第十四話 発見
「本当か?」
俺は思わず、そう聞き返す。
『もちろんだよ。私は四大元素の一つ、風の精霊アエラス。この程度の広さから人を探すくらい何て事無いわよ』
四大元素というのが良く分からないが、精霊という存在がそこまで自信ありげに言ってくるのだ、きっと本当に簡単な事なのだろう。
『それで、その拐われたと思われる子供達を探せば良いのね?』
「そうだよ。でも探査系の魔法は使えない状態だけど?」
『風の精霊にとって、人探しなんて魔法を使うまでも無いの。ただ、風の流れを感じるだけ……そうすれば、様々な声が風に乗って聞こえてくる。そして、その声の主の場所もはっきりと分かる。流石に世界中は無理だけど、この規模の街なら充分に全てを把握出来るわ』
アエラスはそう言って目を閉じた。するとアエラスの周りに微量の風が発生したのを感じ取れた。そして、数秒でその目は開けられた。
『見つけたわ。貴族街の建物に10人以上。そのどれもが怯えた声をあげてるわ。……それともう一ヶ所、平民街の建物にも数人……でもどの声も平然としてるわ。不自然な位にね』
「そうか……貴族街なのは間違ってなかったな。平民街の方はちょっと気になるが、貴族街の方は間違いなく拐われた子供達だろう。とりあえずはそっちに向かうとしよう」
『それじゃ、ついてきて。あ、私の姿は契約者とその身内にしか見えない様にしてるから大丈夫よ』
アエラスの言葉に俺達は早速行動を開始する。ここに集まった時点で既に準備は整えてあるので、これから向かうのには何の問題も無い。
「それじゃサマーリとセリーヌ、ここは任せた」
「はい、兄上様。留守は任せて下さい」
「妾がおるのじゃ何の問題も無い。こちらは気にせず、救出に専念するのじゃ」
二人の言葉に俺達は頷きで返し、孤児院を出発した。
◆◆◆◆◆
アエラスの後をついて約30分、俺達は貴族街のある屋敷の前へと辿り着いた。
屋敷の外観は他の周りにある屋敷と比べても、それほど差異はない。学校等にある50メートルプールが入りそうな庭と、華美では無いがそれなりに贅を凝らした屋敷がその敷地内にはあった。そして他の屋敷同様に人がいる気配は感じられない。
「人の住んでいる感じは全くしませんが、本当にここなのでしょうか?」
『うん、間違い無いわ。正確にはこの建物の上階部分じゃ無くて、その地下から子供達の声が聞こえるわ』
「地下室か、貴族の屋敷ではそれは普通なのか?」
「はい、非常時に隠れる部屋や食料庫等は、どの貴族の屋敷にも普通に造られております。非常時に隠れる部屋は巧妙に入り口を隠しているので、見付けるのは大変でしょう」
非常時の部屋が簡単に見付かっては意味がないだろうからな。見付けにくいのはしょうがない。
「屋敷のどこに地下室の入り口があるか分かる?」
『問題無いわ。風の流れでどこに扉があるかは直ぐに分かるから』
「よし、それじゃ行くか」
「あ、まってお兄ちゃん【認識阻害】の魔法を掛けるね」
「っと、そうだな、頼む」
椿姫に全員へと【認識阻害】の魔法を掛けて貰い、気を取り直して屋敷の中へと侵入する。勿論、鍵が掛かっていたが【空間魔法】の一つ、【短距離転移】で、鍵の部分だけを転移させる事で、問題無く中に入る事が出来た。
それにしても【空間魔法】は便利過ぎる。仲間に一人でも使い手がいれば、鍵などあっても無いような物だ。ただ便利過ぎるが故に、消費する精神力はかなりの量ではあるらしいが。その証拠に椿姫の表情には若干疲れが見える。
「椿姫、無理するなよ?」
「うん、でもこのくらいなら大丈夫だから」
足取りはしっかりとしているので大丈夫だろうが、フランツと戦った時の様に倒れる程、魔法を使用しないように気を付ける必要はあるだろう。
屋敷の中は外で感じた通り、誰の気配も感じられない。だが精霊にとっては気配は関係無いのか、迷い無く屋敷内を進んでいく。
屋敷の中は家具や小物類が置いたままになっており、掃除を行えば直ぐにでも住めそうな状態だった。だが、何か違和感を感じる。それが何かは分からないが。
「……人がいるのは間違い無いね」
「え、椿姫ちゃん何で分かるの?」
「それは家具には埃が被っているのに、私達が歩いている床には余り埃が落ちてないからね」
「え……あ、ほんとだ!」
確かに家具の埃と床の埃には明らかに違いがあった。家具にはそれなりに埃が被っているが、床には多少しか埃が落ちていない。
「きっと、落ちている埃で足跡が出来ない様に、少しだけ掃除をしてるんだろうね」
完全に掃除をしてしまうと、綺麗すぎて不自然だ。それで足跡が残らない程度に埃を残しているのだろう。だが、家具に被っている埃との差違には気付かなかったようだ。
「良く気付かれましたね……わたくしには分かりませんでした」
「すごいのー……」
「ボクも気付かなかったよー」
どうやら、椿姫以外は誰も気付かなかった様だ。
そんな話をしている間にも、アエラスは先へと進んでいく。そして、書斎だと思われる部屋へと辿り着いた。
部屋に備え付けられている本棚には様々な本が収められており、題名を一見してもその内容は想像出来そうにも無かった。椿姫だけは興味深そうに眺めていたが、今はそれが本題ではないと思い出したのか、アエラスが浮いている辺りへとやって来た。
『この辺りから風の流れを感じるわね』
そう言って、アエラスが指し示したのはこの部屋の奥に置かれた机だった。その机は社長が使っている様な木製で大きく立派な物ではあったが、それ以外に変わった所は見受けられない。
「この辺りに地下室への入り口があるのか?」
『それは間違い無いわよ。でも私もどうやって開けるかまでは分からないわ』
机の周りの床を触って確かめて見るが、何処かが開きそうな感じはしない。椿姫も机を調べているが、まだ開ける方法は見つからない様だ。
「あれ? 一ヶ所だけ引き出しが開かないね」
「あ、もしかしたら……」
そう言って机へと向かうコロナ。椿姫に場所を譲って貰い、机の引き出しがある方でしゃがみ込んだ。そして、その開かない引き出しの突き出た取っ手を掴み──それをおもむろに捻った。
すると机の椅子が入る空間の床の板が持ち上がり、人一人が入れそうな入り口が現れる。
「これは……」
「こんな仕掛けがあったんだね」
「コロナ様、良く分かったね!」
「昔、叔父様に教えて頂いていたのです。こういった仕掛けがある机があると。ですから、この机ももしかしたら、と」
王族や貴族ともなれば、命を狙われる危険性が出て来るのだろう。そうなると隠し通路や隠し部屋の必要性は俄然高まる。
それはともかく、今はこの先を確かめる必要がある。まずは危険が無いか覗いて確認を行う。明かりが無いので見辛いが、少し時間を置くと目が慣れてきて少しなら見える様になってきた。だが、それでも穴の直ぐ下には小さいが階段があるのは見えるが、床までは見ることが出来ない。
「暗すぎて見えない……階段があることしか分からないな」
「一刀にぃ代わって? 獣人族は暗いところは人間族よりも見えるから」
「そうなのか、分かった代わろう」
俺は場所を芽衣と入れ代わる。芽衣は机の下でしゃがみ込み、穴の中を覗き込んだ。
と、その拍子に芽衣のスカートが捲れ上がり、白い下着に尾てい骨辺りから生えている尻尾が顕になる。尻尾の付け根はこうなっているのか、ってじっと見ている場合じゃない。
「芽衣、下着が見えてるぞ」
「ん? 一刀にぃになら見られても良いから問題ないよ」
振り返りもされずに、そう返されてしまった。他の妹達の様子も伺ってみるが、誰も慌てた様子も無く、 芽衣の方に視線を向けている。
そんな俺の様子に気付いたのか、俺が心の中で思っていた疑問の答えを椿姫が告げた。
「芽衣ちゃんの言うとおり、お兄ちゃんに下着を見られるのは何の抵抗もないよ。勿論、裸もね。お兄ちゃん以外の異性には絶対に見せたくないけど」
ヒルティやコロナにも視線をやるが、二人とも椿姫の言葉に無言で頷いた。
最近、やけに思うがやはり俺がおかしいのだろうか……。確かに裸で汗を拭きあったりしているので今更だし、椿姫とは何度も風呂に一緒に入ってはいるが……。
「問題ないよ。階段下には危険な物は無いようだよ」
そんな事を考えていると芽衣が振り返って、そう報告してきた。因みにまだ下着は丸見えだ。俺はもう何も言わずに、芽衣のスカートを下げて下着を隠す。
そして、芽衣とまた場所を代わり、後ろ向きで階段を降りていく。後ろ向きで降りたのは、机の下に入り口があるのと入り口自体が狭いので、この向きでしか降りる事が出来ないからだ。
急な階段を壁に手を添えながら降りていく。一段一段の広さが余りないので、踏み外す危険性がかなり高い。俺は踏み外さない様にゆっくりと階段を降りていった。
十数段程降りたところで階段が終わり、床へと辿り着いた。感触からして土ではない、恐らくは木の板が床だろう。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ああ、誰の気配も感じない。だが階段はかなり急だ。一人ずつゆっくりと降りてきた方が良い」
「うん、分かった」
始めに降りてきたのは芽衣だ。暗闇でも目が利くので、奥から誰も来ないか警戒するには最適だ。次にヒルティ、椿姫、最後に外から誰も来ないかの警戒をしていたコロナが降りてくる。
その後、中から閉めれる仕掛けが無いか調べて見たが、どうにも見付からなかったので、諦めて奥に進む事にした。
「芽衣、分かるか?」
「うん、分かるよ。ボクに付いてきて」
芽衣を先頭に、俺、椿姫、ヒルティ(アエラス)、コロナの順で奥へと進んでいく。
芽衣の先導で一つ目の直角の曲がり角を左に曲がったところで、暗闇に変化が訪れる。
「あれは……明かりか」
「うん、部屋から明かりが漏れてるね」
通路の先、行き止まりと思われる場所で、縦の長方形の枠にあたる部分から明かりが漏れているのが見える。
行き止まりと思われる場所には扉があるのだろう。
俺達は足音をたてない様に扉に近づき、扉に耳を近づけ物音を探る。すると扉越しに誰かが泣いている声が聞こえてくる。それも複数だ。
他には何も聞こえないが、犯人がいないと決まった訳じゃない。
「準備を」
俺は短くそう告げ、刀の柄に手を添える。妹達もそれぞれの武器を手に持ち、何時でも対応出来る様に身構えた。
押戸である扉を俺が押す。そして、俺達の前に現れた光景は──
鎖に繋がれた子供達の姿だった……。




