2-4 マンデリンって何だよキレるぞ
店内には四人掛けのテーブル席が八つ、最奥にキッチンと対面する形のカウンター席が四席あり、私たちはカウンター席の方へと案内された。近頃のウイルス騒動のせいだろうか、他に客の姿は見当たらない。
BGMとしてオサレなジャズ(音楽とかよく知らんけど多分ジャズだと思う)なんかが流されており、執筆に集中できそうな環境だなと思う。ほら私って根っからの小説家だからさ、すぐこういうこと考えちゃうんだよね。偉いだろ? 誰か褒めろよ。
「何飲む? それとも何か食う?」
ヤンキー女──伊崎藍子がメニューも見せずに注文を聞いてくる。こっちは何があるか分からないんですけど。キレるぞ。
「マンデリン」
優ちゃんはこの店の常連さんなのだろう、メニューも見ずに颯爽と注文をしてみせた。
え? マンデリンって何? タンバリンじゃなくって?
「あいよ。あんたは? ああ、そういや、あんた名前なんだっけ?」
伊崎が気だるげに問いかけてくる。
「な、中う、卯月、ですけど……」
優ちゃんの友達といえども、やっぱりヤンキーはまだちょっと怖いので、しどろもどろに答える。
「え? なかう?」
ブッ●すぞクソヤンキー。
「なかうは何にする? ああ、先に言っとくけど、うどんとか牛丼はないからね」
初見で名前イジリされた!?
こいつ、やっぱり絶対に許さねぇ……!
「藍子」
優ちゃんが伊崎の悪ふざけをたしなめるように名前を呼ぶ。
「あはは、ごめんごめん。こいつってば、すぐ顔に出るから面白くってさ、ついつい」
「だから、私じゃなくて卯月に謝りなさいって」
「悪いね、えーと、卯月?」
伊崎はウインクをして、両手を合わせて「めんごめんご」などと言う。
このクソヤンキー、私のことを完全に見下してやがる……!
「許さねぇ……こいつ許さねぇ……!」
「ほお? 許さないなら、どうする?」
伊崎がニヤニヤしながらこちらを見てくる。
やっべぇ。ぼっち時代の癖で、ついうっかり心の声が口から出ちまった。
こういうとき、どんな顔をすればいいか分からないの。笑えばいいと思うよ。心の中のシ●ジ君がそう言うので、私は笑って誤魔化そうとしてみた。
「あんた……それはどういう感情なの?」
万年ぼっちだった人間が作り笑いなんて出来るわけないんだよなぁ。キレるぞ。
果たして、私はそんなにも不気味な表情をしていたのだろうか、伊崎が若干引いた顔をする。いや、伊崎はどうでもいいんだけど、優ちゃんは──?
優ちゃんにまで引かれていたら辛い。リスカ不可避。
内心冷や汗だらだらで優ちゃんの方を見ると──彼女はいつかと同じように優しく微笑んでいた。……天使かな?
私もいつか、優ちゃんみたいになりたいな。
なれるかな。とりあえず、第一歩として優ちゃんと同じものを注文してみよう。
「い、い、伊崎さん、ちゅ、注文いい、ですか?」
クソ、発声って難しいな。
知らない人と話すとなると、思ったように声が出ない。
「なんで敬語なのか分からんけど、はい、何にする?」
「優ちゃんと同じ……タンバリンを、ひとつ」
言った! ニヒルにキメ顔をして言ってやったぜ!
だが、何故だろうか。私の発言を聞いた二人は一瞬呆気に取られた顔をしたかと思ったら、次の瞬間には爆笑し始めた。
「え!? え!? 私何か変なこと言いました!?」
二人とも死ぬのかってくらい笑ってて、答えてくれない。
え、何これ? 俺また何かやっちゃいました?
「う、卯月……タ、タンバリンじゃなくて……マンデリンね……」
優ちゃんは笑いを堪えているのだろう、肩をぷるぷると震わせ、勝手に上がろうとする口角を必死に下げたような顔をしていた。
伊崎はまだ腹を抱えて笑っている。
や、やらかした……し、死にたい……!




