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銀麗の魔女  作者: 龍翠
第三話 シエラ
26/46

07

 しばらくそうしてシエラのことを聞いていると、その本人が戻ってきました。手に持つ大きな盆には、これもまた大きなケーキが載せられています。


「わあ……!」


 歓声を上げるスピカたち。シエラは嬉しそうに微笑みました。ゆっくりとテーブルの上に置きます。


「作りたて。召し上がれ」


 その言葉に、スピカとフェルトが動きを止めました。思い出すのは、屋台でのソフィアの様子です。


「えっと……。シエラさんが作ったんですか?」


 恐る恐ると問いかけるスピカに、シエラは首を傾げつつも頷きます。


「そうだけど?」


 今度こそ盛大に頬を引きつらせた二人に、ソフィアは笑いながら言いました。


「大丈夫だよ。ししょーはケーキだけはまともに作れるから」

「ソフィア……。何を話したの……」


 何となく予想がついているのでしょう、憮然としたシエラが小皿とフォークを差し出してくれます。それを受け取ったスピカとフェルトは、少し緊張しつつも早速食べることにしました。シエラが包丁で食べやすく切り分けてくれるので、それを受け取って一口食べてみます。クリームもスポンジも、リアルでは食べたことないほどにふわふわでした。


「美味しい……」


 ふわふわでありながら、口に含むと溶けてしまう不思議なケーキ。食べ進める手が止まりません。


「あの、モンスターでも、これを食べられますか?」


 一切れ食べ終わったところで、スピカが聞きます。もちろんと頷いてくれたので、新しい小皿を用意してもらって、それをウルたちの前に置きました。

 ウルとラビ、そしてリルが鼻をひくひくと動かしながらケーキに顔を近づけます。やはり警戒しているようです。そうして、ぱくりと口に入れて。ウルが大きく目を見開きました。続いてラビとリルも食べて、同じ反応を示します。その後は早いものです、一心不乱に食べています。


「喜んでもらえて良かった」


 シエラが柔らかく微笑みます。ウルたちを見つめるその目はとても優しいものです。この人も、動物やモンスターが好きなのでしょう。


「スピカ」


 不意に、シエラが話しかけてきました。ウルを眺めていたスピカがシエラへと振り返ります。ソフィアとフェルトはまだウルたちに夢中です。


「ああ、今は私の声はスピカにしか聞こえない」


 どうして、と思いながらも、スピカは姿勢を正しました。不思議には思いますが、相手はあのソフィアの師匠です。色々とできても不思議ではありません。


「二人が気づく前に、先にスピカに聞いておきたいことがある」


 首を傾げるスピカに、シエラが言いました。


「まずは、ソフィアと友達になってくれて、ありがとう。あの子の保護者として、スピカみたいな優しい子が友達になってくれたことは、嬉しい」

「あ、いえいえ……。私の方こそ、ソフィアちゃんにはいつも助けてもらってますし。ソフィアちゃんもとっても良い子です」

「ん……。あとは、それなりに大事なこと。銀の魔法はあまり使わないように。この魔法は本来、プレイヤーに、リアルを生きる人間に教えるものじゃないから」


 分かりました、と頷きかけて、けれどスピカは固まりました。その言葉の意味を理解して、唖然と口を開きます。


「シエラさんは……リアルを知ってるんですか?」


 この世界で生きるAIは知らないもの。そう思っていたのですが。

 シエラは真剣な表情で頷きました。


「私と、そしてもう一人、至金の魔導師が例外的に知ってる。私と至金は、この世界を管理するために生み出された最初のAIだから」

「それじゃあ、銀麗の魔女が世界創世の時からいるっていうのは……」

「紛れもない事実。もっとも、世界創世の時からすでに人間がいた作り物の世界だけど。それでも私と至金の二人は、この世界の時間で千年以上、ずっと管理を続けてる。この世界を生み出した父さんが来なくなっても、ずっと」


 父さん、というのがこのゲームを作り出した科学者なのでしょう。残念ながらスピカはその辺りの事情は知りませんが、その科学者が長いこと来ていないことは分かります。おそらく、それは、そういうことなのでしょう。


「話が脱線したけど、ともかく、銀の魔法は本来この世界を管理するための魔法だから、あまり使わないで。でも教わったのは事実だし、遠慮もしなくていいけど」

「難しいですよ……」

「ん。まあ、任せる。心に留めておくだけでいい。何をしても、私は文句を言うつもりはない」


 ただ、とシエラが続けます。


「悪いことに使えば、ソフィアが悲しむから」

「はい……」


 それは、何となく分かります。だからこそ、スピカはいわゆる攻略のためにこの魔法を使ったことも、称号の効果を利用したこともありません。それはきっと、ずるいことですから。


「当然だけど、銀の魔法に習得方法なんて存在しない。スピカが、プレイヤーの中で唯一銀の魔法を扱える」

「どこで教わったか聞かれても、むやみに答えるなってことですね」


 満足そうにシエラは頷きました。もとより、スピカも人に教えるつもりはありません。特別な魔法だと知ってしまった今なら、特に。


「最後に、これが一番大事なこと」


 まっすぐに、シエラがスピカを見つめてきます。スピカも真剣な表情で見つめ返します。


「これからも、ソフィアの友達でいてあげて。あの子は私の真似をしてるのか、クールに見せかけようとしてるけど、寂しがり屋だから」

「それはししょーに言われたくないなあ」


 ひょっこりと。ソフィアがテーブルに戻ってきました。どうにも困ったような表情を浮かべ、シエラを見ています。


「ちょっと、ししょー。恥ずかしいよ」

「ん。親はいつまでも子供にお節介を焼きたいものなの。放っておきなさい」

「せめて私がいないところでやってほしいかな……」


 気づけば、ソフィアの顔は真っ赤です。自分の知らないところで親が友達と話している、となったら当然の反応かもしれません。

 次に顔を出したのはフェルトです。どうやら、友達のあたりの話は、二人にも聞こえていたようで、


「シエラ様。ご心配せずとも、私もスピカちゃんも、ずっとソフィアちゃんの友達ですよ」


 ね、と同意を求められたので、もちろんだと頷きます。ソフィアの手を取って笑いかけると、ソフィアはどこか恥ずかしそうに目を逸らしました。


「照れてる娘がかわいい。くんかくんかしたい」

「だから台無しだよししょー!」


 ソフィアが叫んで、スピカとフェルトは思わず噴き出しました。


「ところで、あの、シエラさん。その、そういった話というかネタというか……。どこで?」

「暇つぶしにサーフィンしてる。無論無断」

「…………。聞かなかったことにしておきます」


 このやり取りの意味は分からなかったのでしょう。ソフィアとフェルトは首を傾げていましたが、スピカが何でもないよと首を振ると、特に追求はしてきませんでした。


壁|w・)本文に出る予定のない裏設定。

シエラはソフィアの誕生日のためにケーキ作りを猛練習したという過去があったり。

付き合わせたのは当然のごとくもふもふ喫茶のオーナーさん。

なお、オーナーさんに当時のことを聞くと目が死んでしまう地雷ワードです。

ちなみに他の料理は、おいしくはないけど食べられないことはない、という程度。

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