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銀麗の魔女  作者: 龍翠
第三話 シエラ
23/46

04

 まったく、と呆れながらも、先生は銀麗の魔女に向き合います。


「こちらこそ、スピカちゃんを認めて頂いてありがとうございます。この子は面白い子でしょう?」


 面白いってどういうこと、とスピカが声を出さずに憤慨しています。相変わらず見ているだけで楽しい子です。


「うん。面白い。優しい子だし。友達になれて良かった」

「うあ……」


 スピカが顔を背けました。見なくても分かります。おそらく顔が真っ赤なのでしょう。

 さて、この空気。どうしたものでしょうか。

 先生は周囲へ視線を巡らせます。他の指導者含めて、大勢の視線がこちらを向いています。仕事しろと言いたい。気持ちは分かるので何も言いませんが。自分も、他の指導者と銀麗の魔女が話していたら、間違い無く聞き耳を立てますから。


「それで……。スピカちゃん。そちらの子は紹介してくれないのかしら。どこかで見た覚えはあるのだけど……」


 小さな子犬のような魔物、おそらくフェンリルの子供を抱いた女の子を見ながら聞きます。スピカがその子の隣に立って、自慢するような元気な声で言いました。


「この子はフェルトちゃん! 王女様です!」


 ざわりと。周囲が一瞬だけ騒がしくなって、すぐに静かになりました。先生も凍り付いています。王女様ときたか。もう何が来ても驚かないと思いましたが、王女様は予想外です。この子の交友関係がもう分からない。斜め上に飛び抜けすぎです。


「王女、ということは……。フェルトクイナ様、でしょうか」

「ああ、はい。一応お忍びということで、フェルトと呼んでください」

「お忍び……?」

「お忍びです。お忍びと言ったらお忍びです」

「あ、はい」


 一応は隠したいのでしょう。恨みがましい視線をスピカに向けています。スピカはごめん、と小さくなっています。


「その……。護衛などは?」


 先生の当然の疑問に答えたのはソフィアでした。


「くるくるがいるから大丈夫」

「くるくる?」

「この子」


 ひょい、とソフィアが抱き上げたのは、額に宝石のついたリスです。精霊についてもある程度詳しい先生は、すぐにそれが何なのか思い至りました。

 カーバンクル。結界を操る中位精霊。中位精霊でありながら、上位精霊の攻撃すら弾く結界を作ることができる精霊です。冒険者含め、人もモンスターも、その結界を破ることはできないでしょう。さすがに最上位精霊なんてものが出てくれば話は別ですが。


「なるほど。安心ですね」


 とりあえず考えることは止めました。

 もう一度周囲を見ます。やはり聞き耳を立てています。暇人どもめ。

 よし、と先生は頷きました。どうせなら皆が気になっているだろうことを聞いてやりましょう。


「ソフィア様。一つお伺いしたいことがあるのですが」

「なに?」

「ソフィア様は、銀麗の魔女を継いだのですよね?」


 よく聞いたとばかりに指導者たちが目を輝かせます。スピカとフェルトも気になっていたのか、止めることなくソフィアに視線を向けています。


「うん。つい最近、独り立ちしたところだよ」

「なるほど……。その、先代様は、今は何をして……?」


 そう問えば、何故かソフィアは気まずそうに目を逸らしました。不思議に思って首を傾げていると、ソフィアはとても言いにくそうにしつつ、


「多分……ぐうたらしてる……」

「え」

「この間、ちょっと戻ってみたら、部屋のベッドでお菓子片手に寝てたから……。なんだか、知らないものばかりだったけど、食べ物が入ってた箱みたいなのも散乱してたし……」

「えー……」


 聞くんじゃなかった、と後悔。神秘的な魔女のイメージが崩れていきます。

 でも、とソフィアが言い訳をするように続けます。


「ずっと、ししょーは働きづめだったから。何年も、何十年も、何百年も、ずっとずっと働いてたんだよ。だからちょっとはめを外してるんだと思う」


 まるで自分に言い聞かせるような言い方です。何となくほんわかしてしまいます。

 それに、ソフィアが言うことも一理あるのでしょう。

 神話にすら語られる世界の監視者、銀麗の魔女。そして修正する者、至金の魔導師。この二人はこの世界の始まりから、ずっと世界の管理をしてきたとされています。それが本当なら、ようやく手に入れた自由を謳歌したいと思うのは当然でしょう。むしろ是非ともゆっくりしてほしいとすら思います。

 ちなみにこの会話、当人である初代銀麗、シエラは聞いていたりして、見られてたのかと頭を抱えて悶えたりしているのですが、当然ながら誰も知りません。


「多分、そのうち遊びに来ると思うけど、放って置いてあげてね」


 ソフィアの言葉に、先生は優しく微笑みながら、畏まりましたと頷きました。




 その様子を見ていた冒険者の一人が言いました。

「人はそれをフラグと言う」

 誰かが言いました。

「おいばかやめろ、余計なことを言うな」


   ・・・・・


 先生に挨拶をしてから建物を出た三人は、次にご飯を食べに行くことにしました。案内はもちろんスピカです。どこに連れて行ってくれるのかと、フェルトは今からとても楽しみです。

 そうしてフェルトたちが案内されたのは、裏通りにあるこぢんまりとしたお店でした。看板には店名が書かれています。もふもふ喫茶。なんだこれ。


「不思議な店名ですね」


 フェルトがそう言うと、スピカは頷きながら言います。


「うん。中に入れば分かるよ」


 それは少し楽しみです。

 そうして扉をくぐった三人を待っていたのは、


「うわあ……」


 もふもふ天国でした。

 子犬子猫はもちろんのこと、たくさんの小さなふわふわもふもふがいます。とてとて走ったり歩いたり鳴いたりととても賑やかです。

 子犬が一匹、こちらへと歩いてきました。つぶらな瞳で見つめてきます。歓迎、してくれているのでしょうか。フェルトが抱き上げると、子犬は嬉しそうに尻尾を振りました。


「最近見つけたお店なんだよ。いいお店でしょ?」

「すごいですスピカちゃん! 天国です! ああもうかわいい!」

「うん。とりあえず落ち着こうかフェルトちゃん」


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