5-3 処女喪失(頭)
「おっす」
待ち合わせ場所のヅャスコ前に到着すると、先に着いていた伊崎が片手を挙げて私を出迎えた。
そういえば、待ち合わせのときには大体最初にこいつが着いている。いつだったか、私が集合時間を間違えて一時間早く着いてしまった日にも伊崎は先に着いていた。
「うっす」
私も同じように軽く片手を挙げて挨拶をする。
「二人だけど何するん?」
四人のときは服を見たりゲーセンに行ったりがいつもの流れだが、伊崎は二人でしかできないことをと言っていた。なので、何か考えがあるのだろうと思っていたのだが。
「さあて、どうしようかな。卯月、せっかくだからエスコートしてよ」
「は、はぁ!?」
思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
このクソ陰キャの私にヤンキー女のエスコートをしろと? ホワイ?
「あっはは、うそうそ。あんたって、結構感情が素直に出るタイプだよね。可愛いじゃん」
伊崎が可笑しそうにケタケタと笑う。
「伊崎に可愛いって言われても一ミリも嬉しくないんだけど」
「そりゃそうだ。さて、それじゃ行こうかね」
伊崎はそう言うとヅャスコには入らず、どこかへと向かって歩き出した。
「どこ行くん?」
小走りで追いかけて、伊崎の隣に並ぶ。
「パチ屋」
「待てや」
「冗談だって」
「おまえが言うと冗談に聞こえないんだよ……」
パチンコを打つヤンキーの姿は想像が容易すぎる。
「ま、冗談は置いといて、だ。あんたさ、本は好き?」
「……それなりには。伊崎は好きなの?」
「それなりにね。月に二十冊くらいは読むかな」
「へ、へぇ〜」
マジかよ。それなりのレベル高すぎだろ。
私なんて月に一冊読むか読まないかなんですけど。ていうか、書く方が好きだから読まない月の方が多いんですけど。いや、文章を書く人間としてそれじゃダメって分かってはいるんだけどね? 本って読んでると眠くなってこない?(物書きのクズ)
「優も佳織もマンガしか読まなくってね。あたしもマンガは好きだけどさ、小説の話をできる奴も欲しかったのよ」
「ふぅん。なんか意外。優ちゃんめっちゃ文学少女っぽいのに」
「人は見た目によらないってことさね」
おまえがそれを言うと説得力がありすぎる。
出会った当初、私は伊崎のことを頭と素行が悪い不良少女だと思ってた。だけど実際は少し違っていて、こいつは少し前の定期考査でクラス一位、学年でも二位の成績を取ったのだ。
見た目に反して実は真面目だったとかそういうわけでもなく、授業中はいつも寝てるかサボってどこかに行っているのに。
本人に直接は聞きにくかったので、伊崎と幼馴染だという佳織さんに聞いてみたら「藍子ならこれくらい普通だよ?」という答えになっていない答えが返ってきた。佳織さんは佳織さんで、天然というかちょっとズレてるところがある。
「い、伊崎って」
「んー?」
今なら、そのときに抱いた疑問を本人に投げかけてもいいような気がした。それくらいのことを聞いてみても、相手を不愉快にさせないくらいの仲にはなれている気がする。人付き合い赤ちゃんだから知らんけど。
いや、でもそう思ってるのは私だけなのでは?
いらんこと言って相手を不愉快にさせるかも?
だったら、いっそ何も言わないでいた方が……。
そんなことを考えてしまい、続きの言葉を発せずにいると、隣を歩く伊崎が私の頭にポンと手を乗せてきた。
「あんたって本当に分かりやすいな。考えてること顔に出すぎ」
「そ、そんなことないし! てか、この手は何だよ!?」
「いやぁ、おもしろ……じゃなくて、可愛いなぁと思ってさ。どうせ変なこと言って、あたしの気に障ったらどうしよう、とか考えてたんでしょ?」
【悲報】卯月ちゃん、サトラレだった
そんなスレタイが高速で脳裏を過ぎる。
思考を言い当てられて動揺した私の顔がよほど面白かったらしく、伊崎がゲラゲラと笑い出した。
「そ、そんなに笑うなし! しょーがねーだろ、こちとら陰キャ歴十五年のプロのコミュ障なんだから! 人との距離感とか分かんねーんだもん!」
「あたしも人付き合いは苦手な方だけど、あんたもよっぽどだね」
私の頭をポンポンとしてきた伊崎の手を振り払った。
「ヤメレ!」
「お、河野大臣のモノマネ?」
「ち、違うわアホ! もー! おまえ嫌い! ていうか、何でおまえに頭ポンポンされにゃならんのだ! 初めての頭ポンポンはイケメンにされたかったのに! 私の頭ポンポン処女返せよ!」
キレた勢いでオタク特有の早口ムーブをかましてしまったが、伊崎はそんな私に対しても引くことはなく「頭ポンポン処女って何だよ」と、ただひたすらに爆笑していた。




