしまった。
ていうか何で皐月って名前なのに八月生まれなんだよ。名付けた奴のセンスを疑うわ。
「って、そうじゃなくってー! 皐月との約束、忘れてないよね!?」
「へ? あ、うん、そりゃもちろん」
何か約束してたっけ。
「ね、今日学校終わった後でいい?」
「あー、いいよ」
なんのことか知らんけど。
「やった! おネエとデート!」
「デェト!?」
予想外の単語に思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
いや、待てよ。
言われてみれば結構前にそんな話をした気がする。※4-7話参照
「うん。おネエから誘ってくれるのずーっと待ってたのに、何も言ってくれないんだもん」
妹が不満げに頬を膨らませる。
「ごめん、私って照れ屋さんだから」
「もぉ〜、そんなところもカ・ワ・イ・イ❤」
うるせぇ。
「じゃあ放課後までにデートコース考えといてね。あ、ヅャスコは禁止ね! ばっちり皐月をエスコートしてね、おネエ❤」
妹はそう言うとウインクをして走り去っていった。
「え、えぇ〜……」
エスコートと言われても。
デート経験皆無なお姉ちゃんには難易度高いぞ、妹よ。しかもみんな大好きヅャスコを封じるとか鬼畜か。
「……優ちゃんに相談してみるかな」
私たちのグループ内で唯一の彼氏持ちだし。
きっと何かいいところを知ってるはずだ。
私はそんな他力本願な思いを胸に学校へと向かった。




