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異世界転移で兄妹チート  作者: ロムにぃ
第一部 間章四
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閑話一

本編じゃなくて、すみません! 生存報告及び取り敢えずの更新です。



 

「あ、雨が降ってきた」

 

 椿姫の呟きに、孤児院の院長室で寛いでいた俺は視線を窓にやる。確かに椿姫の言う通り、雨が降っていた。しかも、それは段々と強く激しくなる。

 部屋には俺と椿姫だけ、他の皆は子供達の遊び相手や、冒険者組合の依頼をこなしたりしている。俺と椿姫は今日は休みの為、部屋でのんびりしていた。

 

「ねえ、お兄ちゃん。こんな雨を見ると、あの日の事を思い出すね」

「ああ、そうだな。そんな良い思い出では無いけどな」

「うん、そうだね。でもあの出来事があったから、今の私とお兄ちゃんがあるんだよ」


 椿姫の言う通り、あの出来事が無ければ、椿姫とは何処にでもいる普通の兄妹としての関係のままだっただろう。

 そう、あれはこんな雨が降る、とある日の出来事だった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 あれは椿姫が小学生になって、一月程たった頃だった。

 この頃の椿姫はまだ俺にべったりとは懐いておらず、何処にでもいる兄妹といった感じであり、しかも両親が死んでそれほど経っていなかった事もあり、俺も椿姫も精神的に不安定な状態だった。

 そんなある日、いつも俺が帰った時には既に家に居る椿姫が帰って来なかった。初めは友達のいる感じでは無かった椿姫に、友達が出来て遊んでいるのだろうと思った。だが、外は大雨だ。外で遊べる状況ではない。

 傘を忘れた訳でもない。傘を持って学校に行ったのは、俺も見ていたからだ。

 もしかしたら学校で雨が落ち着くのを待っているのかも、と思い家に居たが、下校時刻を過ぎても帰って来ない。

 叔父さんは仕事、叔母さんは町内の集まりで留守にしている。なので家には俺しか居ない。

 不安になった俺は傘を差し、学校へと向かう。土砂降りの雨の中、学校へと向かう俺の頭に浮かぶのは、死んでしまった親しい人達の姿。理不尽にも命を喪ってしまい、もう会う事は出来ない。もしかしたら、椿姫も……と嫌な想像が頭に浮かぶ。

 嫌な想像を振り払いながら学校へと向かうが、学校に着くまでの間に椿姫と会う事は無かった。そして、学校に着く頃には雨も止んでいた。

 雨が止んだのなら椿姫が出てくるかも、と思ったが既に校門は閉じられている。学校には居ないのか、と引き返そうかと思ったが、念のためと学校の中を見て回る事にする。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 校門を乗り越え、学校へと侵入した俺は、まずは校舎の入り口へと向かう。だが、既に鍵が掛かっていた。

 次に向かったのは職員用の入り口だ。流石にそこは開いており、俺は中へと入る。入り口直ぐの事務室には誰も居なかったので、職員室へと向かう。するとそこには一人の先生が居た。だが、居たのは皆から嫌われている先生だ。俺もこの先生は苦手で余り関わらない様にしている。

 だが、椿姫のクラスの担任んでもあるので、何か知っている可能性もある。

 

「こんな時間に何をしている? もう下校時間は過ぎてるぞ!」

 

 その大きな声に思わず萎縮してしまいそうになるが、ぐっと堪えて先生に妹の行方を聞いてみる。

 

「あ、あの、俺の妹が帰って来ないんです! 何か知りませんか?」

「妹ぉ? お前の名前は何だったか?」

「塚原一刀です! 妹は椿姫です!」

「塚原……だと? その妹となると……そうか、お前はあいつの兄か」

 

 先生は何か笑いを堪える様な顔をする。何が可笑しいのか、こっちは妹が帰って来なくて焦っていると言うのに。

 

「残念ながら知らんなぁ。あんな先生を先生とも思わない様な生徒など、俺は知らんぞ」

 

 ニヤニヤした顔でそんな事を言う先生に、俺は直ぐに確信した。この先生……いや、この男は椿姫の行方を知っている。知っていて知らない振りをし、しかもそれを楽しんでいるのだ。

 これ以上この男に何を聞いても答えてくれないだろう。そう思った俺は踵を返し、職員室の出口へと向かう。

 

「妹も妹なら兄も兄だな。礼儀を知らんのか。まあいい、諦めてさっさと帰るんだな!」

 

 男の声を無視し職員室を出て、校舎内を探し回る。だが、何処の教室や部屋も鍵が掛けられており、誰かが居る気配も無い。

 校舎には居ないと判断した俺は、別棟や体育館を確認するも、どちらも鍵が掛かっていて入る事すら出来なかった。

 何処に居るんだと思いながら、学校内を見て回っていると、今は使われていない体育倉庫の存在を思い出す。

 まさか、と思いながらそこへ向かうと、体育倉庫のスライド式の扉には開かないようにつっかえ棒がされていた。これでは外から開ける事は出来ても、つっかえ棒を取る事が出来ない内側からでは開ける事は出来ないだろう。

 近付くと、中から女の子の啜り泣く声が聞こえてきた。ここで間違いないと思った俺は、つっかえ棒を外し、錆び付いて重い扉をどうにか開ける。

 そして、そこに居たのはカビだらけのマットの上で、涙を流しながら此方を呆然と見ている椿姫だった。

 

「お、兄……ちゃん……?」

「椿姫っ!」

 

 俺は椿姫に駆け寄り、その華奢な身体を抱き締める。膝を付いたマットは湿った感触がしたが今は気にしない。

 

「ひっく、お兄ちゃん……わたし、わたしぃ……」

「ごめんな、遅くなって。もう大丈夫だから」

「う、う、う、うわぁぁぁぁんっ!! お兄ちゃーんっ!! 怖かったよぉ……このまま誰も、ぐすっ、来てくれないじゃないかって……うぅぅ、このまま、ひっく、死んじゃうじゃないかって……そしたら、お兄ちゃんが……うわぁぁぁんっ!!」

 

 俺は泣きじゃくる椿姫をあやしながら、周りを確認する。使われていない体育倉庫には椿姫が座っているマット以外には、壊れた傘があるだけだ。というか、あの傘は椿姫の傘だった。

 ……成る程、恐らく椿姫の傘をここに壊して置き、椿姫をここに誘き寄せ、閉じ込めたのだろう。

 暫く椿姫の背中を撫でていると、落ち着いたのか俺の胸から顔を上げる。

 

「お兄ちゃん……助けてくれてありがとう……」

「俺はお前のお兄ちゃんだからな。兄が妹を助けるのは当たり前だ」

「うん……ねぇ、お兄ちゃん……」

「ん?」

「お兄ちゃん、だーいすき!!」

「っ!」

 

 そう言って涙の伝うままの顔に笑みを浮かべた椿姫は、今まで見た中でも一番可愛らしかった。この瞬間に俺はシスコンになったのだろう。そして、恐らくは妹も――

 

 ◆◆◆◆◆

 

 その後、あの職員室で会った先生が、椿姫の事を気に食わない生徒を唆し、あの体育倉庫に閉じ込めたと判明した。

 動機は授業中に椿姫に何度も間違いを指摘され、頭に来て犯行に及んだそうだ。そして、体育倉庫に椿姫を閉じ込めた生徒は、椿姫の頭の良さと可愛さに好きになった男の子を、その男の子を好きだった女の子が嫉妬し、その事を知った先生に唆されたとの事だ。

 女の子は親と一緒に泣きながら謝りに来た。かなり厳しく怒られたらしく、もう絶対にしないと言っていた。そして、その女の子と椿姫は友達になった。それは椿姫があの時、死んでしまうまで続いたそうだ。

 そして、あの先生は勿論首になり、教唆罪及び監禁罪として逮捕された。まあ、当然の事だ。俺の妹を辛い目に合わせたのだからな。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 それから妹は何をするにしても、俺にべったりと引っ付いて回る様になった。今までお風呂は叔母さんと入っていたが、俺と一緒に入るようになり、寝るときも俺と一緒、学校が休みの日は常に俺の側に居た。

 そして、極めつけは――

 

「お兄ちゃん。私ね、お兄ちゃんのお嫁さんになるね!」

 

 と言ったのだった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

「あれからだったな。椿姫が俺のお嫁さんになるって言い出したのは」

「うん。あの時からお兄ちゃんの事、そうとしか見れなくなったもん……だから、私をお嫁さんにしてもらうまで頑張るからね」

「まあ、お手柔らかにな……それにしてもあの時の椿姫……お漏らししてたよな。マットが濡れてたし」

「な、何の事かなぁ? 私分からないよ……」

 

 そう言いながら椿姫は俺から目線を逸らす。まあ、あの状況じゃ漏らしてもしょうがないだろうから、これ以上は突っ込むまい。

 

「お兄ちゃん……これからも私の事を守ってくれる? 

「勿論だ。兄は妹を守る為に居るんだからな。ただ、俺一人じゃどうにもならない時もある。その時は頼んだぞ」

「うん! その時に限らず、私もお兄ちゃんを守るよ!」

 

 そう言った椿姫の笑顔は、あの時見た笑顔の様に可愛らしかった。

申し訳ありません、本編の更新はもう少し掛かりそうです。

取り敢えず閑話を投下しました。

内容は読んでいただいた通り、椿姫が一刀を好きになった切っ掛けの話です。

今後、他の女性キャラの一刀との本編には書いていない出会いや助けた場面を、閑話にて入れるかも知れません。

本編更新中には入れませんが、こういった間章で入れていく予定です。

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