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銀麗の魔女  作者: 龍翠
第五話 ソフィア
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 ソフィアが言うには、朱雀はとても我の強い性格だそうです。やりたくないことは強く抵抗してくるのだとか。それでもちゃんと言えば従ってくれるそうですが。

 そんなことを、おにぎりを作りながら教えてくれました。

 今日は初日と同じでおにぎりです。兄曰く、掲示板でもう一度食べたいという声が最も多かったそうなので、そのまま採用になりました。後ろから轟音やら悲鳴やら聞こえてきますが、まあ気にするほどのものではないでしょう。


「でもちょっと楽しそう」


 スピカがつぶやくと、ソフィアが目を瞬かせました。


「スピカも冒険者だもんね。参加したい?」

「んー……」


 振り返り、様子を見ます。炎が燃えさかり、召喚されたままの青龍がせっせと消化に勤しんでいます。プレイヤーは阿鼻叫喚のただ中ですが、それはそれで、皆楽しそうです。どうにか一撃入れようと、がんばっているのがよく分かります。


 スピカがあれに参加しても、何もできないでしょう。スピカは青の魔法と銀の魔法しか上げていません。戦闘を行うととすれば、自然とウルたちに頼ることになるわけで。スピカとしては、ウルたちにそんなことをしてほしくありません。

 後ろで丸くなっているウルへとぽすんと寝転がると、ウルが顔を上げました。しかしすぐに元の体勢に戻ります。お鼻がぴすぴす。お昼寝かな、とでも思っているのかもしれません。


「ウルかわいい!」


 とても良い子です。抱きついてわしゃわしゃ撫でると、ウルはくすぐったそうにしながらも受け入れてくれます。そうしているとウルの頭にのっているラビが乱入して、続いてフェルトの膝の上にいたリルも飛び込んできます。あっという間にいつものもふもふパラダイス。とりあえずみんなのことを撫でまくります。

 そうして遊び始めたスピカたちを、ソフィアとフェルトは笑いながら見ていました。


「とりあえずおにぎり作りましょう。間に合わなくなりますから」

「はーい」




 戦闘の後のおにぎりは今回も好評でした。スピカたちから一人一人手渡していたのですが、誰もがそのことに嬉しそうでした。スピカたちには意味が分かりません。

 そうして配り終えてのご飯を終えて、スピカたちは湖へとやってきています。湖の側、時間を見つけて少しずつ作った秘密基地。秘密基地といっても、木の板を繋ぎ合わせて作った程度の簡単なものです。秘密基地なんてこんなものでしょう。


 天井代わりに、大きな布を広げています。四隅を木にくくりつけているので、雨が降っても少しなら大丈夫でしょう。

 その秘密基地で、スピカたちは大きな毛布を広げて一緒に丸まっています。せっかく作ったので、今日はここで一晩過ごす予定です。並び順はスピカ、ソフィア、フェルトの順です。


「もうすぐ終わりだね」


 スピカがそう言うと、フェルトが小さく欠伸をして答えます。


「そうですね。外泊なんて初めてなので、とても楽しかったです」

「ん……。私も楽しかったよ」


 ソフィアは少しだけ照れくさそうで、それがまたかわいいと思います。


「スピカとフェルトが来てくれて良かった。その、すごく嬉しかったんだよ?」

「そうなの?」

「うん」


 なんだか今日はソフィアが素直です。いえ、いつも素直ではありますが、ただあまり自分からこういったことを言う子ではなかったはずです。


「本来なら一人で全部しないといけなかったから。それはちょっと、寂しいかなって」


 ソフィアは普段一人で行動しています。スピカも毎日ソフィアに会っているわけでもなく、フェルトもお城での生活がある以上頻繁に会うことはないでしょう。だからこそ、今回のように長期間のお仕事に一緒に来るとは思っていなかったのだと言います。


「私は今回はいろいろと協力してもらえたというか……。ほんとは呼んでくれたらいつでも行くって言いたいんだけど……」

「スピカちゃんは冒険者だからね。私もししょーからいろいろ聞いてるから、分かってるよ。だから、今回は本当にありがとう。無理させちゃってごめんね?」

「ああもうソフィアちゃんかわいい!」

「むぎゅ!?」


 とりあえずぎゅっと抱きしめておきます。ちゃんと自分はここにいる。そういった意味もこめて。それを分かってくれているのでしょう、ソフィアは特に抵抗はしてませんでした。


「ずるいです! 私だっているんですよ!」


 フェルトまで抱きついてきました。ソフィアを挟んで三人一緒です。さすがに苦しくなっているのか、ぺしぺしとソフィアが手で叩いてきます。それでもそのままいつづけていると、


「…………」

「あれ……? ソフィアちゃん?」

「ソフィアちゃん!?」


 二人の間で気を失ってしまって、大混乱に陥りました。

 そんな騒ぎを外で聞いていたウルたちは、いつものことだと欠伸をして仲良くみんなで集まって眠っていたそうです。ぬくぬく。


   ・・・・・


 スピカたちを送迎したソフィアは、ししょーの家に来ていました。特に意味はありません。ただ、急に一人になると、少しだけ寂しく思えてしまっただけです。たまにはししょーに甘えようかな、なんて考えて中に入ると、


「…………」


 ゴミが散乱していました。素材のよく分からないつるつるの袋とか、筒状の小さな何かとか。あと全体的にアルコール臭い。


「ふふ……。あはは……」


 甘えたい、という気持ちが霧散しました。代わりにわき上がるのは、憤怒。人に仕事を任せて、一体何をしているのか。

 ずんずんと中に入っていきます。リビングを抜けて、師匠の私室へ。扉を蹴破れば、ベッドで大の字になって腹を出して眠る師匠と、おそらく巻き込まれたのだろう床で倒れている至金の魔導師。至金はこちらへと手を伸ばして眠っています。多分これはどうにか逃げようとして途中で力尽きたというところでしょうか。うちの師匠が本当に申し訳ない。

 ソフィアは額に青筋を浮かべながらベッドの横に立つと、大きな声で叫びました。


「ししょおおおおお!」

「うひええ!?」


 素っ頓狂な悲鳴を上げて飛び起きる師匠と、がばりと上半身を起こす至金。ソフィアは振り返って彼に言います。


「あ、お疲れ様でした。師匠がごめんなさい」

「あー……。いや、うん。大丈夫……」

「あとで軽く何か作るので待っていてください」

「助かるよ……」


 壁にもたれてぐったりとする至金の魔導師。銀麗すらこえる世界最強の魔導師とは思えない姿です。本当に申し訳ない。

 そしてその師匠と言えば、


「ぐう……」


 また眠っていました。


「ふうん……。へえ……。ほう……」


 ソフィアの額に浮かぶ青筋が大増量。至金が頬を引きつらせて顔を青ざめさせていますが、気持ち悪いのでしょうか。


「ご飯作ってきます」

「あ、うん……」


 ソフィアがそう言って退室すると、至金はあからさまに安堵のため息をつきました。




 至金にほかほか湯気の立つ美味しいおかゆを手渡して、ソフィアは師匠の元へと向かいます。このぐうたらはまた最初の姿勢にも戻って寝ています。

 ふうふうと冷ましながらおかゆを食べる至金の目の前で、ソフィアはにっこり笑顔を浮かべて行動に移しました。

 まずは左手で師匠の口を固定。しっかり口を開けて、そして右手に持つほかほか湯気のおかゆ、つまりはとても熱いおかゆを一気に流し込みました。


「……!?」


 さすがに目を覚ました師匠が暴れますが、そうはさせまいとあらかじめ召喚していた白虎小型モードが取り押さえます。白虎は協力的です。さすがに今の師匠の姿に思うところがあるようです。

 そうしておかゆを流し込み終えて、よしとソフィアは満面の笑みで頷きました。なお、良い子は危険なので決してしてはいけません。悪い子もだめです。


「わ、わたしがなにをした……」


 自分に治癒をかけながら言う師匠を、ソフィアは冷たい目で見つめます。そしてゆっくりと部屋を見回します。師匠の私室もリビングと同じ惨状です。言わんとすることを察した師匠は、ばつが悪そうに目を逸らしました。


「二杯目いく?」

「ごめんなさい」


 師匠がベッドの上で土下座します。ソフィアはため息をつくと、いそいそと片付けを始めます。慌てて師匠も片付け始めました。


「まったく。私がいなかったらすぐに散らかして!」

「すみません」

「お酒臭いし! 体臭もすごいし! お風呂入ってるの!?」

「反省してます」

「少しは片付けるということを覚えたら!?」

「申し開きもありません……」


 師弟関係でありながら、家の中での力関係がよく分かる場面です。まったく、とぶつぶつ言いながらそれでも片付けるソフィアに、ふとししょーが言いました。


「楽しかった?」


 何を、とも何が、とも言いません。けれど、何を聞かれたかは分かります。


「ん……。楽しかったよ」

「そっか」


 それを聞いた師匠は、嬉しそうに微笑んで。


「まあ家を見た瞬間にいろいろ吹っ飛んだけど」

「……………」


 思いっきり頬を引きつらせました。




 そんなやり取りを、至金の魔導師はどこか眩しいものを見るように目を細めて眺めていました。


壁|w・)明日は掲示板回。

そのあとはエピローグをそのうち投下する、かも……?

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