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銀麗の魔女  作者: 龍翠
第五話 ソフィア
35/46

01

壁|w・)遅くなりました。

今回は十回予定。

 星香は緊張していた。とても緊張していた。

 学校が休みである日曜日、星香はじっとサンクチュアリからのメールを待っている。今日は、抽選の結果が届く日なのだ。


 二週間前、公式からイベントの告知があった。イベントに興味がなかった星香は読まなかったが、後になって兄から詳細を聞いて、慌てて参加登録を行った。

 イベントは、孤島で一週間過ごすというもの。よくあるサバイバルなイベントなのかと思ったが、どうやらそういったものではないらしい。普通に町も宿もあるそうだ。だがキャンプができる場所と道具も用意されるとのことで、ちょっとしたサバイバルも体験可能となっている。


 つまりは、どちらかと言えば他のプレイヤーとの交流がメインのイベントらしい。さらに、一週間と言ってもイベント中はゲーム内での時間がさらに早くされるらしく、現実世界では三時間程度だそうだ。

 それよりも何よりも。イベントの告知には、とんでもない一文があった。


『イベント期間中、銀麗の魔女が島のどこかに滞在します』


 それを知った星香はすぐに応募した。食事中だったので後ほど母に怒られたが、後悔はない。

 ただ、参加人数があまりに多かったため、抽選されるそうだ。当選人数は千人もあるそうだが、元となるプレイヤー数から考えれば、確率はかなり低い。

 だから星香は、この発表の時を、緊張しつつ待っていた。


 じっとパソコンの画面を見つめる。そして、その時がきた。

 新着メールのお知らせ、差出人は、サンクチュアリ運営部。

 急いでメールを開いて、中を読む。そして星香は、はてなと首を傾げた。


『プレイヤー名、スピカ様。貴殿を特別枠として、イベントへと招待させていただきます。イベント開始時に銀麗の魔女ソフィアと共にいることで、ソフィアと同じ場所へ転移することが可能となります。通常の形式での参加をご希望の場合は改めてご対応させていただきますので、運営部までご連絡ください。連絡方法は……』

「あれ? もしかして最初から、応募する必要なかった……?」


 母に怒られた意味がなかった。星香はなんとも形容しがたい脱力感を味わってしまった。




 さて、そんなわけで。


「ソフィアちゃん! 旅行だよ旅行!」


 ふわるを通じてソフィアを森の広場に呼び出して、そう言いました。突然そんなことを言われたソフィアはどうしたのかなと首を傾げていましたが、すぐに何かに思い至ったのか手を叩きました。


「ああ、そう言えばししょーから言われたね。スピカちゃんと一緒になるかも、とは聞いたけど、来てくれるの?」

「うん! 行く!」

「そっか。うん。嬉しい、かな」


 照れたようにはにかむソフィア。天使がいます。かわいい。


「フェルトちゃんも誘っていいのかな?」

「んー……。いいんじゃないかな? ししょーには止められてないし、誘いに行く?」

「うん!」


 早速二人でお城の庭へと転移します。移動先の庭には誰もいませんでした。日当たり良好な場所をリルが独り占めしてお昼寝しているだけです。


「フェルトちゃんはいない?」


 スピカがリルへと声をかけると、リルが欠伸をしてスピカを見ました。首を振ってから、立ち上がります。そしてスピカへと駆けました。


「わっと……。遊んでほしいの?」


 尻尾を振って吠えてきます。遊び相手が来たと認識されたようです。どうしようかとソフィアへと振り返れば、ソフィアは笑いながら言いました。


「いいよ。遊んであげて。私はフェルトちゃんに会ってくるから」

「うん。ごめんね?」

「気にしないで」


 小さく手を振って、フェルトが庭の奥へと歩いて行きます。


「ソフィアちゃん、行ってらっしゃい」


 リルの小さな前足で手を振りながら言います。振り返ったソフィアがそんな様子を見て、頬を緩めていました。


   ・・・・・


 ソフィアは今、城の廊下を歩いています。よくよく思い出せば、こうして城の中を歩くのは初めてです。普段はいつも、庭にしか出入りしていません。

 さて、こうして歩いていますが、問題があります。それは、フェルトの居場所が分からないということです。魔力で大雑把な位置は分かるのですが、その場所へ向かう道順が分かりません。

 仕方なく、ソフィアは通りすがりのメイドに声をかけました。


「あの」

「はい! 何でしょうか!」


 大きな声での返事にぴしっと直立。なにやら緊張感が伝わってきます。

 周囲を見てみれば、兵士や執事など、数人に見られています。誰もが緊張の面持ちです。今まで庭から出てこなかった自分が出てきているので、当然のことかもしれません。


「フェルトはどこ?」


 気を取り直して、声をかけたメイドに聞きます。メイドは姿勢を正した上で答えてくれます。


「はい! 陛下の自室にいらっしゃいます!」

「いや、分からないから。案内とかお願いできないかな?」


 う、とメイドが唸ります。さすがにそれは、と周囲に助けを求める視線を投げて、そして誰もががんばれとばかりに視線で合図を送っています。メイドは泣きそうです。

 ソフィアはため息をつくと、妥協案を提示することにしました。


「じゃあ、中庭で待ってるから、フェルトに伝えてもらえる?」

「あ、はい! すみません、ありがとうございます……!」

「いえいえ。スピカちゃんも待ってるから、急いでくれると嬉しい」

「分かりました!」


 メイドが大急ぎで走って行きます。急いでとは言いましたが、何もそこまでしなくても。……あ、こけた。

 大丈夫かなと少し不安になりつつも、ソフィアは中庭へと戻ることにしました。




 スピカと一緒にリルを撫でていると、フェルトと王様が早足で中庭へと来ました。スピカを見つけたフェルトは一瞬だけ顔を輝かせ、しかしすぐに真剣な表情になってこちらへと来ます。


「ごめんなさい、ソフィアちゃん。遅くなりました!」

「遅れてしまい申し訳ない」


 フェルトと王様が口々に言います。どうしてそんなに慌てているのでしょうか。ソフィアとスピカが顔を見合わせて首を傾げていると、フェルトも同じように小首を傾げました。


「あれ? あの、急ぎの用事があると聞いたのですが……。それで、何か緊急の用件かな、と……」

「ああ……。そうなったんだ……」


 確かに急いでほしいとは言いましたが、別に緊急の用事があるというわけではありません。なるほどそれで王様まで来ているのでしょう。銀麗の魔女からの緊急の用事となると、そうなるでしょう。


「いや、ただのお誘いだよ。ちょっとスピカちゃんと旅行に行くけど、フェルトちゃんはどうかなって」

「旅行、ですか? ちなみに、どちらへ?」

「ちょっと遠いところ。島だよ。心配しなくても危険はないよ」

「それはソフィアちゃんも一緒なら心配していませんけど……」


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