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異世界転移で兄妹チート  作者: ロムにぃ
第一部 第四章 異世界で孤児院経営
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第十一話 疑惑


 その夜、俺は妹達に子供達が行方不明になった孤児院の院長ロバートに聞いた事を話した。

 セリーヌは独自で動いているのか、孤児院には居ないようだ。

 

「何かその院長様に恨みでもあるのでしょうか?」

「確かに、その孤児院のみを狙っているように見えるけど……そう思わせてる可能性もあるよ」

 

 コロナの考えに椿姫は反論する。

 

「そう思わせて油断させ、別の孤児院の子供達を狙ってると?」

「考えすぎじゃ無いかな?」

「いや、椿姫の言う通りかもな、可能性として考えた方が良いだろう」

 

 俺もその孤児院を狙ったものかと思っていたが、椿姫に言われその可能性もある事に気が付いた。

 

「ただ、出掛けていた子供達を狙うならまだしも、高孤児院で留守番している子供達を拐うのは目撃される可能性が高いのに、それでも拐ったのが気になるけど……」

「自分達から外に出た所を拐われた可能性もあるな」

「家出したという可能性はどうでしょう?」

「良くなって来たとはいえ、治安はまだ悪いよ。そんな事をする可能性は低いかな。子供達だけで生きていくのは難しいと思う」

「……どちらにしても、注意するに越したことは無いですね」

「皆はヒルティが守るの!」

「そうだな、戦える力があるのは俺達だけだ。子供達に訓練をしているとはいえ、まだ始めたばかりだからな、子供達に自衛はまだ無理だろう」

「そうですね。暫くは外出の際はわたくし達の誰かがついていく必要があるでしょう」

「なら特訓は延期した方が良くない? あの『仮想空間』って外から連絡は取れないんだよね」

 

 芽衣の提案は最もだ。中にいる間に外で何かあれば対応が遅れてしまう。

 戦闘能力の向上は必要ではあるが、目先の子供達の安全には変えられない。今後も子供達の安全を万全にするには、このまま座して待つよりは、こちらから動いた方が良いかもしれない。

 

「そうだな、セリーヌにはそう言っておこう。それでこれからの対応だが、子供達が外出する際は、サマーリを除いた俺達の内二人が護衛に付く。それが出来ない場合は外出は延期させる。残りが孤児院の守りや、原因の究明を担当する型でどうだ?」

「後、もし拐われた時の事を考えて、子供達の私物を把握してた方が良いよ。その子の私物があれば魔法で探せるからね」

 

 椿姫が言っているのはコロナが拐われた時に使った【喪失探知】の魔法だ。あの時はコロナの剣が落ちていたので、コロナを探し出す事が出来た。あの魔法があれば、もしもの時は対応出来る。

 

「じゃあ、決まったな。そういう型で動いて行こう。とりあえず明日はエドワードの所に情報が無いか聞いてくる」

「お兄ちゃん、私も一緒に行くよ。出来れば直接話を聞きたいから」

「分かった。それじゃ俺と椿姫がエドワードの元に情報収集、残りが孤児院の守りを任せた」

 

 椿姫の申し出に俺は許可を出し、今日の話し合いを終えた。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 翌日、俺は椿姫と共にエドワードの元を訪れた。子供達が行方不明になった件について聞く為だ。城門にいた兵士は城に滞在していた時に顔見知りだったので、問題なく通してくれた。

 俺は警備隊が管理する部屋の内の一つに通され、そこでエドワードを待つ事になった。そして、少しするとエドワードが現れる。

 

「よう、わざわざ城に来るたぁ、何の用だ? もしかして何かあったのか?」

「いや、何かあった訳じゃない。ただこれから無いとは言い切れないからな。それで話を聞きに来たんだ」

「……もしかして、子供が消えた件か?」

「っ! 良く分かったな……」

「まあな、俺自身はアギオセリス王国の大使だから動けないがな。だが、話だけは聞いている。目撃者が全くいねぇから取っ掛かりがねぇ状態らしいな」

「全く無いの? 孤児院から子供達が居なくなったのは昼間なのに?」

 

 ルドルフの圧政による影響で未だに人通りが少ないとはいえ、全く目撃者が居ないのは普通ではない。しかも孤児院があるのは比較的に大きい通り沿いだ。

 

「そうらしい……院長が外出した際に残っていたのは三人だ。その人数を連れ去るには昼間じゃ目立ち過ぎる。だが、目撃者はいねぇ……警備隊の者が痕跡が無いか調べたが何も出なかった。始めに行方不明になった子供も、孤児院を出た後の足取りは掴めなかったらしいぞ」

「探査の魔法とか魔導具では探せなかったのか?」

「魔導具は貴重過ぎて一般人には入手不可能だ。持ってるのは王族くれぇだろう。しかもありゃあ事前に登録が必要だしな。魔法に関しては使い手がいねぇ。使えるのは俺が知ってる限りじゃ、椿姫の嬢ちゃんくれえだぞ?」

 

 そう言えば空間魔法は歴史上使い手が殆ど居ないと、エドワードが言っていたのを思い出す。となると──

 

「なら椿姫の魔法なら探査出来るな」

「何だが……一つ問題があってな」

 

 エドワードにはコロナを探し出した魔法がどういったものかは伝えてある。なのに問題があるというのはどういう事だ?

 

「もしかして、居なくなった子供達の私物が無いの?」

「ああ……ねぇんだよ、一個も……服すら残ってねぇ」

 

 それは幾ら何でも不自然過ぎる。孤児とはいえ私物が一個も無いなんてあり得ない。

 

「……その孤児院の院長さんが犯人っていう可能性も出てきたね」

「いや、まさか……あり、得るのか……?」

 

 院長の様子からして、本気で哀しんでいる様に見えた。だが、可能性としてはあり得なくは無い。

 

「私物が無い事に院長は何か言ってた?」

「買い与える余裕が無く服は着ている物だけで、私物も持っていなかったと言われたらしい……。近くの住人に確認したが、同じ服を着ていたと言うのは間違い無いそうだ」

「元から持っていない……か、となると嘘はついていないのか……」

「元から持っていない、は証明のしようがないからね……とりあえず、容疑者の一人には上げといた方が良いかもね」

「エドワード、怪しい者と思えるは居ないのか?」

「まだ調査を始めたばかりだからな、怪しい人物はまだ上がってきてねぇ。これ以上の情報は無いと思っていいだろう。それに現状あまり人間を割けねぇらしい。このままじゃ調査は長引くだろうな」

 

 現状、ここはまだトゥレラ王国であり、元トゥレラ王国所属とはいえ、今はアギオセリス王国の大使であるエドワードは自由には動けない。

 警備隊は復興や治安維持が優先で、調査には最低限の人間しか充てられていない。

 やはり、解決を待つよりも自身で動いた方が良いかもしれない。

 

「エドワード、俺は独自で動こうと思う」

「本気か? 自分とこの子供が拐われた訳じゃねぇんだろう?」

「このままほっとけば何時か拐われる可能性はある。早く子供達が安心して暮らせる様にしたいからな」

「そうか……無理はするんじゃねえぞ。ただまあ、お前の場合は結果的にこの間みてぇに沢山の子供を助け出しそうだな……」

「それがお兄ちゃんだからね。きっとそうなるよ」

「いや、そんな確定事項の様に言われてもな……」


 流石にそんな事が何度もあるとは思えない。どう考えても多くて数人救える位だろう。

 

 ◆◆◆◆◆

 

「さて、どう動くか……」

 

 エドワードと話終えた俺達は、城を出て孤児院に戻る道を歩いている。

 

「難しいね、魔法が無理で目撃者すらも居ないんじゃね」

「そうだな……何か良い方法は無いものか」

「お兄ちゃんが言えば、みんな率先して囮になると思うけどね。まあお兄ちゃんはそんな事言わないだろうけど」

「ああ、それは絶対に嫌だな。それで万が一でも妹達や子供達が傷付くのは許容出来ない」

 

 妹達や孤児院の子供達に害が及ばない様に考えているのに、妹達や子供達を囮にするなどあり得ない。それならば、現状のままの方がましだ。

 

「あ、お兄ちゃん、向こうに寄って良い?」


 そう言って、椿姫が帰り道とは違う方向を指差す。

 この街の北西部は平民街だが、北東部は商業地区になっている。椿姫が指差しているのはその方向だ。

 

「そっちに何があるんだ?」

「商業地区にも孤児院があるんだよ。そこにも念のために話を聞きに行こうと思ってね」

「……そうだな、それも良いかもしれないな」

 

 椿姫の提案に乗り、俺と椿姫は商業地区へと進路を変更する。

 商業地区と言っても、まだあまり店は開いていない。圧政の影響は未だに根強く、店を再び開く余裕が無いからだ。しかも大手の商人はこの街から手を引き、別の国へと移ってしまっている。その為に、中々店が再開されないのだとか。

 今開いている店も、殆どがこの街を復興させようと奮起した者ばかりだという。

 そのお陰か、人通りも平民街より多い。そんな店を眺めながら、俺達は孤児院へと向かう。

 進路を変更して約15分位歩いたところで、目的の孤児院へと辿り着く。

 俺達の孤児院程大きくは無いが、子供達が行方不明になった孤児院よりは少し大きい。そして、敷地内からは子供達の声が複数聞こえてくる。

 どの声も楽しげに遊んでいるのが、良くわかる声だ。

 俺達が敷地内に入ると、一番近くにいた女の子が俺達に近寄ってくる。

 

「お兄ちゃん達、だれー?」

 

 8才くらいだと思われる女の子は、首を傾げてそう聞いてきた。こんな時にも係わらず、警戒心が薄いと感じてしまう。まあ、このくらいの年齢の子供であれば仕方がないかもしれない。

 

「ここの院長さんはいる? お話が聞きたいんだけど」

「いんちょー先生はいないけど、いんちょー先生のおくさんはいるよ?」

「呼んできてくれるかな?」

「うん、いーよー」

 

 椿姫の要望に笑顔で答え、奥へと走り去って行った。

 そして少しすると、奥から先程の子供と30代前半位の女性が現れた。

 

「どちら様かしら? わたしに用があるって聞いたけど……」

「俺は海沿いの孤児院で新しく院長になった一刀と言います」

「私は妹の椿姫です」

「えっ、あの孤児院の新しい院長さん? その若さで院長なんて珍しいわね……」

 

 俺の歳で院長はやはり珍しいのか、女性は驚いた表情をしている。俺も孤児院は年配の人が経営している印象があるので、相手が驚いた事を普通に受け止める。

 

「ああ、ごめんね。それで何の用かしら」

「それは──」

 

 俺と椿姫は、ある孤児院で行方不明になった子供達が居る事を知ってるのかと、ここの孤児院ではそういった事が起こっていないかを聞いた。

 だが特に何も起こっておらず、子供達が行方不明になった件についても知らないと言われた。

 

「そんな事が……分かったわ、子供達だけで外に出さないよう気を付けるわ」

 

 新しい情報は手に入れられ無かったが、注意を促す事は出来た。

 孤児院を後にし、道を歩いていると椿姫がそっと呟いた。

 

「怪しい所は無かったかな……」

「どういう事だ?」

「実はあそこの孤児院は、孤児を暗殺者養成施設に送っていた所なの。芽衣ちゃんからそう聞いたよ」

「何だと? だが、そんな事をしている人には見えなかったが……」

「うん、今の院長夫婦は前院長の息子夫婦らしいの。施設に送っていたのは前院長で、今は牢屋に入れられて刑の執行待ち。その事を知った息子夫婦が親の贖罪を兼ねて、院長に就いたの。人柄は問題ないと聞いてたけど、奥さんと子供の様子からして事実そうだから、犯人では無さそうと思ってね」

 

 成る程、それで自分で確実するためにあそこに立ち寄った訳か。

 

「ただ……」

「何かあるのか?」

「何故、この事件の事を知らないのかなって、他の孤児院に関しての事ではあるけど、別の孤児院の人が知らないのは違和感があるの」

 

 確かにそうだな。この事件を知った者が、知り合いの孤児院の関係者に伝えている可能性は高い。まあ、たまたま耳に入らなかった可能性はあるが……。

 

「とりあえず、まだ情報が足りないから、何とも言えないけどね」

 

 明日は別の孤児院へ行ってみようと、計画しながら自分達の孤児院へと戻った。

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