第二十話 訓練
──矢美視点──
皆でおにーさんが生きている事を喜びあった後、落ち着いたわたし達はこれから住む部屋へと案内された。人数が人数だったので、唯一の男性であるお兄ちゃん以外は相部屋になった。お兄ちゃんを含め127人もいる。流石にこれ程の人数に個室を与えるのは確かに無理だろう。
一部屋六人という割り当てだったが、部屋自体は広く手狭な感じはしない。会員同士でそれなりに交流もあったのと、特に仲が良い者同士が一緒の部屋になったので部屋割りにはそれほど時間は掛からなかった。
因みにわたしと同じ部屋になったのは、幼稚園児で副会長の双葉ちゃん、おにーさんと同じ学校の八重さん、わたしと同じ中学校で友達の九十美、それと一人だけファンクラブ会員じゃない12才の杏樹ちゃんと、その姉で15才の二十三さんの六人だ。
双葉ちゃんは副会長と役職持ちなので交流が多く、わたしとは結構仲が良い。八重さんはおにーさんの学校に行った時に、実際に会ってから仲良くなった。九十美とはおにーさんに助けて貰う前からずっと友達だ。
その三人は自然とわたしと同じ部屋になったが、杏樹ちゃんは会員じゃ無いので勿論知り合いは居なく、二十三さんは会員同士の交流はしていなかったらしく、同じく知り合いは居ないとの事で、わたし達と同じ部屋に割り当てた。
部屋割り後、わたし達は食堂に集まり、食事と共に自己紹介に情報交換を行った。
確認したところ、やっぱり杏樹ちゃん以外は全員がおにーさんのファンクラブ会員だった。この事から兄妹神の加護を持つ兄妹というのが、おにーさんと椿姫ちゃんの可能性は高い。ほぼ全員がおにーさんの関係者なのが、その証拠と言える。それとは別に気になる事がある。それは杏樹ちゃんの事だ。
「杏樹ちゃんは会員じゃ無いよね? 状況的に会員の子だけが喚ばれたと思うんだけど、何でかは分かる?」
「私は気落ちしているお姉ちゃんの側にいたので、巻き込まれたんだと思います」
年齢の割には落ち着いた雰囲気を持つ杏樹ちゃん。まあ、椿姫ちゃんや双葉ちゃんという例外を知っているので不思議とは思わない。
それよりも杏樹ちゃん姉妹以外は一人で部屋に閉じ籠っていたので、やっぱり巻き込まれたのは杏樹ちゃんだけだと確認できた。わたしとお兄ちゃんの場合は勇者として二人共喚ばれているので、巻き込まれた訳じゃない。
そして、これからどうするかを話し合った。と言ってもおにーさんを探すという目的は決まっているので、どう動くかという話だ。
食堂にはパナキアさんも居り、この世界についての話をしてくれた。その話の中で瘴魔という存在や、街の外での危険性を聞かされ、戦える力が必要なのを知った。
「という事は、少なくとも自衛出来る力をつけなければ駄目だって事だね」
お兄ちゃんの言葉にパナキアさんが頷く。
「はい、あなた方が居た世界がどの様なものであったかは分かりませんが、この世界では戦える力、若しくは護衛を雇うなりしなければ街の外を出歩く事は不可能です」
「じゃあ、みんなでくんれんだねっ! お兄ちゃんと会うためなら双葉はがんばれるよ!」
双葉ちゃんの言う通りだ。おにーさんに会うためなら戦う事をわたしは躊躇わない。
幸い、わたしは弓が得意だから、それを伸ばして行ければ良い。
わたし達が戦える様に訓練をしている間、パナキアさんは友好国には塚原という兄妹が居ないかと、兄妹神の加護を持つ者が居ないかの使者を送ると言った。友好国にしか聞かないのは、兄妹神を信仰していない国では、兄妹神の加護を持っている者は排除される可能性が高いかららしい。
そして大陸全土に勇者を召喚したという事も告げるのだとか。この事は条約で決まっており、告げないと国際問題にまで発展するらしい。
理由は邪神を倒せる程の戦力を保有するからだと言っていた。
方針は決まったが、訓練は明日以降からとなった。おにーさんが亡くなった事で泣きはらし、寝不足の者も多いからだ。流石にそんな状態で訓練を行うのは危険と、体力が戻った者から明日から順次行うとの事だ。
話し合いも終わり、解散というところでパナキアさんから嬉しい事を告げられた。
なんと、この神殿にはお風呂が存在するらしい。巫女として身を清めるのは当然の事として、お風呂が完備されているとの事だ。
勿論、二つ返事で入る事を告げた。お兄ちゃんだけは苦笑していたが、わたしを含めた全員が喜んでいた。こんな世界ではお風呂なんて無いと思い込んでいたから尚更だ。
お風呂は複数の巫女さんが一度に入れるように、かなりの大きさだった。
流石に一度に100人以上は無理だけど、30~40人位は入れそうな位だ。因みに男性は少ないので、10人位が入れる大きさらしい。
設備も日本の様に整っており、蛇口からお湯が出せシャワーもあった。そして、石鹸も髪の毛用と身体用に別れていたのにも驚いた。
聞くと、昔に召喚された勇者達や異世界人達が広めた物らしい。
お風呂に入った後は、精神的に疲れていたのだろう。直ぐに眠ってしまった。
◆◆◆◆◆
そして次の日、一人一人体調を確認され、問題無い子だけが訓練に参加する事になった。数としては60人位だ。他の子達は体調が万全では無いため、休むように言い渡されていた。一日でもおにーさんに会うために、早く戦える様になりたいのだろう。その表情は残念そうだった。反対に体調が問題無いと言われた子の表情は生き生きとしていた。わたしの部屋からの参加者はわたしと双葉ちゃんだけだ。三人は体調が万全では無く、杏樹ちゃんはお姉さんと一緒に訓練を始めると言ったのでここには居ない。
まずは基本的に体力が無いと話にならないとの事で、走り込みを行った。
この時感じたのは、地球でもこの世界でもやることは変わらないんだなという事だ。
走り込みを終えると、それぞれが何が得意かの確認だった。基本的には技能を基準に武器や戦い方を決めるらしい。
お兄ちゃんは勿論剣で、わたしは弓だ。双葉ちゃんはやはりと言うべきか魔法の技能を持っていた。そして、それぞれに適した武器を渡され、武器によって教官も違う。
わたしには勿論、弓の教官だ。ただ、わたしの場合は弓道の形式を崩し、戦いに向いたやり方に変える必要がある。弓道の様に一射するのに時間を掛けていては、殺されてしまう。
慣れない弓に始めは苦戦するが、直ぐに慣れた。初日は動かない状態で的に当てるのが精一杯だったが、数日後には動きながらでも的に当てれる様になった。今では自分が動きながら、動く的を相手に弓を射っている。
その頃には全員が訓練を受けれる様になっていた。
そして、訓練を行っている中でも突出しているのが、まずはお兄ちゃん、そしてわたしだ。勇者という称号は伊達では無く、教えられれば直ぐに吸収出来てしまう。
次は双葉ちゃんだ。その頭の良さを生かし、既に様々な魔法を覚えている。ただ、精神力が足りずに使えない魔法もあるようだけれど。
驚いたのが、巻き込まれて喚ばれた杏樹ちゃんだ。彼女は巫女でも無いので、本来なら訓練を行う必要はない。だけど、お姉さんを支える為に一緒に訓練を行うと言った。そんな彼女が得意なのは神聖魔法だ。彼女はまるで既に知っていたかの様に、魔法を覚えている。その速度は双葉ちゃん並みだ。パナキアさんもその事に非常に驚いていた。
◆◆◆◆◆
訓練が始まって半月、遂に実戦を行う事になった。とはいっても、場所はこの都市から程近い森だ。そこには弱い瘴魔や動物しか居ないので、初心者の良い訓練場所となっているらしい。ただ、全員で行くのは多すぎるので、行くのは半分、更には班ごとに別れての行動になる。
わたし達の班はお兄ちゃんとわたしの部屋の子全員。友達の九十美は大きな盾で皆を守る役、杏樹ちゃんのお姉さんの二十三さんは短剣での素早い攻撃を行える撹乱役、双葉ちゃんはなんと八属性全てが使える魔法使い。八重さんは籠手を武器に戦う格闘家だ。それにわたし達兄妹と神聖魔法使いの杏樹ちゃんを加えた七人になる。
教官の話ではわたし達の班は前衛、中衛、後衛が揃った安定した班だと言っていた。
わたし達を担当している教官の人は神殿騎士のロレーヌさん、25才の女性だ。
八ある騎士団の一つ、三女騎士団の副長につい最近任命されたらしい。
因みに兄妹神教国の騎士団は長兄騎士団と、長女騎士団から七女騎士団の計八騎士団になる。長兄騎士団は男だけ、他七つは全員が女性で構成されている。
長女騎士団だからと言って、全員が長女という訳では無い。ただ女性の人口を占める割合がかなり多いので、こうなっただけらしい。
「瘴魔とは言え、生き物を殺すのはいい気分がしないね……双葉ちゃんは平気?」
「うん、余りいい気分じゃないけど……でもお兄ちゃんに会うためだから大丈夫!」
「そうだよね、一刀さんに会うためだからね」
「お姉ちゃん、大丈夫? 気分悪そうだけど……」
目の前にはたった今殺したの姿をした瘴魔が倒れている。その姿を見て皆、女性だけあって大なり小なり気分が悪くなり、どうしても吐き気がもよおしてしまう。
「こればかりは慣れるしか無いわ。それに気分が悪くなるのはまだ早いわよ。これから瘴石を取るために解体しなきゃいけないしね」
「か、解体?」
「うう……私に出来るかな……」
「解体した後は死体の処理もあるわよ」
「……」
吐き気を抑えながら、どうにか解体を行う私達だった。
その後、吐き気がもよおさなくなるまで、解体をさせられたのは言うまでもなかった。
そんな日々を送る中、私達はとある依頼を受ける事になる。
それにより、この国の状況が変わる事になるが、今の私達には知るよしもなかった。
第四章 異世界で孤児院経営 完




