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銀麗の魔女  作者: 龍翠
第四話 ミオとレナ
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04

 ソフィアにより転移魔法で送られた場所は、膝ほどの高さの草花が生い茂る草原でした。その草原に、場違いな下り階段があります。きっとここがダンジョンなのでしょう。


「問題はどうやって最下層に行くかね」


 ここは王都の側だと聞きます。きっと雑魚敵であろうと自分たちでは手も足も出ない可能性があります。避けることができればいいですが、さすがにずっとは厳しいでしょう。

 レナと共に考え始めようとしたところで、


「大丈夫だよ」


 スピカはそう言うと、ひらりとウルフにまたがります。慣れているのか、ウルフも軽く吠えただけです。

 ミオの瞳が輝きます。乗り方を聞きたい。非常に、聞きたい。

 どうにか自制心を総動員させて心を落ち着かせます。まずは信頼関係の構築から入るべきでしょう。

 そんなミオに呆れた視線を向けてくるのはレナです。その視線が物語っています。他に聞くべきことがあるだろう、と。


「スピカちゃん。大丈夫とはどういうことですか?」


 仕方なくレナが聞きます。一応リーダーはミオなのですが。


「んー……。他の人には内緒だよ?」


 そう前置きしてから、スピカが続けます。


「私、称号の効果でモンスターに襲われないの」


 は、とミオとレナが絶句します。今までも多少狙われにくくなるというスキルや装備はありましたが、完全に狙われないなど聞いたことがありません。


「称号について聞いても?」


 少し興奮しつつレナが聞きます。もし入手できるなら、喉から手が出るほどに欲しいスキルです。


「ごめんなさい」


 ですがスピカは頭を下げました。それはきっと、銀麗に関わることなのでしょう。残念に思いながらも、レナは気にしないでくださいと手を振りました。


「お兄ちゃんと一緒にいた時に確認したんだけど、私の側にいれば同じ効果が適用されるらしいから。だからあまり離れないでね?」

「ああ、そういう……。分かったわ」


 兄、というのも気になるワードですが、今は攻略を優先することになりました。




 ミオが先頭、レナが最後尾、そしてスピカを真ん中にして、三人で並んで歩きます。単純にミオが前衛の格闘家だからという理由の並びでしたが、特に意味はないなと入ってすぐに思いました。

 スピカの言葉は真実でした。モンスターのすぐ側を通っても、彼らが襲ってくることはありません。明らかに気づいているようではあるのですが、スピカを一瞥しただけで戻っていってしまいます。


「本当にすごい称号ですね」


 レナがそう言うと、スピカは困ったように微笑みました。


「うん。だからこそ、私はパーティを組めなくなったんだけど


 それはそうだろうと思います。ミオもレナもこの話を広めたりはしませんが、しかし他の人なら騒ぎ、問い詰めることぐらいはするかもしれません。


「実はスピカちゃん、苦労してる?」


 ミオが聞いて、スピカは笑いながら首を振りました。


「私はとても楽しいよ」


 もともと、スピカは戦闘にあまり興味がないそうです。ふわふわもこもこの動物と触れ合えればそれでいいのだとか。


「天使がいるわ」

「落ち着きなさい」


 ミオの目がだんだん危なくなっているような気がしますが、気のせいでしょう。気のせいだと信じたい。

 そうして他愛ない雑談をしつつ歩き続けて。ようやく目的の場所にたどり着きました。

 大きな扉があります。いかにもボスがいそうな扉です。


「ここが最奥かしらね」


 ミオはそう言いながら、さっさと扉を開けてしまいました。

 緊張感がないと普段なら怒られるかもしれません。普通なら準備をしてから開けるはずです。ここまで気楽な理由は、道中にスピカから聞いた話にありました。

 なんとこのスピカ、ボスモンスターですら狙ってこないそうです。


 一度、どれだけの効果があるのかと、スピカは最寄りのダンジョンに潜ったことがあるそうです。結果は、ボスがいる部屋ですら素通りで、ボスが守る豪華な宝箱にたどり着いてしまったそうです。さらにはその宝箱を開けても、襲ってこなかったのだとか。さすがにボスを倒さずに宝物を持ち帰ることは良心が咎めたらしく、置いてきたそうですが。


 そんな話を聞いているからこそ、気楽なのです。開けて、ボスを確認してから準備をしよう。その程度です。

 そうして扉を開けた先には、巨大なゴーレムがいました。石で作られた巨大な体です。そのゴーレムの頭に、目的の花が咲いていました。


「あー……。これは……。なるほど」


 それを見た瞬間、何故、自分たちが一緒に来なければならなかったのか、分かりました。

 スピカの称号の効果は、正確にはモンスターがノンアクティブとなるものだそうです。つまり、こちらから攻撃を仕掛けた場合は、当然ながら戦闘になります。

 さて、花はゴーレムの頭に咲いています。あれを取れば、どうなるか。ほぼ間違い無く戦闘でしょう。

 それを察したのでしょう、スピカの顔は青ざめていました。


「ど、どうしよう……」

「大丈夫よ」


 そのスピカの頭を撫でて、ミオは言います。


「ウルフで走って、花を引き抜いて、そしてすぐに戻ってきなさい。その後は、私たちが請け負うわ」

「え? でもそれだと、あのゴーレムに狙われて……」

「私たちは大丈夫です。それよりもその花をあのドラゴンに間違いなく届けてあげてください」


 クエストは失敗になるだろうが、まあどうせ降って湧いたようなクエストだ。むしろ自分たちが死に戻りしてあのドラゴンを助けられるなら、十分だろう。いい笑い話ができるというものだ。


「花については任せるわよ、スピカ」


 ミオがにやりと笑いながら、スピカの頭を撫でます。スピカは口を引き結び、覚悟を決めたように頷きました。よしとミオも頷き、言います。


「あとでまた会いましょう」

「うん……!」

「さあ、行って!」


 スピカの乗るウルフが駆け出しました。一直線にゴーレムへ。やはりゴーレムは襲うことはせずに、顔だけをスピカに向けています。

 ウルフはそのゴーレムを瞬く間に駆け上り、そしてスピカが花を引き抜きました。


 ぶぢぃ。


「ひゃあ!」

「うわっ」

「ひぃ……」


 スピカ、ミオ、レナが顔を引きつらせます。なんだかものすごく痛そうな音が響きました。

 そしてゴーレムが動き出しました。ぐおおお、と大きな鳴き声、でしょうか。上げています。


「怒るよね! ごめんね! 痛かったよね! ごめんねー!」


 泣いて謝りながらスピカが戻ってきます。ミオたちですら罪悪感の感じる音でした。引き抜いたスピカはなおさらでしょう。気のせいか、ウルフもなんだか表情が引きつっているような気がします。


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