01
壁|w・)地震の片付けを終えて、今、復活の時!
というわけで、第三話です。
今回はひたすら日常……日常?回です。もふ-!
それは、本当に突然でした。
ある日、スピカが王城のお庭で、偶然訪れていたソフィアを含めた三人でのんびりお茶とお菓子を楽しんでいると、ソフィアが言いました。
「あ、そうだスピカちゃん」
「なに?」
「近いうちに、始まりの町に行くから」
「へ?」
何でも無いことのように言われましたが、スピカの思考は完全に凍りました。いつか案内すると約束のようなものはしていましたが、まさかこれほど早くとは思ってもみませんでしたし、今となっては色々と不都合があるためです。
「あれ? だめだった?」
ソフィアが不安そうに聞いてきます。スピカはすぐに首を振って、笑顔で言いました。
「大丈夫!」
まあなんとかなるかー。そんな気楽な思考です。考えるのが面倒になったわけではありません。ないったらないのです。
「始まりの町ですか。スピカちゃんはそこで暮らしているのですよね?」
フェルトが聞いて、スピカは少し考えて首を振りました。
「拠点ではあるけど、暮らしてはないかなあ」
「冒険者は自分の世界からこっちに来てるからね。基本的には自分の世界に帰ってるはずだよ」
補足で説明してくれたのはソフィアです。なるほどそういう設定なのか、とスピカは内心で納得します。
「スピカちゃんの世界! 行ってみたいですね!」
無邪気なフェルトの言葉に、スピカの頬が思いっきり引きつりました。物理的に不可能なためです。どう答えようかと困っていると、またもソフィアが助け船を出してくれます。
「無理だよ、フェルトちゃん。冒険者の世界には私たちは行けないから。精霊たちがそう決めてる」
「そうなんですね……。残念です」
それで納得できるのか、と少しだけ驚きますが、それ以上に助かりました。精霊は万能です。
「じゃあせめて、始まりの町に行ってみたいです。だめですか?」
「スピカちゃんがいいならいいけど」
二人の視線がスピカへと向きます。さて、と少し考えます。この二人を案内してもいいものだろうか、と。問題は、ないとは言えません。フェルトはともかく、ソフィアは顔が広まっています。きっと騒ぎになるでしょう。
けれど、それはこの二人の行動を縛る理由としてはどうなのでしょうか。スピカが考えるのはプレイヤー側の理由です。この二人にとっては知らないことですし、ソフィアにとっては勝手に顔が広まっているという有様です。スピカとしては、こちらの勝手な都合でだめだとは言いたくありません。
「多分、大丈夫」
だから、そう答えました。何かあれば、ソフィアならあの黒い穴でフェルトと一緒に逃げることができるでしょう。スピカは森の広場でほとぼりが冷めるまでこもるだけです。
「うん。じゃあ行く日が決まったら連絡するよ。スピカはいつ頃が都合いいの?」
ソフィアの問いに、スピカはメニュー画面を開きます。予定のない日付と時間を入力して、この世界の日時に照らし合わせて、それをソフィアに報告。ソフィアは頷いて、
「じゃあ、予定が決まったら連絡するね」
そういうことになりました。
・・・・・
夕食時、王城の庭園での会話を兄に報告すると、兄はどうしてそうなったと頭を抱えてしまった。やはり色々とまずいらしく、どうしたものかと頭を悩ませている。
「問題あったかな……?」
不安そうに星香が聞くと、兄はいや、と首を振って笑った。
「まあきっと大丈夫さ。なるようになる」
「ほんと?」
「ああ。こっちでも、できる限りのことはするから」
そう言って、兄が星香の頭を撫でてくれる。とても優しいその手が星香は好きだ。
「ありがとう、お兄ちゃん」
そう言って笑うと、兄も優しく微笑んだ。
「一応、運営に連絡してみようかな……」
兄が星香に聞こえないようにそうつぶやく。兄としては、やはり頼ってくれる妹には力を貸してやりたいのだ。それが多少無茶なことでも。
始まりの町でソフィアたちと会うのが楽しみなのか、星香は機嫌が良さそうだ。この笑顔のためにも、手を尽くそう。そう心に決めた。
・・・・・
それからしばらくして、ソフィアとフェルトが始まりの町に来る日になりました。
二人とも、最初は森の広場に来ることになっています。森の動物たちと少し遊んだ後に、始まりの町に向かう予定です。
広場で動物たちにえさをあげていると、いつものようにぐにゃりと空間が揺れました。黒い穴ができあがり、出てくるのはソフィアとフェルトの二人です。
そしてそれを見た瞬間、スピカは行動に移しました。
二人の元に素早く移動。スピカに気づいた二人が挨拶するよりも早く、フェルトの手を引いて避難させます。
「え」
ソフィアが一瞬唖然とし、そしてすぐにまさか、と顔が固まり、そんなソフィアへと動物たちが我先にと飛び込んでいきました。
どたどた、ばたばたとできあがる動物たちの山。
「むぎゅう」
そして聞こえるソフィアの小さな声。
フェルトは呆然としていますが、スピカはもう慌てることもしません。だって、ソフィアが来ると毎回起こることなのです。
「ウル、お願い」
側で待機していたウルがいそいそと歩いて行きます。そうして一匹ずつ動物たちをどかしていき、やがて倒れたソフィアが姿を見せます。スピカは苦笑しながらソフィアへと歩いて行きました。
「ソフィアちゃん。生きてる?」
スピカが聞いて、ソフィアはひらひらと手を上げて振りました。
「ソフィアちゃんは動物に好かれているんですね」
子狐を抱いてもふもふしているフェルトが言います。子狐はされるがままで、とてもリラックスしているのが見て分かります。
未だ多くの動物に囲まれているソフィアが、どうにも複雑そうな表情で頷きます。その顔は喜んでいるのか怒っているのか、それとも嘆いているのか、本当に分からない顔でした。
「嬉しいけど、毎回毎回押し潰される身としては複雑だよ……」
最初の二、三回はソフィアも、そしてスピカも一緒に動物たちに注意していました。しかし改善の傾向は一切なく、むしろ動物たちはどんどん増えています。結局諦めて、その都度対処するようになりました。もうその方が気が楽です。
それを苦笑いと共に聞いているスピカにも、たくさんの動物が集まっています。ソフィアほどではありませんが、それでも好かれているのが分かります。フェルトは少し羨ましそうです。




