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銀麗の魔女  作者: 龍翠
プロローグ
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プロローグ

壁|w・)よろしくお願いします。

 そこは小さな草原でした。海に浮かぶ小さな孤島の小さな草原。そこにぽつんと建っている、これもやっぱり小さな家。この小さな世界にあるのは、それだけです。

 その家の前に、二人の人間がいました。


 一人は二十代前半に見える女性。長い金髪に青い瞳、全身を覆う真っ白なローブを着ています。手に持つのは自分の背丈ほどもある大きな杖で、杖の先端には深紅の宝石がついています。

 その向かい側にいるもう一人は、十代前半に見える女の子。こちらはセミロングの黒髪に黒い瞳で、先の女性と同じ白いローブを着ています。この子も手に杖を持っていました。女の子の背丈ほどの杖で、こちらは青い宝石がついています。

 女性が女の子に言います。


「私が教えられることは全て教えた」


 抑揚のない、平坦な声です。女の子は緊張の面持ちで頷きます。


「この先は、自分で世界を見て回りなさい。独り立ち。おめでとう、ソフィア」


 ぱちぱちと女性が手を叩きます。ソフィアと呼ばれた女の子が、照れくさそうにはにかみました。


「ありがとうございます、お母さん!」

「んんっ。ししょーと呼びなさい」

「あ、はい。師匠!」

「違う。いつも言ってる。ししょー」

「はい! ししょー!」


 ちょっと舌っ足らずな呼び方です。女性は満更でもなさそうに頬を緩めます。


「これが萌え。素晴らしい」

「し、ししょー……?」

「何でも無い」


 女性は首を振ります。そしておもむろに杖で地面を叩くと、側の空間がぐにゃりと歪みました。そうしてぽっかりと黒い穴が浮かび上がります。女性はそちらへと杖を向けました。


「行きなさい。世界を見て回りなさい。ソフィアの旅路に、精霊の加護がありますように」

「ありがとうございます、ししょー! 行ってきます!」


 ソフィアが黒い穴へと進みます。そうしてその穴に入ろうとしたところで、


「待ちなさい」


 女性が呼び止めました。ソフィアが不思議そうに首を傾げて振り返ります。


「忘れ物は本当にない? 大丈夫?」

「え? うん。大丈夫だよ?」

「保存食は持った? テントは? 寝袋は? お金は?」

「持ってる持ってる。大丈夫だよ、お母さん」

「ん……。なにかあったら、遠慮無く呼ぶんだよ? ソフィアをいじめる子はちりも残さずぶち殺してあげるからね?」

「怖いよ……」


 どうやらこの女性、相当な過保護なようです。思わずソフィアが呆れてしまうほどです。


「心配。やっぱりついて行った方が……」

「…………」

「ごめん。何でも無い」


 じっとりとした視線を向けられて、女性は口をつぐみました。咳払いをして、


「最後に。プレイヤーには気をつけるように」


 そう、言いました。


「うん。分かった」

「ん……。行きなさい」

「はい!」


 そうして、今度こそソフィアは黒い穴に飛び込みました。

 ソフィアを呑み込んだ黒い穴は、しばらくしてから消え去ります。女性はゆっくりと息を吐き出すと、さて、と手を振りました。ぐにゃりと空間が歪み、今度はある光景が映し出されます。森に立つソフィアの姿です。

 女性はそれをしばらく見守っていましたが、やがて満足そうに頷くと、欠伸をしつつ家の中に入っていきました。


   ・・・・・


 所変わって、東京某所にあるビルの中。モニターを見ていた女の人が、口をあんぐりと開けていました。ぴしっとスーツを着込んだ、かっこいい女性です。

 女が叫ぶように言いました。


「班長! で、出てきました! 彼女が出てきました!」


 班長と呼ばれた男の人が顔を上げて言います。


「彼女ってまさか……」

「銀麗の魔女です!」


 途端に、ざわりと部屋中が騒がしくなりました。大勢の大人たちが、まさか、本当に、と驚いています。班長も、目を丸くしつつも、すぐに平静を取り戻して言います。


「どっちだ? 本人か? 弟子か?」

「えっと……。弟子の方ですね」

「つまり独り立ちか……。感慨深いな」

「ですねえ……」


 うんうんと頷く大人たち。ほんわかと頬を緩めています。

 彼らが言う銀麗の魔女は、名をシエラと言います。この、もう一つの世界とも言える電脳の世界を中側から管理するNPCです。ただ、最近は自分で作ったらしい箱庭のような空間に引き籠もっていたようですが。

 そのシエラが森で捨てられていた赤子を拾い、弟子として育て始めたのはもう随分と前のことです。弟子だけが外に出てきたということは、ついに独り立ちということなのでしょう。

 二代目銀麗の魔女の誕生です。こっそり見守っていた大人たちの頬が緩むのも当然のことです。


「ステータスは表示できるか?」


 班長の声に、別の男が答えます。


「できます。ステータスはシエラと似通っていますね。銀の魔法もしっかりマスターしています」

「文字通りのマスターか?」

「ですね」


 ほう、と班長が頷きます。スキルをマスターしている、つまりは人に教えることができるということ。プレイヤーに銀の魔法が伝わるかもしれません。

 不安ではありますが、楽しみでもあります。


「名前は?」

「ソフィアですね。かわいいなあ」

「…………。ロリコンかお前」

「ちょ」


 あらぬ疑いがかけられて、周囲から冷たい視線が突き刺さります。青ざめるその男を放置して、班長は言いました。


「よし。各自、ソフィアには気に掛けておくように。何をしでかすか分からないからな」


 班長の指示に、大人たちが返事をしました。


   ・・・・・


 そしてそのソフィアは。


「わあ! かわいい! あ! この子も! おいでおいで、撫でてあげる!」


 初めて見る動物たちと戯れて、幸せそうに笑っていました。




 これは、誰からも縛られることなく世界を巡る、女の子の旅の物語です。



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