05
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ぱちゃぱちゃと、スピカがのんびりと湖を泳ぎます。
ぱちぱちと、ソフィアとフェルトがまったりたき火をしつつお魚を焼いています。
「ソフィアちゃん、もうすぐ焼けるよ」
「はーい」
湖からあがって、ぷるぷると体を震わせます。犬みたいですよ、とフェルトに笑われました。そのフェルトからタオルを受け取り、体を拭いていきます。
「ところでソフィアちゃん」
「ん?」
「どうしてお魚、十匹なの?」
たき火で焼いているお魚は十匹です。三人では余ってしまいます。ウルたちの分かとも思いましたが、あの子たちはすでに銀の魔法で作ったご飯を食べた後で、お腹がいっぱいになっているのか幸せそうにお昼寝しています。
ソフィアの側で集まっているウルたちを起こさないように優しく撫でていると、ソフィアが答えてえくれました。
「二匹ずつにするからね」
「え? えっと……。余るよ?」
「余らないよ」
首を傾げるスピカとフェルト。ソフィアは小さく笑いながら、湖の奥へと視線を投げます。スピカたちも疑問に思いながらそちらを見れば、がさがさと茂みが揺れました。
まさか冒険者か、と身構えるスピカたちですが、ソフィアは特に警戒していません。まるで誰が来るか分かっているかのようです。事実、分かっているのでしょう。
そうして奥から最初に顔を出したのは、見覚えのあるドラゴンでした。
「あ、ヴェノムだ」
スピカが顔を輝かせると、すぐにその背に乗る二人も見えました。最近知り合った冒険者のミオとレナです。彼女たちはスピカを見ると、目を丸くしました。
「あれ? スピカ? それにソフィアも」
「ミオさんにレナさん! なんで? どうしてここに?」
「あの方はもしかして……。フェルト王女?」
「はい? 私のことを知っているのですね。スピカちゃん、お友達ですか?」
各々思ったことを口にしているせいで少し混沌としてきました。そんな空気を無視して、ソフィアがのんびりとした口調で言います。
「お魚、焼けたよ。ご飯にしよう」
焼き魚は本当にただ焼いただけのものでしたが、とても美味しいものでした。皮はぱりぱり、お肉はジューシー。くせになりそうな味です。
「なにこれ! 美味しいわね!」
「これは……こういった魚なんでしょうか。リアルにはない魚ですね」
ミオとレナも大絶賛です。五人とも、二匹をぺろりと平らげました。むしろもっと食べたいぐらいです。
そうして食べながら情報交換した結果ですが、どうやらミオとレナは町に行かずに、この場所が気になって真っ先に来たとのことでした。
「ソフィアはお仕事なのね。スピカとフェルト王女はその付き添い……。付き添いっていうの?」
「まあ私も仕事というほど大変でもないから、ちょっと仕事で休暇が主目的」
「あ、じゃあ遊びに来たってことね」
なるほどと納得しています。どうやらこれ以上の説明はいらないようです。ミオも、あまり詳しく聞こうとは思っていないのでしょう。
ちなみにフェルトの紹介は先に終えました。二人とも少し感動しているようでした。王族に会う機会なんてゲームの中でもあまりないので、そのためでしょうか。
「ミオさんたちは一度町に行くんだよね」
「まあそうなるわね。ここにも転移できるようになったみたいだし、ちょくちょく顔を出すわ」
ミオ曰く、各地点が転移で移動できるようになっているそうです。その選択肢の中で、この場所と中央の広場だけが転移では来れなくなっていたのだとか。ここに来てから確認してみると、転移できるようになっていたそうです。
「スピカは行かないんですか?」
レナに問われて、スピカは悩みます。行きたくないわけではありませんが、かといって行く用事もありません。行く用事はないですが、かといって興味がないわけでもありません。むむむ、とスピカが唸っていると、少しだけ呆れた様子でソフィアが言いました。
「行ってきたら?」
「え? い、いいのかな……?」
「うん。いいよ。せっかくだから観光してきなさい。でも、その……。えっと……。戻って、くるよね?」
どうしよう。親友がかわいい。
「もちろん帰ってくる!」
「わ!」
とりあえずぎゅっとしておきます。親友は世界一かわいい。断言します。
「二人とも……」
フェルトがちょっぴり拗ねたような声を出します。こっちもかわいいのでとりあえずぎゅう。フェルトは慌てていますが、満更でもなさそうです。
「レナ。鼻血出そう」
「黙れ変態」
そうと決まれば、善は急げです。さくっと観光してさくっと戻ってこないといけません。いやゆっくりしてきなよ、とソフィアとフェルトが呆れていますが、やっぱりスピカとしては友達と一緒にいる方がいいのです。そう言うと二人とも顔を赤くしながら目を逸らしました。かわいい。
「それじゃあミオさん! いきましょー!」
「ええ、そうね」
「さくっと行きましょう」
ミオとレナも楽しそうに笑いながら、立ち上がりました。
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