それは夢の世界だった
「救援請う」
画面に表示されるそのシグナルと共に音声が聞こえる。渋い男性声優の声である。
俺は画面を確認し、要救護者が自分の射程内に居ることを確認して敵を観察した。
「おお~、アニマルハンターか」
敵はIS-2の様だ。そりゃあ、いくら7号戦車でも尻込みする罠。
「了解、救援に向かう」
俺はそう返信して周りを確認する。特に自分を狙う敵はいないようだ。
敵IS-2を確認する。距離は1800m、大戦期の戦車ではなかなか狙えない距離だ。が、俺のチハ改なら十分に可能。敵もまだ気が付いていない。つか、7号のゲーマーよく気付いたな。
慎重に射点を選んでHEで狙撃した。
「敵戦車の撃破を確認」
そうアナウンスが流れた。普通のHEで戦車なんぞ撃破は出来ん、大戦時の戦車ではそれは常識なのだが、一部の日本戦車は違う。使ってる弾種がHEATだから、装甲も容易に貫通する。
全通話で「なんてこった」と流したのち、撃破されたプレイヤーが何やらメッセージ書き語んでいる。いや、漢字ばかり並べたてられても読めんがな。略字が多いいわゆる簡体字。大陸のプレイヤーらしい。
放置していると味方プレイヤーが英語で何やら書きこみ、すぐに簡体字で書き込んだ。英単語を拾って意味を考えると「仕方ないだろ、相手は廃人だ」という事らしい、失礼な。
確かに、チハ改なんて持ってるプレイヤーは普通ならごく少数だ。その性能があまりに高すぎてすぐに配布中止となった幻の戦車。しかし、実際に完成していた車両だから削除も出来ないという理由で配布分に関してはそのまま使用可能になっている。
チハ改。正式には五式中戦車二型という。そうだな、比較できる車両があるとすれば、M48パットンだろうか?たしか、T62もそうだっけ?あ、パンターF型があったよ。
どのみち、大戦期の戦車が戦うファーストステージの戦場に居てよい戦車ではない。攻撃力はIS-2、3すら圧倒し、7号すら置き去りにする。チハ改の砲を比較するならL7、105ミリ戦車砲を持ってこないといけない。つまり、オーバースペック。まあ、チハの時点でドイツの88ミリやアメリカの90ミリ砲を凌駕し、ソ連の122ミリと並んでいるからどうしようもない。
さて、そう思ってマップをもう一度渡すと明らかに負けが込んでいる。味方は僅か3両しかいないし時間もない。また簡体字で書き込みだ。だから、意味が分からんのだよ。
全通話で?マークを送ってやった。すると、日本語意訳が書き込まれた。
「戦績普通のお前がチハ改とかどんなバグだ?」
という事らしいので、幸運と送ってやった。
「なってこった」
またそう返ってきた。こいつ廃プレイヤーだろ。つか訳した奴もだが。
正確には幸運ではない。俺の知る歴史の五式中戦車は90ミリ滑腔砲など装備していなかった。56口径75ミリ砲だったはずだ。
そして、車体も日本戦車らしくない。この世界にはないのが残念だが74式戦車に似ている。外国でいうとAMX30な。この世界じゃ、74式がパクリじゃなくて、AMX30をパクリ呼ばわりしているところが大きな違いか。
さて、敵が多い。さっき助けた7号がシャーマンをタコ殴りにして撃破したが、それって弱い者いじめって言わんか?
「救援請う」
まただよ、と思ってみたら、別の戦車だった。三式中戦車、チロだ。攻撃力は五式に準拠するが防御力はM4並。相手が悪いな。IS-3だ。
まず、7号が要請に応えて攻撃している。俺は7号が見落としてるM4を狙撃で片付ける。弱い者いじめではない。援護だ。
あ、チロがやられた。IS-3との距離は1450m、撃破圏内だ。7号に気を取られている隙にIS-3を攻撃した。
「ダメージを与えた」
APFSDSなんだから貫通したら撃破じゃないかと思うが、これはゲームだから仕方がない。急所を狙わなければこうなる。が、大ダメージを受けたところに88ミリ弾を受けて撃破される。
しかし、もう時間切れだ。味方は俺と7号のみ。完敗だよ。
一戦終えて、ふと考えてしまう。あれは一体何だったんだろうと。
長い夢を見ていたような気がする。そして、今朝起きてPCを起動させ、ゲームを開くと昨日までなかった戦車がいくつかあった。そして、それがなんであるかを俺は知っている気がした。夢の中でこれの設計や試験に携わった気がする。




