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異世界転移で兄妹チート  作者: ロムにぃ
第一部 第一章 異世界に兄妹転移
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第六話 愚王


 国王が告げたのは、俺が想像した中でも最悪の部類の一つに入るものだった。

 その事に俺は僅かに顔をしかめてしまう。


「昔から様々な場所に現れる異世界人……其奴ら異世界人が現れる度に、その国の軍事、産業、農業等の水準が一気に引き上げられておる。だが余の国には建国以来一度たりとも現れた事が無い……!」

 

 そう言って忌々しそうに顔を歪める。

 だが次の瞬間、気味が悪い笑みを浮かべる。

 

「だが、遂に余の国にも現れた! これはこのルドルフ・フォン・トゥレラに世界を統べる王に成れとの、神の御意志に他ならない!」


 狂信者の様に喜悦の声を上げるルドルフの余りの異常さに、俺は言葉を発する事も出来ない。隣の椿姫はルドルフの異常な様子に恐怖したのか、顔が青ざめガタガタと震えていた。

 俺は椿姫の手を取り、少しでも落ち着かせようとする。

 そのお陰か震えは止まった、だが顔はまだ青ざめたままだ。


「さあ教えよ、余の力となれるのだ。この様な名誉な事はあるまい」

 

 ルドルフはそう問い詰めて来たが、俺は──

 

「……俺は武器の製造法など知らない。もし知っていても、お前の様な奴に教える積もりもない」

「……何だと?」


 とりあえず、この場は嘘でも知識を教えると、言った方が良いのかも知れない。だが、俺には言えなかった。嘘でもこの様な王に恭順する事は出来なかった。

 そんな意思が伝わる様に、俺は普段通りの口調で俺は否定の言葉を告げる。

 そんな俺の言葉にルドルフが怪訝な顔を浮かべる。


「そなたは異世界人であろう、知らぬはずがないであろう? 余に従わぬ忌々しい敵国が使う魔銃や魔導砲、馬を使わぬ魔導車、全て異世界人がもたらした物だ、知らぬはずがないであろう!」


 顔を真っ赤にし、今にも噛み付いてきそうな恐ろしい顔をして問い詰めてくる。

 

「……俺は只の一般人でしかない、そんな物は分からない」

「嘘を吐くな! そんな訳がなかろう! ……ああ、そうか、そなたは自分が王に成りたいからその様に嘘を吐くのだな! そうは行くか!  世界の王に成るのは余じゃ! そうはさせんぞ! フランツよ其奴から力ずくでも聞き出せ!」

「宜しいので?」

 

 完全に冷静さを失ったルドルフが訳が分からない事を言いながら、フランツに命令を下す。

 文官だと思われる初老の男は、初めて見た時から変わらない無表情な顔で、ただ黙ってそのやり取りを見ているだけで口は出してこない。


「良い! やり方は任せる、必ず聞き出すのだ!」

「承りました我が王よ……ですが普通にやっても面白くありませんな」


 そう言って立ち上がり、階段下に居るに兵士に声を掛ける。


「普通の長剣を二本持ってこい」

「ハッ!」


 剣を二本だと……もしや……? フランツの言葉で俺は一つの答えに思い至る。

 少しして先程の兵士が、長剣を二本を手に持ち戻ってくる。

 それを受け取ったフランツはその内の一本を俺に差し出してくる。

 そのフランツの行動が俺の考えが間違っていない事を裏付けた。

 

「さあ受け取れ、足運びからして貴様は剣士なのだろう? もし私に勝てれば解放してやろう……陛下宜しいでしょうか?」

「ふむ……まあ良かろう。フランツに勝てるとも思えぬしな、だが殺すなよ」


 頬に一筋の汗が伝う。

 この男の力量は俺を遥かに凌駕しているだろう、万に一つも勝てる要素はない。

 迷いと恐怖が心に渦巻くが、椿姫を守る為にはやるしかないと、俺は覚悟を決め震える腕を強引に押さえ込み剣を受け取る。 

 フランツは右手に兵士から受け取った剣をだらんと下に向け垂らす。

 どうやら背中の大剣は使わない様だ。

 俺は剣を塚原流剣術【突】の構え(所謂正眼の構え)でフランツに正面から相対する。

 相対すると益々相手との力量差が浮き彫りになり、思わず後ずさってしまった。

 鬼瓦先生よりも遥かに強いと感じる……その事実に腰が引けそうになる。

 弱気になっている心を、椿姫を守らなければ、と強引に闘志を奮い立たせる。


「初手は譲ってやろう、さあ来るがいい」

 

 隙が無い……何処を攻めても打ち負けるイメージしか湧いてこない。

 それでも俺は神経を研ぎ澄まし隙を探っていく。

 俺ならできるはずだ、そう思い込み限界まで集中し剣気を高めていく。


「ふん……」

 

 フランツが俺の剣気を察知し、鼻を鳴らす。

 まだあれ(・・)が見えてこない、まだ足りない……限界を目指し、さらに剣気高めていく。

 もうこれ以上は高められない所まで剣気が高まった所で、漸くそれ(・・)が見えた。

 それ(・・)を感じた瞬間、俺は一気に駆けフランツに向けて突きを放つ。

 常人では目視できない程の早さで突かれた剣がフランツのそれ(・・)に当たると思った瞬間、鋭い音がしたと同時に俺の剣が遠くへ弾き飛ばされる。

 

「なっ!?」

「僅かな隙を見付けた事は誉めてやろう……気迫も一般兵とは比べ物にもならない……だがそれだけだ。技量が足らん、経験も足らん、何より殺気が全く無い、その様な剣では私には届かん」

 

 俺の剣を跳ね上げたフランツが、俺の首へと剣をゆっくりと振り下ろす。

 その時、フランツの表情に殺意以外の何かの感情が浮かんでいた。

 だが、それが何なのかを探る余裕は俺には無い。フランツの殺気に俺は金縛りにあったかの様に体を動かせず、思考能力も停止し、遅い剣速にも関わらず避ける事が出来なかった。


 ───殺される──

 

 死の恐怖に動けなくなった俺の首に剣が触れた瞬間、俺の首を斬り飛ばすと思われた剣が停止する。

 薄皮を斬られた首から、血が流れ落ちたのが感触で分かった。

 余りの技量差と殺されかけた恐怖に、冷や汗がどっと吹き出して来る。


「──っと、殺しちゃ不味いんだったな」


 フランツがそう言った次の瞬間、俺の腹に凄まじい激痛が走る。

 視線を下に向けると、そこには俺の腹にフランツの拳が突き刺さっていた。


「──っ!?」

「お兄ちゃん!?」


 (つば……き……)

 余りの痛さに俺は声になら無い声を上げ、堪えることもできずに倒れこみ、意識を手放した……。

 


◆◇◆◇◆



 ──椿姫視点──


 フランツという騎士の剣が、お兄ちゃんの首に目掛けてゆっくりと振り下ろされる。

 お兄ちゃんを失う恐怖に全身の力が抜け、私はくずおれてしまった。

 だが、お兄ちゃんの首を斬り落とすかに見えた剣は、寸での所で止められていた。

 ホッとしたのも束の間、お兄ちゃんはお腹を殴られ、倒れこんで動かなくなる。

 

「お兄ちゃん!?」

 

 声を掛けるがお兄ちゃんはピクリとも動かない。

 倒れて動かないお兄ちゃんを助けに側に行きたかったが、全身に力が入らず立つことすら出来なかった。その為、私は這いずってお兄ちゃんに近寄って行く。

 なかなかお兄ちゃんに辿り着けない事に、私の目からぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。

 頭の中はぐしゃぐしゃになり、何も考えられない。

 冷静にならなければと分かっているが、どうにもならなかった。

 また私のせいで大事な人が居なくなってしまう……。

 私の脳裏に悔やんでも悔やみきれない昔の事が浮かんでくる。

 6才の時にお父さんとお母さんが死んでしまった時、私は泣きじゃくるだけで何もできなかった……。

 私があの時に冷静に動けていれば、お父さんは死ななかったかもしれない。

 6才の子供だからあんな場面で冷静に行動出来なくてもしょうがないと、皆きっと言うだろう。

 だけど私はそれで終わりには出来なかった。

 それはきっと、お兄ちゃんがあの事件から、鬼気迫る勢いで剣道に打ち込み始める姿を見たから。

 そんなお兄ちゃんの姿を見て、私も頑張らなければ、お兄ちゃんを支えなければ、お兄ちゃんの妹で居る資格は無いと思い今まで頑張って来た。

 あの時の様な事が起きても適切な行動をとれるように、と。

 だが、私にはお兄ちゃんの様な身体能力は無かった。そこで私は方向性を変え、様々な事を知れる様に努力した。

 私は頭を使う事に才能があったらしく、努力の甲斐あり今は大人顔負けの知識と思考力を手に入れた。

 今の私ならどんな場面でも実行可能な案を考え、それをお兄ちゃんが実行する。強いお兄ちゃんと私の頭脳ならどんな事でも越えていけると思ってた。

 だけど、この異世界では全く通用しなかった、それどころか危機に陥っている。

 お兄ちゃんは倒れてピクリとも動かない、このままではお兄ちゃんは殺されてしまうかもしれない。

 こんな時こそ、私が頑張らなければいけないのに……何も考える事が出来ない……何も……出来ない……。

 考えが纏まらず、涙が止まらず、体の力が入らず、惨めな姿を晒し、ただ蹲っているだけ。私は一体何をやっているんだろうか、今まで何をやって来たんだろうか、私はあれから全く成長しておらず、ただあの時と同じ様に泣いているだけ……。

 そんな蹲っている私の耳に誰かの声が聞こえてくる。

 

「む、やり過ぎましたか、気を失ってしまったようです」

「そうか……とりあえず牢屋にでも入れておけ、そこの娘も一緒にな。武器の製造法は拷問にでも掛けて聞き出せば良かろう」

「では、その様に手配致します」

「うむ、頼んだぞ、余の、国の未来が掛かっておるのだ」

 

 何を言っているのか、ぐしゃぐしゃになった頭では理解出来ない。

 今はそれよりも、お兄ちゃんの側に行く為に必死に這いずって行く。

 もう少しでお兄ちゃんに辿り着く所で、お兄ちゃんを倒したフランツが私の前に立ちはだかる。

 そんな所に居られたらお兄ちゃんに辿り着けない……。

 そう思い見上げると、そのフランツが私に向け手刀を振り下ろしている姿が見えた。

 首の後ろに衝撃を感じた後、私の意識は途切れた……。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 ──トゥレラ王城謁見の間──

 

 フランツと兵士の二人が一刀と椿姫を抱え退出した後、ルドルフと隣の宰相は今までの事がなかったかのように、別の話をしていた。

 

「宰相よ、アギオセリスへの侵攻はどうなっておる?」

「予定通りであればハルバ平野にて、我が軍の20,000とアギオセリス軍12,000との戦いは決着している筈です。早ければ本日中にでも結果報告の伝令が来ると思われます。これだけの兵力差に加え、指揮官は我が軍随一の将軍ウラッハ卿が率いております。万が一にも負ける事は無いでしょう」

「そうか、アンスロポス王国の動きはどうなっておる?」

「同盟国であるエマナスタ帝国が、我が国が動くと同時にアギオセリス王国の同盟国であるアンスロポス王国に牽制を行っております。アンスロポス王国はハルバ平野に回す余力は無いかと」

「予定通りであるな、これで(ようや)く憎きアギオセリスを潰す事が出来るわ」


 ルドルフが弛んだ頬を震わせながら笑う。そこで一人の兵士が謁見の間に駆け込んできた。

 

「ご報告申し上げます!!」

「何事じゃ!?」

「ハルバ平野にてアギオセリス王国と交戦中にアンスロポス王国が参戦し、ウラッハ卿が討ち取られ我が軍は壊滅致しました!」

「なっ、何じゃと!?」

「そ、そんな馬鹿な事が……!?」


 伝令がもたらしたのは、二人が予想していた未来を大きく裏切ったものであった……。

主人公が弱いんじゃ無いです、フランツが強すぎなんです(^^;

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