04
「と、いうわけで。友達とそのお兄さんが来ることになったよ」
王城の庭園。いつものお茶会でソフィアが報告してくれます。それを聞いたフェルトはとても嬉しくなりました。ウルフに乗れる女の子のこともそうですが、この王都には未だ冒険者はたどり着いていません。つまり、王都で初めて冒険者と関われるのはフェルトということです。
ちょっぴり優越感。いえ、だから何だと聞かれると、それ以上も以下もないのですが。
「楽しみです。ウルフを撫でさせてもらえるでしょうか」
「スピカなら頼めば喜んで撫でさせてもらえるだろうけど……。撫でたいの?」
「ここには動物がいませんから……」
フェルトも女の子です。やっぱりかわいい動物は大好きです。ここには小鳥の姿を見ることはできますが、他の犬猫といった動物や、当然ながらモンスターなんて見ることはできません。毛並みなど、毛布などから想像することしかできないのです。
「そうなんだ。ふうん……」
ソフィアは何度か頷くと、それきり黙ってしまいました。何かを考え込んでいるようでしたが、フェルトには分かりません。フェルトは不思議に思いましたが、のんびりと紅茶を飲んで待つことにしました。
やがてお祭りの日がやってきました。普段から賑やかな王都ですが、お祭りの間はさらに騒がしくなります。最も大きな通りではいくつもの屋台が並び、大勢の人が覗いたり食べたりをしています。
夜には花火が上がり、お祭りの夜空を彩ります。その花火を見ながら愛の告白をすれば結ばれるとかなんとか、そんな言い伝えがありますが、真実は誰も知りません。
フェルトは正門で待っていました。時間は午前七時十分前。もうすぐ約束の時間です。
今日はお祭り三日目。ソフィアのお友達がこの日でないとだめなのだそうです。
フェルトの側には兵士が三人います。腕の立つ三人で、周囲に目を光らせています。もっとも、フェルトを襲うという命知らずはまずいないはずなのですが。
しばらく待っていると、ぐにゃりと目の前の空間が歪みました。ぎょっとするフェルトたち。兵士たちが慌てて剣を抜き、フェルトの前に立ちます。空間の歪みはすぐに黒い穴になり、人が三人出てきました。
一人はソフィアでした。いつもの白いローブで、剣を構える兵士を見て首を傾げています。
もう一人も女の子。黒い髪に黒い瞳で、動きやすそうな服を着ています。そして、ウルフに乗っていました。
「わあ……」
思わずフェルトが声を上げます。それを聞いたソフィアはどこか満足そうに微笑み、ウルフに乗った女の子と笑顔を交わしています。なんとなく、羨ましいと思ってしまいました。
最後の一人は男の人です。黒髪黒目で、剣を吊っています。この人がお友達のお兄さん、なのでしょう。じっと、剣を持つ兵士を睨み付けています。いつでも、妹を守れるように。
フェルトが兵士の腕に手を添えると、兵士たちは慌てて剣を収めました。この三人がフェルトの客人だと気づいたのでしょう。申し訳なさそうに頭を下げて、お兄さんも頬を緩めました。
「来たよ。フェルト」
「はい。いらっしゃい、ソフィア。そちらのお二人も」
にこりと微笑みかけます。ソフィアが連れてきた二人はわずかに顔を赤くして、慌てたように姿勢を正しました。少女がウルフから下りて、言います。
「え、えっと! スピカです! ソフィアとはお友達です! よろしくお願いします!」
「スピカの兄で、ラークです。よろしく」
「ご丁寧にありがとうございます。第一王女のフェルトクイナと申します。フェルト、とどうぞお呼び下さい」
「え……。第一、王女……?」
何故か、スピカとラークが固まりました。どうしたのかと怪訝に思う一同の目の前で、真っ先にスピカが動きます。ソフィアの腕を掴み、引き寄せて、耳元で口を開きます。
「ソフィアちゃん! 王女様だなんて聞いてないよ!」
残念ながら声が大きくて丸聞こえでした。面白いので黙っていましょう。
「え? 言ってなかったっけ?」
きょとんと、首を傾げるソフィア。なるほど、原因はソフィアのようです。確かに相手が王女だと知らなければ、驚くのも無理はないことでしょう。フェルトとしては、気安く接してほしいのですが。畏まられるのはお城の中で十分なのです。
「スピカさん。自己紹介として名乗りましたけど、王女というのは気にしないでください。同じ友人を持つ者として、仲良くしていただけると嬉しいです」
「は、はい! えと、えと、えと……。あの、その、え、えへへ……」
「落ち着いてスピカ。気持ちは分かるけど」
見て分かるほどにスピカは動揺しています。こちらが申し訳なくなってしまうほどです。
ですがすぐに、それも落ち着きました。スピカが連れているウルフと、そしてその頭に乗っているラビがスピカに寄り添うと、あ、と小さく声を漏らして震えが治まりました。
「うん……。ありがとう、ウル、ラビ」
スピカがウルフを撫でます。見て分かるほどにもふもふです。ああ、いいなあ、撫でたい。
スピカは改めて姿勢を正すと、フェルトへと言いました。
「よろしくね。フェルトちゃんでいい?」
フェルトちゃん。ちゃん付け。なんて甘美な響きなのでしょう。思わずフェルトは顔を輝かせて、満面の笑顔で頷きました。
「はい! 私もスピカちゃんでいいですか?」
「うん!」
手を取り合って笑顔を交わします。なるほどソフィアがこの子を気に入っているのも分かります。なんて良い子なのでしょう。
そう思っていると、ソフィアがじっとこちらを見つめていました。「そ、ソフィアさん? どうしました?」
「…………。私は『さん』?」
「あ……」
珍しいことに、ソフィアは少し拗ねているようです。そのことに、スピカと顔を見合わせて、思わず笑みを漏らしました。ソフィアの顔がますます憮然としたものになります。
「ごめんなさい。それじゃあ……。ソフィア、ちゃん」
「うん……。うん」
ソフィアの頬が緩みます。この子も十分かわいい。
そんな流れで、お友達ができました。
「この疎外感、どうすればいいかな」
「お前も苦労するな……」
「はは。分かってくれる? まあ付き添いみたいなものだから、いいけど」
「まあ、なんだ。今度メシでも行こうか。おごってやるよ」
「おお、それは嬉しいな。はは。僕も友達ができたよ。はは……」
「…………」
兵士三人が寂しそうなラークの肩を優しく叩いていましたが、フェルトたちは誰も気づきませんでした。




