03
青龍でのんびり空の旅を楽しみます。青龍が気を利かせてくれたようで、大きな大陸をぐるりとのんびり一周してくれました。まだ見たこともない他の王都を見て興味を持ったり、フェルトが住む王都を普段では見ることができない上空から見てはしゃいだりと、とても楽しい一時でした。
大陸上空ぐるり旅を終えて、三人は今回のイベントの舞台となる島に降り立ちました。島といっても、大陸よりは小さいだけでとても大きな島です。緑豊かな島で、秘密基地がたくさん作れそうな島でした。
「秘密基地……。スピカちゃんってたまに男の子っぽいよね」
「う……。お兄ちゃんと昔一緒にがんばって作ったから、その影響かなあ……」
まだ兄が小学生で、スピカもぴかぴかの一年生の頃でした。家の側にある小さな林で、その土地の管理人さんにちゃんと許可をもらって作ったのはいい思い出です。
「秘密基地かあ……。ちょっと長い滞在の予定だし、作ってみる?」
「いいの?」
「それぐらいいいと思うよ」
私も作ってみたいし、とソフィアが言ってくれたので、そういうことになりました。
青龍が島の中央へと下りていきます。島の中央は鬱蒼と生い茂る森でしたが、ぽつんと小さなほこらがありました。ソフィアが言うには、そこには地下迷宮に続く階段があるそうです。
「地下迷宮!」
「うん。ししょーに言われて、この間ちょっと適当な剣とか杖とか、置いてきたよ。ダンジョン大好きな冒険者の人たちが盛り上がれるようにって」
「うわあ、裏話だあ」
「むかーしの人が作った優秀な武器を迷宮に封印したっていう設定」
「聞きたくなった裏話だ!」
プレイヤーが聞くと一気に冷めてしまいそうなお話です。いや、もちろんプレイヤーはそんなこと百も承知なのでしょうが。
「ここだけの話、ですね」
「うん。ここだけの話だよ」
つまりは内緒話。兄にも言わないでおこう、とスピカは心に誓いました。
ほこらの前に降り立って、青龍が帰っていきます。スピカたちが大きく手を振ると、青龍は頷いて消えていきました。
改めて周囲を確認してみれば、ほこらの前は小さな広場になっています。あの森の広場のようです。ソフィア曰く、ここの半分は冒険者さんが泊まる場所、だそうです。
「どうやって?」
「テントで。近くの町で売ってるよ」
「テント! キャンプ! 楽しそう!」
「テントなんて初めてです!」
大盛り上がりのスピカとフェルトに、ソフィアが微笑ましく目を細めています。ちょっとだけ恥ずかしくなって、二人で顔を染めて落ち着きます。
「はしゃいでも、いいよ?」
「ソフィアちゃんが意地悪だ……!」
「ところでソフィアちゃん。もう半分は?」
「うん。私たちのスペース。ほこら含めて、ね。ちなみにちょっとした魔法がかけられてて、スピカちゃんとフェルトちゃんの二人はそのスペースにいる限り、認識されなくなるから安心していいよ」
どうやらこのイベントが原因で顔がばれてしまう、ということはなさそうです。それなら少し安心でしょう。もっとも、すでに一部ではスピカの顔は広まっているようですが。
「それじゃあ、まずはテントの設営だけど」
「キャンプっぽい!」
わくわくするスピカですが、それを見たソフィアは首を傾げました。何でしょうかこの反応。
「ソフィアちゃん、任せていいんですか?」
「うん。待っててね」
首を傾げるスピカの前で。ソフィアが杖を地面にぶすり。そのままてくてく歩いて行きます。ぐるりと一周して円を描いて、そして中で何か模様を描きます。どうやら魔方陣のようです。
描き終えたソフィアはよしと頷いて、杖で地面を軽く叩きます。ぼふんという音と共に煙が出てきて、その煙が消えると大きめのテントが現れていました。もちろん、組み立てられた状態で。
「えー……」
フェルトを見ると、こちらは何の疑問も持っていなさそうです。どうやらこの世界でのテントはこういうもののようです。
よくよく考えれば、テントの組み立ては人によっては難しく感じる人もいます。これなら魔方陣を描くだけなので、誰でもできるでしょう。ただ、次は魔方陣を覚えるという面倒なことがことが起こりますが。
そう思っていると、フェルトが教えてくれました。曰く、町の雑貨屋で魔方陣が描かれた紙が買えるそうです。
「なにそれずるい」
どうやらこれはソフィアも知らなかったようで、唇を尖らせています。ソフィアはどうやら師匠に覚えさせられたようです。
テントの側には小さないすとかもたくさんあります。どうやらこういった細々したものを含めて一式で出てくるようです。便利。
その後は三人でせっせと準備に取りかかります。ソフィアは自分の仕事のためにほこらの内部確認、フェルトは薪拾い、そしてスピカは。
「スピカちゃんは周囲の動物たちと遊んできて」
「え? お仕事は?」
「周囲の動物との円滑な関係作り。大事な仕事だよ?」
「あ、はい」
なんだか言いくるめられたような気がしますが、まあいいや。
手を振るソフィアとフェルトに見送られて、スピカは早速森の探索へと向かいました。
時を同じくして、大勢のプレイヤーがその島に転移されてきました。転移された場所は様々で、町に近いプレイヤーもいれば、遠い人もいます。レベルが高いプレイヤーほど遠い場所に転移されているようです。
ただ、偶然なのか意図的なのか、今のところスピカはプレイヤーと巡り会っていません。のんびり歩きながら、ちょこちょこ顔を出す動物を従えていきます。どの子も人懐っこくて、いい子ばかりです。
犬だったり猫だったり鹿だったり熊だったり。肉食も草食もなんでもござれ、多種多様な動物がスピカの後ろに続きます。みんな仲良く。
そんな大行列で先ほどの広場に戻ると、ソフィアとフェルトは目を丸くしていました。
「またすごい数を連れてきたね……」
「いやあ……。なんでだろ?」
スピカとしてもこんなに来てくれるとは思わなかったのでびっくりです。




