07
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誰が悪いのかと言えば、それは間違い無くソフィアでしょう。ここで探してもらおうと決めた時に、もう少しこの近辺を調べれば良かったのです。そのためフェンリルの気が治まらないなら、自分なら魔力でどうにでもなるので、気が済むまで殴らせようかな、とも思いました。
でも、スピカたちに手を出すつもりなら話は別です。大事な友達です。万が一にも、傷一つつけさせるつもりはありません。
故に久しく本気です。
師匠譲りの、普段は抑えている魔力を解放。自然と、体にもっとも馴染んでいる魔力の色に染まります。これを見られるのは少し恥ずかしいですが、スピカがきれいだと言ってくれたので、むしろ好きになりそうです。単純です。
その魔力で呼び出したのは、四聖獣と呼ばれる最上位精霊、“闘将”白虎。ソフィアの友達の精霊で、というより全精霊の中でも最高戦力とも言える子です。
ずん、と腹の底から響くような音と共に、巨大な真っ白の虎が降り立ちました。その体は大きく、一般的な家よりもさらに大きな体です。威圧感もすさまじく、何も知らなければ見ただけで気を失ってしまいそうです。
つまりは。
「きゅう……」
「ああ! フェルトちゃん! 気をしっかり! 水! 水をぶっかけないと!」
「落ち着いてスピカ! というより意外と豪快だね!?」
大混乱です。
「ソフィアちゃん! もう少し考えて呼び出して!」
「へ!? あ、ご、ごめん! ごめんなさい!」
珍しくスピカが本気で怒っています。助けるつもりがむしろ加害者に回っているのだから当然でしょう。あわあわと慌てる女の子二人。とりあえず落ち着けと、けれどこちらも右往左往の少年一人。
白虎はその子供たちの様子を微笑ましく思いながら見つつ、そうして口を開きました。
「お嬢」
腹の底から響く重低音。とても渋いお声です。
「あ、白虎! ごめんね、友達が怖がっちゃって……!」
「それは構わんよ。仕方あるまい。こやつはどうする? 戦意はないようだが」
え? と振り返れば。エリアキーパーのフェンリルはその場に這いつくばり、戦意がないアピールをしていました。顔は恐怖一色です。
「えっと……。どうしよう? 私、一応この子に攻撃されたんだけど……」
「なんだと!?」
白虎の周囲が揺らぎます。白虎から立ち上る濃密な魔力が景色を歪ませているようです。威圧感が五割増しです。
つまりは。
「ああ! フェルトちゃんが! 泡吹いてる!」
「わああ! ばか! 白虎のばか! フェルトちゃんが死んじゃう!」
「あ、す、すまん。ほれ、エリクサーだ。これを使え。俺も魔力を抑えるから」
大混乱です。
とりあえずフェンリルは思いました。
いっそひと思いに殺ってくれ、と。
・・・・・
あれから随分時間が経って、ようやく落ち着いたところで、ソフィアが代表してフェンリルに事情を説明しています。スピカはそれを、もふもふの中から見つめていました。
スピカたちは今、とても大きなもふもふの、つまりは白虎の背中に乗っています。落ち着いたところで白虎を見ると、とても柔らかそうな毛並みだったのです。こっそり足に触ってみると、そこもふわふわで。ソフィアに触っていいかと聞いてみると、乗っていいよという答えでした。
これに白虎は怒るどころか、むしろ進んで身をかがめてくれました。それでも高すぎて乗れずに困っていると、大きなふわふわの尻尾で器用に乗せてくれました。もちろんフェルトとラークも一緒です。
「もふもふ……」
「もふもふですね……」
「これはくせになるなあ……」
三人でごろごろ白虎の背中を転げ回ります。それを肌で感じている白虎は、少し呆れつつもどこか嬉しそうでした。
「お嬢にお前らのような友達ができていて、俺は嬉しく思う」
白虎の声が聞こえます。スピカが体を起こして言います。
「お嬢って、ソフィアちゃんのこと?」
「そうだ。銀麗の弟子だからな。我らはお嬢と呼んでいる」
「え……? ソフィアちゃんが銀麗の魔女じゃないの?」
「ん? ああ……。先代のことだ。我らは代替わりする前から銀麗の魔女に使役されているからな」
「ソフィアちゃんって二代目だったんだ……」
知らなかったな、と思うのと同時に、どこか納得もしました。スピカに青の魔法を教えてくれた先生は、外見を大人の女性のような言い方をしていました。きっとそれは、先代のことだったのでしょう。
「ソフィアちゃんが銀麗の魔女……。もしかして、お父様たちはそれに気が付いていて……?」
フェルトがぶつぶつと独り言を言っています。今までの情報を整理しているようです。フェルトはソフィアが銀麗の魔女だと知らなかったようなので、未だ少し混乱しているようでした。
「お話終わったよー!」
ソフィアが呼ぶ声が聞こえます。再び白虎の尻尾で地上に降り立ちます。
「今回は見逃してくれるって。話の分かるフェンリルで良かったよ」
「話が分かる……?」
ちらりとラークが白虎へと振り返ります。何を言いたいのか察したソフィアが笑顔で言いました。
「何か?」
「いや何でも無いです」
壁|w・)文字数調整。ちょっと短めでした。




