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銀麗の魔女  作者: 龍翠
第三話 シエラ
21/46

02

 この森で一番好かれているのはソフィアで、次にスピカのようです。兄とフェルトは、優しそうな人間がいる、という程度の興味のようで、それでもちょっとずつ集まっています。フェルトにとってはそれでも十分なのか、子狐を抱いてご満悦です。

 が、それで納得していない、というより明らかに不満を覚えている子もいます。

 てしてしと、フェルトの頭を叩く小さな犬。フェルトの頭の上にいるリルです。子狐じゃなくてこっちと遊べ、という声が聞こえてくるようです。


「あはは。もう。リルは我が儘ですね」


 満面の笑顔でリルは子狐を手放すと、リルを抱きました。まだまだ小さいリルはなんだかもこもこしている毛玉のようにも見えます。これが俗に言う殺人毛玉。

 じっと見ているスピカに気が付いたのか、フェルトは笑いながらリルを差し出してきました。


「わあ……。もこもこだあ……。やわらかい、かわいい、もふもふ……!」


 こねこね。なでくり。スピカが撫でていると、くすぐったそうにリルが身じろぎします。それがまた、かわいい。


「では私はラビちゃんを……」


 フェルトはウルの上で寝そうになっているラビを抱き上げました。ラビはぱちくりと目を瞬かせ、次にフェルトへとすり寄ります。フェルトの顔が見る見るうちにだらしなくなります。気持ち分かる、とても分かる。ラビはスピカパーティの癒やし担当です。癒やし担当しかいないという言葉は聞こえません。

 ウルは微笑ましく見守っているソフィアの元へと歩いて行きます。側に来たウルを、ソフィアは怪訝そうに見つめ返します。


「なに? 別に寂しくないよ? ……いやほんとだよ? ……………。でもそう言うなら、撫でる」


 ぽす、とウルがソフィアの足の上に頭を載せます。まったく、と文句を言いつつも、ソフィアはそんなウルを撫でています。口元がほころんでいるのは気のせいではないでしょう。

 そうして、みんなでもふもふを堪能して、たっぷりと堪能して。


「いや、いつ行くの?」


 ソフィアの言葉に我に返りました。


   ・・・・・


 銀麗の魔女ソフィア。公式から情報が出たところであり、そして各地を渡り歩くNPCということもあり、最も有名なNPCになっています。多くのプレイヤーが各地で彼女を探していますが、未だ発見の報はありません。

 それもそうだろう、とラークは思います。だって、彼女はプレイヤーが行けないエリアに行っていることも多いようなのです。始まりの町の側にいた時も、普通ではたどり着けないエリアにいました。今後もそう簡単に見つかることはないでしょう。


 ですが、今日は違います。

 ラークは始まりの町の広場でウィンドウを呼び出して、掲示板を眺めています。雑談掲示板です。そして、それは現れました。

 銀麗の魔女が始まりの町にいる、という書き込み。


「さて、と……」


 ラークは掲示板を閉じて、メールを開きました。そこには運営からの返信があります。内容は、簡単に言えば、ご連絡ありがとうございます、対処いたします、というものでした。どうやら彼らにとっても銀麗の魔女というものは少々特別なようです。


「僕も見守るぐらいはしようかな……」


 ラークはそうつぶやくと、予めスピカから聞いていた案内のルートを思い出しながら、その場を離れました。


   ・・・・・


 始まりの町を歩きながら、スピカはとても緊張していました。それもそのはず、周囲からたくさんの視線を感じているのです。隣を歩くソフィアはそれに気づいているのかいないのか、いたって平然としています。

 逆隣のフェルトは胸に抱いたラビにご満悦なようで、周囲の視線に気が付いていません。ウサギもいいなあ、私もほしいなあ、なんてつぶやいています。次はウサギを探しに行きたいという意思表示なのでしょうか。もちろんラビはあげません。


 ちなみにリルはスピカの腕の中です。こちらは少々不機嫌そうで、じっと自身の主のことを睨んでいます。そこは自分の場所なのに、と言いたげです。気持ちは、まあ分かります。自分のご主人様が自分以外の子を愛でていたら、まあ面白くはないでしょう。


「ごめんね、リル。私の子たちが」


 腕の中のリルへと言えば、リルは気にするなとばかりに首を振りました。とてもできた子のようです。えらい。


「まずはどこに行くの?」


 ソフィアが振り返って聞いてきます。ただしその視線は屋台に向かっています。以前のお祭りの時にも思いましたが、ソフィアは最初のイメージと違い、食い意地が張っているようです。美味しいものを食べると幸せ、というのが本人の談ですが。それには全面的に同意です。


「私の先生に会いたいって言ってたから、習得所かなと思ったんだけど……。あの屋台に行く?」

「いいの?」

「いいよ」


 三人で早速屋台に向かいます。その屋台はお肉を串に刺して焼いているお店で、秘伝のたれがとても美味しいお店です。


「おじさん、五本ください」

「あいよ」


 スピカが声をかけると、店主さんは手際よく準備をします。まだ生のお肉を串に刺して、たれで満たされた壺の中へ豪快に投入。そしてすぐに取り出して焼き始めます。じゅうじゅうというお肉とたれの焼ける音が食欲をそそります。同時に、豊潤な香りが周囲へ広がります。


「うわあ……うわあ……」


 ソフィアが目を輝かせています。普段はどこかクールな印象を受けたりもするソフィアですが、こうして見ると見た目相応の女の子です。屋台にかじりついて、焼けていくお肉を見つめています。瞳がきらきらです。


「スピカちゃん。なんだかソフィアちゃんがかわいいです」

「うん。かわいい」


 その様子を微笑ましく見守ります。店主さんも満更でもなさそうで、頬がひくひくしています。


「ほれ、味見用だ」


 店主さんが小さな皿を出してきました。串に刺さっているものと同じお肉が載っています。


「一個だけだが、まあ食え」

「いいの?」

「おう。そこの子たちにも。ただし冷めてるのは許してくれよ。俺のメシにしようと思って、ちょっと古くなったのを取っておいたやつだからな」


 それぞれ小皿を渡してくれます。ウルたちには申し訳ないですが、先に一個ずつ食べることにします。

 焼いていたのは結構前なのでしょう、すでに冷めてしまっていて、湯気はありません。それでも、目の前から香ってくるたれの匂いでこれも美味しそうに見えます。

 三人はさっそく、ぱくりと口に入れました。


「ん……柔らかい……」


 冷めているにも関わらず、お肉はとっても柔らかです。かといって抵抗感がないわけでもなく、もっちもっちと不思議な食感。美味しい。

 わん、と鳴き声。振り返れば、ウルたちがこちらをじっと見つめています。口からはよだれ。途端にひどいことをしているような気になってきました。


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