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異世界転移で兄妹チート  作者: ロムにぃ
第一部 第四章 異世界で孤児院経営
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第四話 復興


「わぁ、すご~い、草がいっぱいたおれてるよ~」

「ほんとだぁ、すごいねぇ~」

「これを二人で……すげぇなぁ……」

 

 そんな声が孤児院の入り口から聞こえて来た。その声にハッとして振り向くと数人の子供達が庭に姿を現していた。

 中の掃除を終えた一部の子供達が、庭の片付けの為に出てきたのだろう。

 俺は心を落ち着けながら平静を装い、子供達に声を掛ける。

 

「中の掃除は終わったのか?」

「はい、終わったので手伝いに来ました」

 

 そう答えたのは、この班の班長であるククリだ。この班は確か、院長室隣の寝室を任せていた筈だ。あの部屋はベッドとテーブルしか家具が無く、それほど広くも無いので時間が余り掛からなかったのだろう。

 ククリ班の女の子二人と男の子一人が、雑草が刈られた庭を見て目を大きくして驚いている。

 

「ねぇねぇ! お兄ちゃんにお姉ちゃん、これどうやったの!?」

 

 この班で一番年下の8才位の女の子が若干興奮気味に尋ねてくる。

 

「これか? 俺はこの刀で──」

「私は魔法で──」

 

 俺は鞘から刀の刃を覗かせ、椿姫が持っていた杖を掲げる。

 そして、壁際に若干残っていた刈り残しを刈り取った。

 刈り残しだったので大した量では無かったが、子供達は目を輝かせて歓声を挙げていた。

 

「すげーーっ!!」

「えぇ!? まったく動きが見えなかったよ!?」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、すご~い!」

 

 そんな子供達をククリが優しい笑顔で見守っている。そんな光景に胸が暖かくなる。

 妹以外に関しては、ただ妹に何かあった時の練習のつもりで助けてきた。だが、子供達の笑顔を目にした途端、助けて良かったという気持ちが湧いてきた。

 地球で同じ様に人助けを行っていた時は、その後の様子までは殆ど見ていない。そのせいで妹以外の助けてきた人達の笑顔を見る事はほぼ無かった。

 例外は矢美ちゃん位だが、彼女は幼い頃から知っているので妹に近いものがある。

 なので、妹、妹みたいな存在以外ではそんな笑顔を見る事は殆ど無かったのだ。

 実際にそれを目にし、自分が変わったのを自覚したが全く悪い感じはせず、それどころか心地好さすら感じたのだった。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 俺と椿姫にククリの班と共に、雑草を庭の一角に集めている作業を行っていると、次々と掃除を終わらせた他の班も合流してくる。

 それもあり、瞬く間に庭の一角へと雑草を集める終わった。

 後は焼くだけだが、刈ったばかりでは水分が含まれているので、枯らせてから焼くと良いと椿姫に言われたのでそうする事にした。

 ただ、その際には周囲に延焼しないように注意はしなければならないが。

 何はともあれ、庭の草刈りを終えた俺達は孤児院の中へと戻る。

 玄関から中に入ると、綺麗に掃除された玄関ホールが俺達を出迎えてくれた。

 埃が積もっていた床は見た限り埃一つ落ちていない。各部屋も見回ったが、どの部屋も同じ様に綺麗になっている。そして、気が付けば全員が食堂に集まっていた。

 どうやら他の班も掃除を終えたようだ。

 

「皆、掃除お疲れ様、皆のお陰で見違える様に綺麗になった。ありがとうな。さて、部屋割りに関してだが、サマーリ発表してくれ」

 

 基本的に孤児院内の家事関係や子供達の世話は、サマーリに一任する事になった。

 院長は名目上は俺だが、副院長としてサマーリが就いている形だ。そして、そのサマーリの補佐に、助けた子達の中からククリを含む成人している者を付けている。

 そして、俺やサマーリを除いた妹達で対外的な交渉や生活費の確保を行っていく。

 復興までは復興の手伝いを行い、復興後は冒険者としてお金を稼ぐ予定だ。

 俺が妹達と決めた事を心の中で復唱している間に、サマーリによる部屋割りの発表も終わった様だ。各部屋には4人ずつで男女は勿論別だ。

 女の子は40人だから10部屋使用し、男の子は10人なので4・3・3に分けている。

 そして、俺と妹達は院長室隣の寝室だ。だが、この寝室にはダブルベッドが一つのみしかない。狭いし他に部屋も空いているからそこを使えば良いと言ったが、全員が俺と一緒の部屋じゃ無いと嫌だと言われたのでそうなった。

 ベッドが狭いのもくっついて寝るから問題無いと言われてしまった。寧ろくっついて寝たいと言われた。

 そこまで言うならと、俺は折れて同室になったという訳だ。

 まあ、俺としても妹達と分かれて寝るのは寂しいので、結果的には良かったが。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 孤児院での生活環境を整えた翌日、領主の城へと訪れた。

 この城でトゥレラ王国の臨時政府の長として、ベルンハルトが政務を行っている。

 ベルンハルトはコロナにその役を担って欲しがっていたが、コロナは俺と居たいが為──だけではないがその話を断っていた。

 その代わりに復興の手伝いはすると伝えたらしいので、その約束を果たすために今日は城に訪れたのだ。

 そして、俺達兄妹とベルンハルトは、城の応接室らしき部屋で向かい合っている。

 

「これはコロナ様、よくお出で下さいました。此度は宜しくお願い致します」

「硬い挨拶は不要です、ベルンハルト。わたくしはもう王女では無いのですから」

「流石にそう簡単には切り替えられるものではありません。もうしばらくは無理かと」

「……そうですか、分かりました。ですが、復興のお手伝いに関しては遠慮は無用ですよ?」

「ええ、無論そのつもりです。今は少しでも人手が必要ですから。早速ですが、本題に入りましょう──現在、この国は食料の生産が止まっている状態です。まずは食料確保の為に、各街や村での農業や漁業の再開は必要不可欠。ですが、全ての街でそれを行うには現状の人手では不可能。ですので、この街に人を集中させ、この街周辺でのみ開墾を行う予定です。そこでコロナ様達にはこの街にて開墾のお手伝いをして頂きたい。この街は漁業は盛んであったため、農業に関しては殆ど行っていないので一から始めなければならないのです」

「それは良いが、俺達は農業に関しては素人だぞ?」

 

 特に俺は椿姫とは違い、戦うしか能力がない。農業の知識等は持っていない。椿姫は知識は持っているかも知れないが、実際に行った事はないだろう。

 

「それに関しては農業の知識を持つ者の先導により行うつもりだ。コロナ様達にはその者の護衛及び手伝いをして頂きたいのです。多くの土地にて開墾を行わねばならないので、兵士だけでは数が足らないのが現状です」

 

 この世界には瘴魔という存在がいる。街の外で作業を行う限り、瘴魔の襲撃は免れない。その為の護衛なのだとか。無論、そのままでは農作物を荒らしに来る瘴魔や普通の動物がいるので、それを防ぐ為の柵を設置する必要もあるらしいが。

 ただ、柵を設置するにも木材等の材料が必要になる。その為には森に行く必要があり、森に入れば瘴魔に襲われる危険性も上がる。そのような理由から一部の兵士を派遣する必要があり、そのせいで開墾をする者達の護衛も足りなくなるとの事だった。

 俺以外は女の子ばかりなので、場所が遠いために野宿になる森よりも開墾の方が良いと判断され、俺達には街の傍で行う開墾の護衛の方を回したらしい。

 

「それともう一つありまして、簡単に言うと炊き出し要員とその護衛です。こちらはうちの兵士も出しますので、二人いれば大丈夫です」

 

 詳しく聞くと、あらかじめ作られた食事を器によそって並んだ人達に渡す者と、その人物の護衛を行う者の二人一組で複数班で炊き出しを行うとの事だった。

 護衛は食料欲しさに暴れだす者が居ないとも限らないからだ。

 

「お兄様、お受けしても宜しいでしょうか? 本当ならば冒険者に依頼を行う場合は、冒険者組合を通さねばならないのですが、現在この街の冒険者組合は機能しておりませんので……」

「ん? あぁ、そうか、そういえばそんな決まりがあったな」

 

 冒険者組合は国には帰属しないが、依頼者として国が冒険者組合に依頼をする事は出来る。そして、冒険者は冒険者組合を通してその依頼を受けるのだが、今回の様にこの街の冒険者組合が機能停止している場合はその限りではないらしい。

 ただ機能復帰後、若しくは別の街にて依頼を受けた旨を報告する必要はあるらしい。

 それに手伝いではあるが、冒険者を使う以上は依頼という形を取らなければならないとか。それはともかく、俺達は二つの依頼を受ける事にした。

 

 ◆◆◆◆◆

 

 依頼内容的に依頼を受けて即日開始とはならなかった。というか、開墾自体が翌日という事だ。なので、その日は孤児院へと戻り、損傷している部分の修理を行った。

 と言っても素人でも直せる物しか直していない。外壁等の破損が大きい箇所の修理は専門家でないと無理そうだ。

 後は孤児院を経営するにあたっての業務の流れを覚えていく。その辺りの事はコロナが知っていたので教えて貰った。

 休憩時には子供達と遊んだりもした。子供達との仲を深める事も孤児院を経営する上では重要な事だ。嫌いな院長の経営する孤児院に居たいとは子供達は思わないだろう。

 子供達を省みず、仕事しかしない院長にならない様に気を付けなければならない。

 ……何か父親みたいだな、と思うのは俺だけだろうか。子供達にとって、孤児院の院長は親同然なのかも知れないので間違ってはいないか。

 だが、18才で親と言うのも抵抗がある。せめて兄という立場でありたい。

 それはともかく依頼を受けた翌日、俺達──俺、椿姫、芽衣の三人で開墾作業を行う者達と一緒に街の外に来ていた。そしてコロナとヒルティは炊き出しに回って貰った。

 この街は北には海があり、南と東には街道が存在する。そして、俺達が護衛を行う開墾者達は残る西側の平原で開墾の準備を行っている。

 基本的に俺達は開墾者達の護衛だ。開墾者達が担当する範囲はそれなりに広い。第一段階の開墾とはいえ、恐らくは野球場位はありそうだ。そのため、人数もかなりいる。

 だが見通しは良いので、油断しなければ見逃す事はないだろう。

 俺達は開墾を行う範囲の外側に建てられた、屋根はあるが壁はない簡易的な見張り小屋の中で、周囲の警戒を行っている。

 椅子も用意されているので、立ちっぱなしという訳でもない。

 だが──


「暇だね……」

「だね~……」

「……そうだな」

 

 はっきり言って瘴魔等が来なければ、暇でしょうがない。その間、素振り等もやっているが、一日中出来る訳もない。疲れて護衛が出来ないとか本末転倒だしな。

 たまに瘴魔や獣が現れるが、その頻度は非常に低い。一時間に一度来れば良い方だ。

 この間受けた依頼の様に大量に現れても困るが。

 まあ、護衛が暇なのは良いことだと思う事にする。

 話によれば、これが暫くは続くとの事だった。一日二日で開墾作業が終わる訳はないので、当たり前の事ではある。

 そんな日々が数日は続いた頃に、俺達は休みを貰った。

 働きづめでは身体が持たないので、休日は交代で取るようにしているらしい。

 俺達に関しては気を利かせて貰い、全員が同じ日に休みを貰っている。

 そんな時だった──エドワードがアギオセリス王国から戻って来たのは……。

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