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欧州行ってやったこと

 昭和三(1928)年前半は国内での準備期間とされ、その間に海軍とのコネを持ったり、小野田さんが頻繁に訪ねてきたりと忙しかった。


 時代が時代の事で、欧州行きは船でひと月以上かかるという優雅な時代。だが、俺は船旅をしていない。不思議と記憶はあるんだが、なんだろうね、これ。


 そんなこんなでベルリンへとやってきた。駐在員としての仕事もあるが、与えられた任務は戦車に関する研究。

 ドイツや周辺国の工場見学を行うことが出来た。俺の目から見ると大したことないものもあるのだが、原さんには非常に驚く部分があったらしい。何故そんなことが分かるかって?それはよく分からない。しかし、分かってしまうのだから仕方がない。


 ドイツやスイスの工場を巡った。自動車や飛行機、銃器の工場も見学できた。俺にとっては非常に貴重な体験だ。今や見ることが出来ないものをたくさん見れたのだから。そしてもう一つ、原さんって、海外旅行の日本人の定番と過去に言われたようにカメラ持ってるんな。各地で写真を撮ってるようだ。

 ようだというのはまあ、アレだが仕方がない。俺として行動できるのは断片的な部分だけなのだから。


 そうこうするうちに欧州をめぐる旅行は終わった。


 そして、大学への聴講生として通う日々。俺は知らん。俺ならここで完全な引きこもりになっているんだろうが、原さんは様々なところに出かけて行った。感心するよ、本当に。しかしまあ、戦前のドイツを見る機会なんて絶対にないからこれは貴重な体験だよな。そう思って意識が原さんに引きずられていった。



 そして、数ヶ月後、今度は北欧をめぐることになった。北欧といえばほら、ボフォース社。前回行ったスイスのエリコン社と共に世界的な銃器メーカーだよ。エリコンの20ミリ機関砲は既にあったが、事前にタブレットで検索してみるとボフォースが40ミリ機関砲を世に出すのは1934年の事らしい。まだこの時点では次世代機関砲の研究が始められたという段階で、40ミリという口径すら決められていない状態だという。転生戦記によくある40ミリ機関砲の購入や情報取得は無理そうだ。


 そう思いながら北欧に渡り、様々なところを見学して回った。ボフォース社も。


「わが社で現在開発されている火器類は・・・」


 案内人の説明を聞きながら工場を回った。


「最後にですね、現在政府より発注が行われている対空機関砲についてですが、既存の口径ではなく、25ミリ、並びに40ミリを予定して、現在研究及び試作の途上であります」


 いや、予備知識では1928年に始められたばかりで今の段階でしかなく、予定口径が外に漏れて良いのかって話なんだが、良いの?


 その点には触れずにスルーした。下手に触っちゃいけないと思う。


 そして、南部にある戦車製造会社のランズヴェルク社の訪問である。専門の戦車をやってるところ。がぜん注目することになる。


 ここでは戦車の開発を主に行っており、「これぞ俺の知る戦車の形」というシロモノが置かれていた。ただし、完成品ではなく、木製の原寸大模型、いわゆるモックアップだ。


「これは現在開発中の戦車です。長砲身の37ミリ砲を備え、重量12t程度を予定しています」


 そう言った説明を受けた。エンジンはガソリンエンジンだが、空冷とのことでがぜん興味がわいた。主に原さんの。


 そして、施設内をうろうろしていて見つけた試験場で何やら試験が行われていた。


「あれは何の試験をやっているんでしょうか?」


 俺の質問に案内者はすらすら応えてくれる。


「あれはトーションバーの試験です。現在、戦車に採用されているリーフ、およびコイル式サスペンションとは隔絶した性能を持つ将来型サスペンションになると自負しております。詳しい説明は資料をお渡しいたしますので、それを参考になさってください」


 ほう、すでにトーションバーの開発やってるところがあったんだ。しかし、その実装って1938年頃じゃなかったろうか?

 そう思いながら帰りがけに資料を受け取って工場を後にした。


 しかし、不思議な事に同行していた他の人たちは何やら上の空だった様な気がする。何故なんだろうか?

 そう思いながら、帰りがけにタブレットで調べたら、先ほどのモックアップは来年完成する戦車らしい。しかも、ランズヴェルク社って、1934年に世界初といわれるトーションバー採用の戦車を作ってやがる。6.8tか、これなら九五式をこんな風に作れない事も無い様な・・・

 そう思って資料を開いてさらに驚愕した。

 そこには今調べたのと同じことが書かれている。まて、未だ完成していない戦車がなぜこうもすでに完成したかのように書かれている?意味が分からん。アイツか、神様の仕業か?


 さらにおかしなことは続いた。

 大使館での報告会で北欧見学の報告を行ったのだが、同行者はランズヴェルク社に寄った覚えが無いという。だが、俺の手元にはトーションバーとそれを用いた戦車の紹介する資料があるのだが・・・



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