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異世界転移で兄妹チート  作者: ロムにぃ
第一部 第四章 異世界で孤児院経営
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第十話 不穏


「ふむ、まあこんなものじゃろうな」

 

 俺を含む全員が倒れ伏す中、ただ一人息も乱さずに立っている少女──セリーヌがそう呟いた。

 俺達五人とセリーヌは『仮想空間』に入るなり、早速特訓を始めた。

 『仮想空間』の中は一面見渡す限りの草原、擬似的な日光まである。それ以外には何も無い。話に寄れば色々な地形に設定出来るらしい。

 だが今はそんな事よりも、五人掛かりでもセリーヌの息一つ乱す事すら出来なかった。しかも俺達は怪我一つ負っていない。倒れ伏しているのは全員体力が尽きたからだ。圧倒的な力の差、この世界最強クラスと自負するだけはあり、能力は伊達では無かった。

 

「良く持った方ではあるが、未熟と言わざるを得ないのぅ。一般兵には余裕で勝てるじゃろうが、各国の騎士団長辺りには勝てぬじゃろうなぁ」

 

 全ての国という訳では無いが、各国にはエドワード程の強者がそれぞれに存在するらしい。そしてそれぞれが騎士団等の団長といった重要な役職を務めているのだとか。

 俺達が自分の身を守る為には、そういった者達より強くならなければならない。

 その訳は、アギオセリス王国の様に殆どの国では異世界人を丁重に扱うが、トゥレラ王国の様に極一部の国では非人道的な手段で異世界人を従わせているらしい。

 無論、そんな事が公になれば周辺国から袋叩きにあう。過去にはそれで滅ぼされた国もあると聞かされた。そんな政治事情の中で隠れて異世界人を囲う国や、表向きは異世界人を丁重に扱っているように見せ掛け、裏では……という国もあると聞かされた。

 ただ、確証は無く誰も手が出せないのだとか。その様な事もあり、一部の異世界人と縁のある者が、異世界人とその近しい者がそんな国に捕らわれない様に鍛え上げたり、匿ったりするらしい。

 素質によりどちらかに振り分けられる。そして俺達に関しては鍛え上げる方になったと言うことだ。

 

「各々の力量は分かったのじゃ。明日以降、各々に合った特訓を行うのじゃ。仕事との兼ね合いもあるじゃろうから、一人から三人単位で空いている時間に行うとしようかの」

 

 ◆◆◆◆◆

 

 セリーヌとの模擬戦を終えた俺達は、自室のベッドにて死んだように倒れ込んでいる。あの後『仮想空間』から出た俺達は、震える足に活を入れどうにか自室に戻ってきた。そして、自室に辿り着くなり全員がベッドに倒れ込んだのだ

 全員、汗だくだったが汗を拭う気力も無く力尽き、そのまま眠ってしまった。

 目が覚めれば既に時間は夕刻、昼御飯も食べずに眠ってしまった様だ。

 

「あれが頂きに近い者の力か……」

 

 全く相手にならなかった。有効打を与えるどころか、一歩もその場から動かす事さえ出来なかった。刀を振るえば軌道を逸らされ、魔法を撃てば直前で消され、注意を引き付け背後から攻撃しても腕を掴まれ投げ飛ばされた。それの繰り返しで誰の攻撃も当てる事すら出来ず、しかも俺達も体力や精神力を使いきっただけで怪我一つない。

 

「あんな強さ……手に入れられるのか?」

 

 あそこまで強くはなれないかも知れない。だが、フランツ並の強さは手にいれなければ、トゥレラ王国での様な事がまた起こるかも知れない。

 あの時はアギオセリス王国によって助けられたが、毎回助けがあるとは限らない。

 自分や妹達の身は自分達の手で守らなければならない。それが出来なければ地球での時の様に死ぬだけだ。

 無論、力があるだけじゃ駄目だ。それを振るうに見合った心が無ければ、逆に俺が他人をただ傷つける存在になってしまう。そんな事は妹達も望まないだろう。

 そんな事を考えながら、疲れて眠っている妹達の姿を見る。

 妹達は模擬戦を行ったままの格好で寝ている為、少し寝苦しそうな感じだ。かといって脱がせようとすれば、どうしても起きてしまうだろう。疲れているところを起こしてしまうのは忍びない。

 ベッドから視線を逸らすと、それぞれの武器が床に乱雑に置かれているのが目に入る。

 俺は妹達を起こさないように、妹達の武器を壁に立て掛け、刀を腰に差し部屋から出た。

 食堂へと顔を出すと、そこには二人の人物が居た。一人はメイド服を着たサマーリ、もう一人は俺達に模擬戦を行ったセリーヌだった。

 二人は何かを話していた様だったが、俺が食堂に入って来た事に気付くと会話を中断し、俺の方へと声を掛けてくる。

 

「おお、目が覚めた様じゃな」

「兄上様、大丈夫ですか?」

「ああ、少しだるさはあるが問題ない」

 

 俺は二人に近寄りながら、そう返事をする。

 

「他の者はどうしたのじゃ?」

「まだ寝てるな。起こすのも悪いかと思い、一人で起きて来た」

「兄上様、何か飲みますか?」

「すまん、水を一杯頼めるか?」

「はい、少し待って下さいね」

 

 サマーリは返事をして、厨房へと向かった。それを見ながら俺はセリーヌに声を掛ける。

 

「そう言えば、どの部屋に住むかは決めたのか?」

「うむ、サマーリに案内して貰ったからの、問題は無いのじゃ」

「そうか、何か問題があれば言ってくれ」

「うむ、分かったのじゃ。今の所は……風呂が無い事だけかのぅ。異世界人の住む家じゃから風呂があるのを期待しておったのじゃが……」

「まあ、元からあった建物だからな、俺もその内どうにかしたいとは思ってはいるが、トゥレラ王国じゃ風呂が一般的ではないらしくてな」

「確かにそうじゃのぅ、じゃがアギオセリス王国やエマナスタ帝国等の数国で富裕層が使っておった筈じゃ。一般人は個人で所有してる者は少ないが、公衆浴場なる物があった筈じゃ」

「成る程、アギオセリス王国ならあるのか……」

「兄上様、お待たせしました、お水です。風呂と聞こえましたが風呂とは何です?」

 

 と、そこでサマーリが水の入った容器を持ち戻ってきた。

 

「元貴族のサマーリでも風呂の存在を知らないのか……簡単に言うと風呂とは、人が入れる程の大きな容器にお湯を入れて、それに浸かって汚れを落とす事だな」

「そんなものがあるんですね。この国は身体の汚れは水浴びか布で拭うのが普通ですから……一度は入ってみたいです」

 

 サマーリもそう思うのなら、やはりどうにかして手配したいところだ。エドワードを通じてレオン王子に聞いてみるのが良いかもしれない。

 俺はサマーリから受け取った水を飲みながら、そんな事を考える。

 

「そう言えば、二人で何を話していたんだ?」

「あ、はい、目を覚まされたら兄上様にも言おうと思っていたんですが、近頃他の孤児の子達が行方不明になっていると耳にしまして、その事についてセリーヌさんにも話していたんです」

 

 俺達が『仮想空間』に居る間に、エドワードが連絡を寄越してくれたらしい。

 

「……その話は俺も聞いた事があるな。俺が聞いた時はまだ噂でしか無かったが……」

「それが、とある孤児院で数名の子が姿を消したと、警備隊に陳情があったそうです」

「自ら居なくなった訳じゃ無いんだな?」

「はい、少なくとも居なくなった内の一人は、院長さんを親のように慕っていたそうですから有り得ないと……」

 

 親のように慕っている相手の元から、自ら居なくなるなど確かにあり得ない。となると、事故に遭ったかもしくは……誘拐されたかだ。まあ、それは俺が今考えてもどうにもならない。

 しかし、誘拐となると家の子達が狙われる可能性もある。外出の際は護衛をつける必要があるだろう。

 

「分かった、今まで以上に子供達だけで外出させるのはやめておこう。外出する際は俺やコロナが護衛につく事にする」

「ふむ、それならば特訓が無い時は妾が護衛につくのじゃ」

「良いのか? それにその姿のまま外出しても大丈夫なのか?」

「これから妾もこの孤児院の一員なのじゃ、それくらいは請け負うぞ。それと姿なら心配はいらぬ、角等は消せるので問題ないのじゃ」

「それは消せるのか……まあ、それはともかく助かる。あ、サマーリも外出する際は誰かをつけるんだぞ」

「そう……ですね。わたしの身長だと子供と間違われますから。身を守る術もありませんし……」

「ああ、何かあってからじゃ遅いからな。後、警備の仕事を請け負った時にでも詳細を聞いてみる事にする」

「妾の方でも当たってみようかの。あまりこういった事は得意では無いが……早速行ってくるのじゃ」


 そう言ってセリーヌは食堂を出ていった。

 これからどう動くか考えていると──

 

「兄上様、食事はもう少し掛かりますので休んでいて下さい」

「……いや、少し街を見てくる。さっきの件も気になるからな」

「分かりました。兄上様なら大丈夫でしょうけど、気をつけて下さい」

「ああ、行ってくる」

 

 そう言って俺は孤児院を出た。さて、どこに向かうかだが、あまり遠くに行くと夕食に間に合わなくなる。この孤児院がある平民街の区画に限定するべきだろう。

 この平民街にはもう一件孤児院があり、そこの子供達が行方不明になったと先程聞いた。

 なので俺はその辺りを中心に歩いてみる事にした。

 疎らではあるが人の通行はあり、少しずつではあるが店も開かれ始めている。

 そんな中を辺りを見渡しながら歩いて行く。そして、目当ての建物へと辿り着いた。敷地は俺達が住む孤児院程ではない。日本にあった保育園位の大きさだ。

 そっと覗いて見るが、庭には誰もおらず静まりかえっている。とても子供達が居るとは思えない状態だ。少しの様子を見ていると一人の男が建物から出てきた。

 その40才位の男は、疲れた表情をしており、その顔にははっきりと隈が出ていた。

 子供が行方不明になった事により、眠れていないのだろう。

 俺は少し迷ったが、その男に話し掛けて見る事にした。

 

「ちょっと宜しいですか?」

「っ!? 誰ですかっ!?」

 

 近付いて話し掛けて来た俺に、あからさまに警戒する男。もしかしたら子供達は拐われたかも知れないのだ、警戒するのは当然だろう。

 

「すみません、怪しい者ではないです。俺は海沿いにある孤児院に最近住み始めた院長の一刀と言います」

「海沿いの……ああ、あの院長が亡くなられて閉鎖した孤児院の……最近、再開したと耳にはしましたが貴方が……かなりお若いですね。あ、申し遅れました、私はこの孤児院の院長でロバートと言います」

 

 俺の自己紹介に男は警戒を弛めたのか顔が弛む。少し警戒を弛めるのが早い気もするが、俺は構わずに用件切り出す。

 

「今回来たのは、ここの孤児院の子供達が行方不明だと聞き、詳しく話を聞こうと思いまして、同じ孤児院経営する者として他人事では無いので」

「成る程、そうですか……。ですが私にも全くわからないのです。ある日、孤児の一人が炊き出しを受け取りに行ったのですが、何時も戻ってくる時間にも戻って来ず……その日炊き出しを行っていた方にお聞きしても見掛けて居ないと言われて……その時は私と一部の孤児達と一緒に行ったのですが、今度は孤児院で留守番をしていた孤児達が居なくなってしまいました。しかも目撃者は誰もいませんでした。合わせて四人もの孤児達が居なくなってしまったのです。一体、あの子達はどこに……」

 

 今聞いただけでも、この孤児院の子供達だけを狙っているように感じた。実際のところは分からないが、他の孤児院では居なくなった子供達は居ないと言うので、可能性は高そうだ。だが、油断は禁物だろう。

 俺はロバートに礼を言い、自分の孤児院へと戻った。

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