表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀麗の魔女  作者: 龍翠
第一話 スピカ
8/46

07

 ぽん。軽い音と共に、小さな赤いトカゲが現れました。掌サイズのかわいいトカゲです。トカゲはスピカの左手に乗ると、きょろきょろと周囲を見回します。


「驚いた。まさか精霊でも召喚するのかと思ったら、トカゲかよ」

「まあ精霊の召喚なんて魔法はないしな」


 男たちが安堵に胸を撫で下ろします。どうやら思った以上に警戒していたようです。そうしてこちらへと歩いてこようとして、


「ごめんね。あの人たちをやっつけて」


 スピカがトカゲにお願いします。トカゲは小さな目を男たちへと向けて、次に息を吸い込む仕草をしました。そして、一気に吐き出します。

 吐き出されたのは巨大な炎。驚く三人を包みます。


「うおわ!」

「なんだこれ! なんだこれ!」


 男たちが慌てたように距離を取ります。ですが、そんなものに意味はありません。

 炎はまるで生きているかのように形を変えます。三匹の巨大な炎蛇になると、すぐに三人を絡め取りました。そして男たちへとその顎を開きます。

 呆然とする男たちに、スピカは言いました。


「も、もう私たちに、関わらないでください。何度でも、この子が来ますから」


 そう言い終わった直後、炎蛇が男たちを呑み込んで、そしてすぐに細かいポリゴン片となって消えました。どうやら倒せたようです。

 ゆっくりと息を吸って、吐き出して。無事に乗り切れたことを実感して、スピカはその場に座り込みました。ちょっと、怖かったのです。

 きゅう、という可愛らしい鳴き声が耳に届きます。見るとサラマンダーがスピカの肩に乗っていました。ぺろぺろと頬を舐めてきます。慰めてくれているのかもしれません。


「えへへ。ありがとう、サラマンダー」


 サラマンダーを撫でると、嬉しそうにきゅうと鳴きました。




「銀の魔法は精霊に関わる魔法だよ。精霊を呼び出したり、彼らの声を聞いたりする魔法。赤の魔法が精霊の力の一端を借りるものだと言えば、銀の魔法がどれだけ危険かは分かると思う」


 昨日、ソフィアは銀の魔法を実際に使いながら、そう教えてくれました。ソフィアの周りには、たくさんの見慣れない生き物がいたのをよく覚えています。その時にはこのサラマンダーもいました。

 その時は呼び出しただけで攻撃とかはしなかったのですが、まさかこれほどの威力があるとは思いませんでした。

 そのままの足で広場に向かいます。広場にはすでにソフィアが待っていました。スピカの肩にいるサラマンダーを見て、どこか安堵するように頬を緩めました。


「ちゃんと呼び出せたみたいだね。どうだった?」

「えっと……。すごかった……」


 それしか言えません。覚えたてのスピカですらあれだけの威力が出せるのです。銀麗の魔女と呼ばれているソフィアはどんな魔法が使えるのでしょうか。


「またここに戻ってきたら、次の魔法を教えてあげるね」


 ソフィアの言葉に、スピカは首を傾げます。まるでここを離れるような言い方です。まさか、と思いながらソフィアを見ると、申し訳なさそうに眉尻を下げていました。


「この地域でやることはだいたい終えたから、次の土地に行かないといけない。戻ってくるのは当分先かな」

「そう、なんだ……」


 せっかく友達になれたのに、とても残念です。寂しくなります。スピカがそう思っていると、たくさんの動物が集まってきました。次々にスピカにすり寄ってきます。元気を出して、とでも言うかのように。


「ここの動物たちはスピカのことが本当に好きみたいだね」


 ソフィアが小さく笑います。気づけばたくさんの動物に囲まれていて、なんとなく嬉しくなりました。


「君のウルがいれば、ここに来ることができるから。よければまた遊んであげてね」

「うん」

「銀の魔法の、呼び笛って魔法を使えば、暇な子は来てくれるよ。えさも魔法で作れるからね。あとは、あとは、えっと……」


 よくよく見れば、ソフィアはどこか焦っているように見えます。いえ、焦りというよりは、不安そうです。スピカを一人残していくことが、どうにも心配なようです。

 本当に優しい子だな、とスピカの心はなんだかあったかくなります。でも、心配させ続けるわけにもいきません。


「大丈夫だよ、ソフィアちゃん。私は大丈夫」


 スピカがそう言うと、ソフィアは言葉を止めて、次に淡く微笑みました。


「そっか。うん。じゃあ、信じるよ」


 よし、とソフィアは頷きます。もう出発なのでしょうか。


「ウルを呼んで」


 どうやら違うようです。スピカは首を傾げながらも、召喚魔法でウルとラビを呼び出しました。

 スピカはウルに近づくと、ウルの頭に持っていた杖をそっと当てました。


「君はスピカの護衛だからね。だから、特別」


 待って。なんだかすごく嫌な予感が……。

 頬を引きつらせるソフィアの目の前で、ウルの体がほんの少しだけ大きくなりました。唖然とするスピカの目の前に、メッセージウィンドウが出てきました。


『銀麗の魔女の祝福により、ウルがミニリルに進化しました』


 なにそれ。


「次はラビね」


 ぴとりと杖を当てます。


『銀麗の魔女の祝福におり、ラビが白の魔法を覚えました』


 よし、とソフィアは顔を綻ばせます。やり遂げたかのような顔です。実際はやらかしてくれています。


「ウルはスピカちゃんの護衛だよ。スピカちゃんのために頑張るんだよ」


 わん、と元気よくウルが返事をします。


「ラビはスピカちゃんを癒やす役目。結界とかも使えるからね」


 ラビがきゅう、と返事をします。

 そうして呆然としているスピカに、ソフィアは言いました。


「それじゃあ、元気でね、スピカちゃん。今度は町とか案内してね」

「あ、うん……。えっと……。うん。約束する」


 どうにかそれだけ返事をします。ソフィアは嬉しそうに微笑むと、その場から忽然と姿を消しました。これもまた、銀の魔法なのでしょうか。

 残されたスピカは、とりあえず確認してみることにしました。まずはウルの種族、ミニリルについての説明を表示させます。


『突然変異種のフェンリル。体はウルフ程度と小さいが、戦闘力はフェンリルと変わらない。精霊の加護を受けて変異すると言われている』


 フェンリル。いろいろなゲームに登場するのでスピカですら知っている有名な名前ですが、このゲームには未だ出てきていないモンスターです。きっと、もっと先の、それこそ現在解放されているエリアよりもずっと先に出てくるモンスターでしょう。

 説明だけなら怖くなりそうですが、目の前にいるのはウルです。スピカに寄り添って、遊んで遊んでと頬を舐めてくるウルです。


「ちょっとだけだよ?」


 スピカがそう言うと、ウルが嬉しそうに吠えました。ウルはウルでした。


   ・・・・・


 運営会社のホームページにある、サンクチュアリの公式サイト。そこにはNPCの一覧が公開されている。プレイヤーの誰かが実際に会えば、その都度その人物のページが追加されていくというシステムになっている。そのため、最初はとても少なかったページも、今では膨大な量になっていた。

 だが、そのシステムはプレイヤーがそうなのだろうと予想したものであり、実際のそれは少し違う。

 プレイヤーが実際に会って、そしてその相手をNPCと認識して、初めて更新されるものだ。


 そしてある日。ひっそりと。銀麗の魔女ソフィアの項目が追加された。


壁|w・)第一話はこれにて終了です。

明日は閑話がてら、掲示板回。へたっぴだけど。

その後は第二話を書き終わるまでお休みをもらうですよ。


ではでは!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ