5-4 ムー
伊崎についていって辿り着いた先は、この田舎町唯一の書店だった。
「久々に来たな、ここ……」
たしか最後にここを訪れたのは、小学生のときだったか。
気難しそうな店主のオッサンに恐る恐る漫画の在庫を確認したら「そこになかったらない」と素っ気ない対応をされ、二度と来るかバカヤロウと心の中で泣き叫んで走り去ったのが最後と記憶している。
別にいいんですよ。今のネット社会、本なんてAmaz●nで買えるんですよ。貴様はその塩対応で一人の客を失ったんだザマァみやがれ。一時期、そんな呪詛をこの本屋の前を通るたびにブツブツ呟いてたこともある。
そんなことをしていた手前、なんだか入りにくい。いやまあ、店主のオッサンは私のことも、そんなことがあったことも覚えちゃいないだろうけどさ。
そんな私の気持ちなど知る由もない伊崎がずかずかと店内に入っていってしまったので、私はそろそろとその背中に隠れるように入店した。
店内に客の姿はまばらで、私達の他には親子連れが一組とご年配の方々がちらほらといるだけだった。例の店主のオッサンはカウンター内で新聞を広げていて、アルバイトらしきメガネをかけた髪の長い女店員はハタキを使って棚の清掃をしていた。
「おっす」
「あら、伊崎さん。いらっしゃいませ」
伊崎が女の店員に声をかける。
やり取りから察するに、どうやら二人は顔見知りらしい。
「茜さん、なんか面白い本入ってきた?」
「伊崎さん、ナイスタイミングです! ちょうど月●ムーの最新号が入ってきたところですよ!」
茜と呼ばれた店員は鼻息を荒くして一冊の雑誌を棚から取り出した。
「い、いや、だから、あたしオカルトは興味ないんだって」
「残念です……ん?」
女店員が伊崎の後ろに立つ私に気が付き、目が合った。
気のせいだろうが、彼女がかけているメガネがキラリと光った気がした。
「あなた……」
「は、はい?」
「オカルト好きそうですね?」
何を根拠に!? いや、まあ嫌いではないけど、特段好きってほどでもないんだけど!?
「これは私からのプレゼントです。ああ、お代は結構です。私が払っておきますから」
半ば押し付けられるような形で雑誌を渡される。
「え、あ、えぇ……?」
私が戸惑っているうちに女店員は他の客に呼ばれていまい、こちらに会釈をして去っていってしまった。
「ねぇ伊崎、これどうすればいい?」
「さあ? もらっとけば?」
「テメェ、人ごとだと思いやがって」
「実際人ごとだからね」
「おまえ覚えてろよ」
「何を?」
「この月●厶ーを読んで宇宙人と友達になれたら、真っ先におまえを実験体として宇宙人に売り飛ばしてやる」
「あはは、高校に上がるまで地球人の友達すら作れなかった奴が何か言ってるわ」
グサッ!
ヤンキーの無慈悲かつ無神経な言葉の暴力が卯月ちゃんを襲う。
「お、おまえー! 言っていいことと悪いことってあるだろ!? 超えちゃいけないライン考えろよ!?」
涙目で抗議する私をスルーして伊崎は店の奥の方へと進んでいく。
ちくしょう! やっぱりこいつ嫌いだ!




