第五話 援助
──エドワード視点──
「使者殿にエドワード、面を上げてくれ」
「「ははっ」」
レオン王子殿下から許しを頂き、跪く俺とトゥレラ王国の使者殿は顔を上げた。
何時もとは違う言葉遣いのレオン王子殿下が、真剣な表情でこちらを見られている。
今、俺が居るのは、旧トゥレラ王都にある城の謁見の間だ。
俺はトゥレラ王国の使者殿と護衛数名と共に、この旧王都へと戻ってきた。
俺は港湾都市プレンツィアであった事の報告。トゥレラ王国の使者殿はアギオセリス王国との交渉の為だ。
何故アギオセリス王国の王都に居られる陛下では無く、殿下に謁見を行っているかと言うと、トゥレラ王国に関しては陛下より殿下に一任されているからだ。
「使者殿、大まかな事は聞いているが、一度エドワードからの報告を聞いてから、そちらの話を聞きたい。それで宜しいか?」
「はっ、わたくしめにご配慮頂きありがとうございます。わたくしもこちらの話を先にさせて頂くよりも、まずはエドワード殿のご報告をお聞きになった上で判断して頂きた方が良いと思われます」
「すまないな。ではエドワード、プレンツィアでの報告を聞こうか?」
「はっ、それではご報告させて頂きます」
俺はトゥレラ王国に入った時からプレンツィアに着くまでにあった事、プレンツィアで反乱が起き、国王のルドルフを捕らえた事を事細かに殿下に説明する。無論、一刀達の活躍もあり至った事だと嘘偽り無く伝えた。
出世欲が無いわけでは無いが、人の手柄で出世しようとは思わない。ただ、あった事を脚色なく殿下に伝える。
そして、現在のトゥレラ王国内の状況についても説明を行う。沢山の戦争難民や孤児の大量発生、食糧難に関しても嘘偽り無く伝える。
「──以上です」
「……成る程、この旧王都の状況から推測してはいたが、想像以上に酷い状況だな。このままでは大量の餓死者が出る……いや、既に出ているのだったな……」
途中に立ち寄った街での惨状も勿論、殿下に報告した。あれがあの街だけでは無いとしたら、プレンツィア以外のトゥレラ国民はかなりの死者が出ているだろう。
だが、圧倒的に人手も物資も足らない。他国の援助が無ければ、早晩トゥレラ王国の国民は死に絶えてしまう。
元とは言え、トゥレラ国民だった俺としてもそんな結末にはしたくない。
「……では、次に使者殿の話を聞こうか。もし、今のエドワードの報告に虚偽や不足な点があれば、言ってくれても構わない」
「はっ、まずエドワード殿の仰られた報告に間違いはありません。我が国は前王ルドルフにより疲弊という言葉では言い表せない状況に陥っております。そこで貴国にお願いがあり、エドワード殿にこちらに連れて頂きました」
「ふむ、その願いとは?」
「はい、それは我が国へ人手と物資の援助をお願いしたいのです」
「ふむ……援助自体は可能だ。だが我が国も旧トゥレラ領復興の為に出費が多く、それほど余裕がある訳ではない。その様な状況では援助する事により物資が不足し物価の高騰もあり得る。さて、援助する事により我が国が得られる物は何か?」
「……我が国の領土全てを」
「……成る程、事実上の降伏か」
「そう取って頂いて、間違いはありません」
殿下は少し目を閉じ、数秒考える仕草を見せた後、目を開いた。
「……コロナ王女は何と?」
「コロナ王女殿下からも同意を貰っております。国自体をお譲りすると」
「属国化では無く、吸収合併で良いと……? やはりコロナ王女は王位を継ぐ気は無いのか?」
「はい、第一王子の近衛騎士団長であったベルンハルト・ビューロー卿に臨時政府の代表を委譲、トゥレラ王国の国王代理として同卿が着任されています。そして、コロナ王女殿下は冒険者として在野へと、それに……」
使者殿はそこで言い淀む。確かに言いづらい内容ではあるだろうが……。
「……ある人物の妹として生きる、か?」
「え? あ、はい、その通りです……何故それを……」
「コロナ王女の兄となった人物を知っているからだ。トゥレラ国王に虐げられていたところを我が国で保護してな。今は我が国の賓客として迎えておる。その過程で知っているだけだ」
「成る程、その様な経緯が……」
「まあ、それは今は置いておこう。今はトゥレラ王国の今後についてだな。エドワードの報告では現状機能していない様だが、あの規模の港を手に入れられるのは確かに大きい。それに土地自体も肥沃ではあるからな、時間は掛かるかも知れないが元は取れるだろう。それにその地に住む人々を見捨てるのは忍びない」
「では……」
「うむ、差し当たっては救援物資の準備を行おう。その後、復興支援の人員を手配する。領土に関する事は復興が落ち着いたところで、ビューロー卿に我が国の王都に来て頂き、正式な手続きを行おう」
「はっ、援助を優先して頂く配慮ありがとうございます」
使者殿が殿下に深々と頭を下げる。無事に交渉が終わり、俺はほっとする。
殿下なら必ずお受けになるとは思っていたが、その通りになったので、あの孤児達も少なくとも路頭に迷う事は無いだろう。
「さて、後はどれ程の規模の援助が必要かだが、それはエドワードから兵站部隊長に報告を頼む。復興支援の人員に関してはこちらで手配しておく。報告終了後は使者殿の帰国の護衛を引き続き行うように。使者殿はその間、この城に滞在すると良いだろう」
「ははっ、承りました」
「ありがとうございます」
謁見の間から退出した俺は、早速兵站部隊長に必要物資量の報告を行う。食料だけでなく、修理の為の建築資材、生活用品等、様々な物資が必要だったために予想以上に時間が掛かってしまった。
その為にプレンツィアに戻る出発が、謁見を行ってから三日も経っていた。
まあ、その内の一日は休養日ではあるが。
無いよりはまし、という事で少量の物資を持たされ、俺は使者殿と護衛達と共にプレンツィアへと出発した。
◆◇◆◇◆
──一刀視点──
「一刀!」
今日の仕事を終えて椿姫に芽衣と共に孤児院に戻ると、その入り口にて見知った人物がいるのを発見する。あの厳つい顔は見間違える筈もないエドワードだ。
エドワードがトゥレラ旧王都に向かって約10日経ったが、どうやら戻って来ていた様だ。
「エドワードか。無事に戻ってきたんだな」
「エドワードさん、おかえり」
「お、おかえり」
「ああ、無事帰って来たぜ。フランツ並の奴が出てこねぇ限り、やられはしねぇよ」
「まあ、そうだろうな。それでどうなったんだ?」
「そっちも問題ねぇ。近いうちに救援物資と人員がやって来るだろうよ」
エドワードのその言葉に俺は安堵した。これで子供達が路頭に迷う事もないだろう。
「ベルンハルトにその事を伝えた時に、ここにお前達が移り住んだって聞いてな。それにしてもでけぇ孤児院だな……一体何人住めんだ?」
「部屋数的に120人は住めるな。ただ、それだけ居たら養いきれるか自信は無いが」
「だが、今でもそれなりの人数が居るのは間違いねぇだろう。大丈夫なのか?」
「復興が終わるまでは支援の約束も貰ってるからな。暫くは大丈夫だ」
この世界での一般人的な月収は約30万圓、家族四人で多少余裕がある位らしい。そして、孤児院への支援金が月に約1000万圓だ。人数で割ると不足しているが、食料も支援してくれているので、厳しい訳ではない、どころか余裕すらある。まあ、まともに店が営業していないから、お金が使える場所は限られているからだが。
服や下着等、様々な生活用品がかなり不足しているが、店が無いためにどうにもならない。何人かは普通の服を着ているが、子供達のその殆どが貫頭衣といった簡易的な服のみで、下着は穿いていない。
しかも、その事を気にしていない子供が多く、それなりの年齢の女の子もそんな感じなので、目のやり場に困る。妹であれば気にしないが、妹でない女の子が素肌を晒している状態は、流石に少なからず意識してしまう。
何度かそんな子にそれとなく注意はしたが、俺や同性以外には見せていないから大丈夫、もっとよく見てみる? と言われ、逆に服を捲って見せてくる始末だ。俺にわざと見せるのは何故だと思ったが、薮蛇になりそうだったので聞くのはやめた。
まあ、そんな状態なので特に下着の確保は急務だった。
状況的に、下着に気を使っている場合ではない事は理解できるが……このままなのは大変宜しくない。
「どうした? 急に考え込んで」
「あ、いや、何でもない」
いつの間にか、エドワードとの会話中に考え込んでしまった。と、そこでエドワードなら救援物資の中にそういった物があるか知っているかもと思った。
「エドワード、一つ聞きたいんだが……」
「ん、何だ?」
だが、ここでふと思った。女性用の下着があるかどうかなど、凄く聞きづらい事に。
疚しい事はない筈なのに疚しく感じてしまう。だが、聞かない訳にもいかない。女の子達の事だけではなく、妹達も替えの下着を欲しそうにしていたからだ。
妹達の為ならと、俺は覚悟を決める。
「あー……あれだ、救援物資の中に、その、下着は……あるのか?」
「ん? ああ、男用の下着は少量だがある筈だが……何でそんな躊躇いながら言ってんだ?」
「いや、そうじゃなくてだな……俺が聞いてるのは……女性用の、だ」
「あ、あー……そういう事か、そんなに照れなくても良いだろ……。女用の下着なら頼んである。この街に居る人間は、割合的に女の方が数が多いからな。男はそこまで気にしねぇだろうから少量しか手配してねぇが、女はその辺は気にするだろうからな、それなりに数は頼んである」
「そうか……」
「何時も妹達とベタベタしてんのに、何を恥ずかしがってんだ?」
それはそれ、これはこれだ。それよりも……。
「なあエドワード、この世界の女性は男に対する羞恥心はあるのか?」
「はあ? あるに決まってんだろ、羞恥心が無い奴なんざ、恐らく少数しか居ねえぞ」
「まあ、そうだよな……」
「一体、何を悩んでんのか知らねぇが、考え過ぎんなよ」
「ああ……」
エドワードにそう言われた俺は、考える事をやめた。




