1-11 反省してまーす
ある日の朝、私はお風呂でシャワーを浴びながら歌を歌っていた。
あ、SUUM●! でお馴染みの、緑の丸い生物が出るCMで流れるあの歌の替え歌だ。
題してうんちの歌。
私のお風呂中の定番ソングである。
「んちんちんちんちうんちちうんちー♪」
※S●UMOの歌でお馴染みのあのメロディに乗せて。
ほら、トイレとかお風呂とか、一人の空間にいると独り言を喋ったり歌ったりするじゃん?
お風呂なら、誰にも聞かれない……。
そんなふうに考えていた時期が、私にもありました。
「卯月、あんたさぁ……そろそろいい歳なんだから、お風呂でうんちうんち言うのやめなさい?」
お風呂から上がり、台所で意気揚々とコップに牛乳を注いでいる私に対して、母親が冷たく言い放った。
「え……?」
私の声がデカすぎたのか、浴室の防音性能がゴミカスだったのか。何にせよ、私のうんちの歌は母親に聞かれてしまっていたらしい。しかも口ぶりから察すると、今回が初めてというわけではないらしい。
「な、なんのこと……?」
追い詰められた人間の悲しい性である。
無駄だと分かっているのに、つい知らないフリをしてしまった。
「いや、いつもうんちうんち歌ってるでしょうが。あんたも、もう小学生じゃないんだから……ましてや女の子なんだから、そろそろそういうの気をつけなさい」
うわ、ガチ説教ムーブじゃん。
面倒くさいな……。
「チッ、うっせーよ……」
私はイラつき、思わず国民的人気スノーボーダーのような悪態をついてしまった。
「あんた今なんて!?」
母親が鬼の形相で声を荒げる。
……しまった、聞こえないくらいの小声のつもりだったのだが、ばっちり聞き取られてしまったらしい。
「ひっ! ご、ごめんなさい! ごめんなさい! 以後、気をつけます、お母様!」
慌てて謝罪するも時すでにお寿司、ママンは完全に火がついてしまっていた。
「大体あんたはいっつもいっつも! その場で反省してるふりするけどね! 怒ってる側から見たら、相手が本当に反省してるかどうか分かるんだからね!?」
けっ、そんなもん分かるもんかよ。
エスパーかよテメェは。
……などとは、口が裂けても言えないが。
「や、やだなぁお母様、卯月、めっっっっちゃ反省してるよ?」
「本当は?」
見定めるかのような視線に射抜かれる。
「ほ、本当だよ!」
「……本当の本当は?」
母親の目が細く鋭くなっていく。やだ怖い。
「ほ、本当の本当だってば! 娘を疑うの!?」
「本当のこと言ったら、一万円あげちゃおっかな〜」
母親は財布から一枚の諭吉を取り出すと、私の目の前でヒラヒラと揺らしてみせた。
「反省なんかしてるわけないじゃん」
私は即答した。
どんなに怒られようが、諭吉が手に入るなら安いものである。
「正直でいい子ね〜」
母親はそんな私を見てニッコリと微笑み、そして――――。
「一万円上ーげたー!」
――――天高く、諭吉を掲げたのだった。
「……ッッッ!?」
こ、このババアッッッ! 謀ったなッッッ!?
「やっぱり反省してなかったのねぇ?」
母親がニターっと笑う。
「ず、ずるい! ていうか、私に対して“いい歳して”って説教する人間が、そんな小学生みたいな――――」
「黙らっしゃい! いい、卯月!? 今日という今日はこってりと絞ってあげるからね!?」
私の言葉は無慈悲な母親の怒声に遮られ、その後二時間たっぷりと説教をされるハメになった。
こんなガキみたいなことをするババアに説教されるなんて、理不尽すぎて泣きそうになった。




