2-2 もう勝ち組JKといっても過言
「あ、改めまして……じ、自分、中 卯月という者ッス。よ、よろしくッス!」
二人で並んで歩きながら、私はぎこちなく自己紹介を済ませる。
「普通に喋ってもいいのに」
神谷さんがそんな私の様子を見て苦笑した。
普通の喋り方って何じゃい!
普通のJKって、普通はどういう風に喋るもんなの?
普通って、そもそも何?(哲学)
うるせ~~~~~!!!!
知らね~~~~~!!!!
FINAL FANT
ASY
……すぐこういうネットスラングに頼るところ、我ながら本当に良くないと思う。
「あ、あ、あ、あの、じ、自分、コ、コミュ障で……ど、どうやって人と話せばいいか分からなくって……ご、ごめんなさい……」
何だかいたたまれなくなり、私は思わず謝ってしまった。
「そうなんだ。……ふふ、大丈夫、私もそうだから」
っていう割にはメチャクチャ余裕そうじゃないですか!
何だろう、この子。体は小学生並みに小さいのに強者の余裕というか、オーラを感じる……。
「か、神谷さんって、もしや……」
もしや黒の組織に体が小さくなる薬を飲まされてたり、と言いかけたが、慌てて言葉を飲み込んだ。
ツイッターでクソリプを投げる感覚でリアルの人間と交流するのは流石にまずいよな……。そもそも身体的特徴をネタにするのは失礼だろ。
アッブネー! 危うく初めての友情をその場でクラッシュしちまうところだったぜ!
「うん? どうしたの?」
神谷さんが私の顔を見ながら小首を傾げた。
……可愛いな、この子。
もしも私がロリコンだったら間違いなく誘拐してると思う。
「な、何でもないです、あ、あはは……」
「そう? ああ、そうだ、卯月はこれから何か予定ある?」
いきなり下の名前を呼び捨て!?
これが強者の距離感なのか……?
いや、もしかして普通のJKの距離感って、普通こんなもんなのか……?
まったく謎が深いぜ、JKって生物はよ……。
「卯月? ……あ、ごめんなさい、もしかして名前で呼ばれるの嫌だった?」
私が硬直していると、神谷さんが心配そうに顔を覗き込んできた。
「い、いえ! そんなことないッス! サー! 光栄ッス!」
私がびしっと敬礼をすると、神谷さんは安堵の表情を浮かべ、それからバツが悪そうに頭を掻いた。
「……ごめんね。さっきも言ったけど、私もコミュ障だから。たまに相手の気持ちを察せなくて、友達を怒らせちゃうの。……だから、何か嫌なことがあったら言ってね」
神谷さん……。
そんなこと言える時点で、十分に相手の気持ちを察せてると思うッス……。
ていうか、友達がいる時点で、神谷さんは私に比べればコミュ障じゃないッス……。
仮にコミュ障だとしても、私よりは全然マシッス……。
何故だか頭が下がる思いでいっぱいになり、モノローグでまで舎弟口調になってしまった。
「わ、わわ、私も、か、神谷さんのこと、下の名前で呼んだ方が、い、いいですかね?」
「卯月は、それよりもまずは口調ね。同級生なんだから、敬語じゃなくてもいいのに」
「はぇ~……そんなもんですかね……あっ……」
意識しないと、ついつい敬語になってしまう。
音声ベースのコミュニケーション、難しすぎひん?
文字だったらいくらでも饒舌になれるのに。
なんか、へこむ。
「それはそうと話を戻すけど、卯月はこれから何か予定はある?」
「あ、ううん。ないです……じゃなくて、ない、よ?」
「そう、よかった。一回家に帰ってからなんだけど、後で友達の家がやってる喫茶店にお茶しに行く予定だったんだけど、良かったら卯月も来ない? 私の友達にもあなたを紹介したいし」
「うぇ? い、いいのかな、私なんかが……?」
こんなのと友達になったということで、神谷さんの株を下げてしまうのでは……?
「ダメだったら誘わないから」
神谷さんが優しげに微笑んでくれる。
て、天使や……この人、エンジェルや……。
レズじゃないけどこんな彼女だったら欲しいなって思う。
ていうか彼氏とかいるのかな。仮に彼氏がいたとしたら、こんな小さい子を好きになるって、そいつ相当なロリコンだよな。
「来る? 無理にとは言わないから、嫌だったら断ってもいいからね?」
私がどうでもいいことばかり考えて返事をしなかったものだから、また神谷さんに心配そうな顔をさせてしまった。
……いかん、人との会話中に余分なことを考えすぎるのは、私の悪癖だな。
「あ、え、えと、い、行きます。場所、教えてください」
「ん、分かった。じゃあ、連絡先交換しよ。ラインやってる?」
「う、うん」
お、おお……!
ついに我がスマホに、家族以外の連絡先が……!
神谷さんとラインを交換しながら、私は心の中で号泣していた。
ついについに、私はぼっちじゃなくなったのだな……!
てか、もうこれ勝ち組っしょ……! もう勝ち組JKと言っても過言!
うん、それは過言だったわ。そもそも何をもって勝ち組とするかは知らんけど。
心の中でガッツポーズを取っていると十字路に差し掛かり、神谷さんとはここで別れ道になるようだった。
「じゃあ、時間と場所送るから。後でね、卯月」
神谷さんが片手をひらひらと横に振る。
私も同じように手を振って、それから、精いっぱいの勇気を振り絞る。
「う、うん。あ、後でね……ゆ、ゆ、優ちゃんっ……!」
リアル世界では生まれて初めて、妹以外の人間を下の名前で呼んだ。
極端に緊張したからだろうか、顔が熱い。多分、真っ赤になってるんだろうな私。恥ずか死にそうだ。
突然下の名前で呼ばれて驚いたのか、神谷さん──優ちゃんは目を見開いた。
しかし、それも一瞬のことで、すぐにまた天使のようなあの微笑みを私に向けてくれた。
「うん、またね、卯月」
こんなん惚れてまうやろ。
優ちゃん好きすぎてメンヘラになりそう。




