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欧州行ってやったこと  3

 ドイツでの任務を終えて英国へと向かうことになった。悪名高き英国面だ。戦車発祥の国でありながら、いや、だからこそか、戦車開発の迷路へと迷い込み、なかなか抜け出すことが出来なかった国。


 技術力が無くてまともな戦車が開発できなかった日本とは対極にあって、技術力、工業力は持っているにもかかわらず、戦略選択のミスから戦車開発の迷宮に迷い込み、戦争中盤までまともな戦車を送り出すことが出来ずにいた国。それが英国。

 技術的に劣ってはいないことは、17ポンド砲や戦後のL7を見ればわかる。それらを搭載した戦車はイスラエルがうまく活用して数倍するアラブ軍を撃退した事で十分証明されているじゃないか。

 問題は、英国のとった戦略そのものだったのではなかろうか。


 まあ、そんな国へと渡ったわけだ。1930年の段階ではどこの国も戦車の在り方については未だ確固とした戦略の確立までは至っておらず、様々な試行錯誤が行われていた。

 その最前線は何と言っても戦車発祥の国、英国であることは間違いなかった。


 この頃、みんな、英国の真似をしている。いや、どこの国も同じように考えたのだろう。


 英国では、歩兵、騎兵、砲兵をすべて機械化するという、21世紀から見ると「当たり前だろ」という話が出てきていたが、その中身は未来から見ると首を傾げるものが多数存在していた。


 例えば、試製1号戦車でもあったように、主砲以外に副砲や機銃を副砲塔に装備して、まるで陸上軍艦のように仕立てる考えがあった。

 陸上の装甲部隊を艦隊に見立てることで誕生したこの多砲塔戦車。残念ながら、一人の指揮官が多数の銃砲を個別に指揮することは困難で、一時の流行りで終わっている。

 そして、今では戦車といえば一つしかないが、この当時は重戦車、中戦車、軽戦車と存在した。

 今でも、軽装甲車が軽戦車のような役割を担い、一部の装輪車や装甲車改造の火力支援車が当時の中戦車の役割を担う事はある。しかし、メインはやはり主力戦車で、他の装甲車両よりも優れた視察装置をもって、強力なエンジンで乗用車並みに速度を出し、銃砲、ミサイルにすら耐える装甲を持ち、強力な火力を備える。


 ただ、言ってしまえば、これは昔から戦車に求められた性能ではあった。しかし、当時の技術で実現することは叶わなかった。

 強力なエンジンというのは車両に積めるほど小さくはなく、強力な装甲を支える特殊素材技術は未発達で、当時の軽量な戦車に巨大な砲を載せることは不可能だった。


 そのため、重装甲を施せば低速になって、速度を求めれば装甲が薄くなる。砲は敵戦車や機銃陣地を破壊できれば良いから、短砲身の小口径で十分だった。


 そうした事から戦車には複数のカテゴリーが出来上がり、それら毎に任務が割り振られたのだが、それは突き詰めていくと非常に無駄が生じることになる。


 日本において戦車とは、歩兵の移動砲台という考えがなかなか抜けず、太平洋戦争が始まって初めて、「戦車の敵は戦車」という認識が一般化し、シャーマンに対抗できる戦車はついぞ戦場に現れなかった。英国においては個々の戦車の役割が厳格に規定されており、「対戦車戦闘をするのだから榴弾は要らん」ということで、中戦車(巡航戦車)の主砲は徹甲弾専用だった。当時の重戦車(歩兵戦車)と中戦車(巡航戦車)の運用の統合は遅れ、結局、戦争終盤までまともな戦車を実用化できていない。


 なぜか同じ島国は事情は違えど同じような事が起きている。何だろうね。これ。


 さて、原さんはヴィッガースで研究に耽る日々が続いている。エンジンや装甲、砲と、色々なものを目にし研究している。


 そして、戦車戦術の大家とも会うことになった。


「ーこのようなものが今の機甲部隊に関する戦略だ」


 英国の大家はそのように説明してくれた。しかし、何やら首を傾げたくなった。


 戦車は偵察や機動戦、いわば旧来の騎兵のような戦術と歩兵の動きに合わせた動きを行う車輌が必要だという。まあ、この時代の考えとして間違ってはいないだろう。

 速度を得るために装甲を犠牲にした戦車では、歩兵の盾として敵陣地の前に堂々車体を晒すには心もとない。

 しかし、その様な戦車で速度を生かす戦術では歩兵が付いて行けない。戦車と歩兵が切り離されて各個撃破されてしまいかねない。 だから、個別の役割をもつ戦車を複数種類揃える必要があると言う。 分かるのだが、分からない。


「私は思うのです。確かに、快速の戦車も必要でしょう。歩兵に随伴する戦車も必要でしょう。しかし、歩兵が徒歩かトラックしかないというのでは、やはりおかしいと思います。歩兵自体を装甲化することが必要ではないでしょうか」


「もちろん、戦車と同等の防御力が必要となれば大変ですが、砲弾の炸裂や機銃弾から守れるだけで差し当たっては良いでしょう。そして、戦車が蹂躙した後を同じ速度で付き従い、残された敵歩兵や軽機関銃陣地を制圧するに足る火力を持った車両を用意するのです。装甲トラックでも良いでしょうし、軽戦車を多少大型化して兵員室を設けるのも良いでしょう」


 大家の人が目を見開き俺を見ていた。


「・・・確かに、それはすばらしい」


 ん?マテ、俺、何やらかしてんだよ、これ・・・


 英国面にこれからの光明を指し示してしてしまったじゃないか!

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