第二話 報酬
シノン達やククリと話を終えて俺達に宛がわれた部屋に戻ると、既にコロナとサマーリが部屋に戻って来ていた。
「「お帰りなさい(ませ)」」
「ああ、ただいま」
「「「ただいま~(なの)」」」
俺に続いて妹達も挨拶を交わしていく。
挨拶を交わし終え、俺はコロナとサマーリへ結果がどうなったのかを尋ねる。
「はい問題なく、孤児院を報酬として頂ける形となりました。ただ、それだけでは報酬としては不足だとの事で、金銭や食料を街が復興するまでは援助して頂けるとお約束して下さいました」
「かなり大きい孤児院のようで、100人以上は住めるそうです。少し前に院長が亡くなられて後釜が居ない状態になり、国の所有になったようです。あ、因みにそれまでいた子供達は他の孤児院に移った様で今は誰も住んで居ません」
この街には他にも数件孤児院があり、子供達はその孤児院へと引き取られたらしい。
国が圧政を行っているにも係わらず、孤児院が未だ残っているのにも驚いたが、それが複数あるとは思わなかった。
「その殆どが個人所有らしいです。裕福かつ国の方針に反抗的な方々が設立したとの事でした。ただ……」
「何かあるのか?」
「その中で一件だけ国営の孤児院があって、しかも国の支援を受けていた様なんです。その孤児院ですが孤児の入れ替わりが激しいそうなのです。噂では何処かに孤児達を売っているのではとも……」
「もしかしたら、トゥレラ王国の王子の手が回っていた施設なのかも……。もし、そうなら注意した方が良いかもね」
「あ! 多分ボク知ってるよ。その孤児院はボクがいた暗殺者養成施設に子供を送っていた所だと思うよ」
「え!? まさか、その様な場所が……」
「完全に真っ黒だな……」
流石にそんな施設を放って置く訳にはいかない。子供達が送られる場所は無くなったが、そんな孤児院の経営者等まともな者ではないだろう。もしかしたら虐待されている可能性がある。
「ベルンハルトもそう考え、査察を行ったそうですが明確な証拠は出なかったそうです。虐待等も無く、子供達の動向も不自然な点は無かった様なのです」
「証拠がない……か、となると、どうにも出来ないな」
「疑わしきは罰せず……だね、現状ではどうしようも無いかな。少なくとも子供達を送る先は無くなっているから、しばらくは大人しくしてると思うよ」
「はい。このまま、普通の孤児院となられて頂ければ良いのですが……」
現状では俺達に出来る事は無いと結論が出た為、話を元に戻す。
「それで報酬の孤児院だが、一度見に行けないか?」
「はい、それは大丈夫です。ただ、正式に所有権を頂けるのは様々な手続きを終えてからとなりますので、入居は数日はお待ち頂くかと思われます」
「ああ、とりあえずどんな所か見たいんだ。いざ、住む段階になって余り良くない物件だったら嫌だしな」
「確かに必要な事ですね。分かりました、手配致します」
「すまん、頼んだ」
その後、今日直ぐは難しいとの事だったので、翌日その孤児院を見に行く事になった。
◆◆◆◆◆
──港湾都市プレンツィア、全盛期は複数の国との貿易を行っていたらしいが、今は見る影も無い。俺達は今、報酬で貰った孤児院へ向かう為に港を歩いている。
孤児院がある場所が、領主の城からだと港を通るのが早いからだ。
領主の城は街の中央部に位置し、港は海に面した北部に存在する。そして、目的地である孤児院は街の北東部に位置するのだが、北東部は平民街になっておりかなり入り組んでいるそうだ。なので、一度港に抜けてから西に向かうのが建物が少なく、迷うこと無く着くらしい。
その港だが、余りの寂れ具合に俺達は声も出ない。
港自体はかなり大きく、大型船が複数停泊出来るだろう。だが、現状では停泊しているのは数隻の漁で使うような小型の船しか見当たらない。
コロナの話によると、ルドルフの代で高額な関税を敷き始めたらしい。そのせいで他国や商人の船はこの国に近寄らなくなったとの事だ。
ただ、一つだけ例外の国があった。その国はトゥレラ王国と同盟を結んでいた、エマナスタ帝国だ。何故かと言うと、ルドルフはエナマスタ帝国の軍事力を恐れ、エナマスタ帝国のみ通常の関税で通したからだ。
その為に船がいなくなる事は無かった。だが、アギオセリス王国との戦争に負けた時点で、エナマスタ帝国はトゥレラ王国との関係を全て断ち切った。
その結果が今の港という訳らしい。エナマスタ帝国としても滅亡寸前の国と貿易を行う利点は存在しないという事だろう。
更にルドルフの圧政により、漁を行ってもほぼ全ての儲けが税に持っていかれる為、漁をする者もいなくなってしまったらしい。
トゥレラ王国出身の船を持つ商人達も、儲けが無いため他国に移ってしまい、個人で釣りを行っている者の小型船しか残らなかったという訳だ。
まあ、完全な自業自得だ。結局、最後には国が滅んだからな。
それはともかく、今は孤児院だ。港に出て西へ向かい暫く歩くと、石積みの塀に囲まれた大きな建物が見えてきた。孤児院だけあって、華美な装飾は一つも見当たらない、シンプルな外見をしている。
孤児院を囲う塀は所々崩れているが、そこは直せば問題は無いだろう。
「これは、結構大きいな……」
「だね、もうちょっと小さいかと思ってたよ」
「これだけでも報酬としては貰いすぎな気もするが……」
「多分、元とはいえ王女様のコロナお姉ちゃんを留めて置きたいんだろうね。それも私達が不快に思わない方法でね」
「そうですね、それは確かかと。お兄様達が旧トゥレラ王都に戻られるなら、わたくしも妹として間違いなく付いて行きますから。それで報酬を増やしてでもわたくしを留めて置きたかったのでしょう。わたくしの王女としての価値は余り無いでしょうに……」
「レオン王子が言うには、コロナお姉ちゃんは国民に人気があったみたいだからね。その人望が国民を纏めるのに必要とされてるんだと思うよ」
「成る程な……だがコロナはそれで良いのか?」
「流石にレオン王子殿下の様に領主にと申されるのであればお断り致しますが、一時的に纏める位であれば協力したいとも思っております。ですがベルンハルトなら無理は申さないでしょう。お兄様がお嫌であれば、それもお断り致しますが……」
「いや、俺も復興には手を貸すつもりだしな。コロナも自分がやりたいと思ったら俺に遠慮する必要はないぞ」
「はい、分かりました。もし請われれば、先程申したように致したいと思います」
そんな話をしながら塀の中に入ると、平屋建てではあるが普通の家が何軒も入りそうな建物が目に入る。壁は石を積み上げて造られており、結構丈夫そうに見えた。
勿論、現代日本の様に耐震構造では無いだろうが、余程の事が無い限り崩れそうには無い。そして、庭も広い。今は雑草が生い茂っているが、刈ってしまえば子供達の良い遊び場になりそうだ。
建物の裏には砂浜があるようだが、雑草のせいで表からは行けそうに無いので後回しにする。なので俺達は孤児院の中に入る事にした。
木製の観音扉を音をたてながら開ける。始めに目に入ったのは、20畳位の玄関ホールだ。そして前方と左右には、それぞれ二つの扉が設置されているのが見える。
左手の部屋には応接セットと執務机や書類棚が置いてある12畳程の院長室と、ダブルベッドやテーブルセットが置いてある10畳程の院長用の寝室があり、右手にはこの孤児院に合った大きな食堂と厨房がある。
前方の二つの扉の先には、それぞれ手前に複数人が使用出来るトイレと、その先に各部屋に4人ずつは住めそうな部屋が15部屋ずつ合計30部屋はある。更に各部屋には二段ベッドや机等の家具が設置されたままになっており、今すぐにでも住むことが出来そうだ。
流石にお風呂は無かったが厨房から井戸がある場所に行け、そこに水浴び出来る場所があるとの事だった。一応建物内に水浴び場があるだけましだろうが、やはりトゥレラ王国ではお風呂は一般的では無いらしい。王城にすら無かったぐらいだから、かなり珍しいのだろう。だが、妹達はお風呂が無い事に残念そうにしていたので、いつかお風呂を造ろうと心の中で誓った。
「ここは、本当に孤児院か……?」
「すっごーーい!」
思わずそう呟いてしまったのは、最後に突き当たりにある扉から外に出ると、入江になっている砂浜が目に前に現れたからだ。
砂浜に出るには庭と同じく雑草を刈らなければいけないが、大きな問題ではない。
港側と街の外とは天然の石で仕切られており、簡単にはここに入ってこられはしないだろう。ここも子供達にとって良い遊び場になりそうだった。
入江から外に出なければ、そうそう沖に流される事も無いだろう。
全てを見終わったが、俺はここで問題無いと感じた。だが、俺が良くても妹達が嫌がる可能性はある。
「皆はどうだ? 俺はここで問題はないと思うが」
「うん、お風呂が無いのは残念だけど、他は大丈夫かな」
「みんなで住めるならどこでも良いの!」
「孤児院にしては、かなり良い物件だと思われますよ」
「頑張って皆のお世話をしますね!」
「一刀にぃと一緒に住めるなら何も問題無いよ!」
一部住み心地とは関係ない意見もあるが、反対意見は全く出なかった。
ここで良いかの返事は、コロナに伝えれば良いとの事だったので、返事はコロナに任せる事にした。
それにしても元とはいえ、一国の王女を使い走りの様に使うのはどうなのだろうとは思ったが、本人は「お兄様の妹ですから何も問題はありません」と言っていたのと、本人が嬉しそうにしていたので俺も気にしない事にした。
それはともかく、皆で住める所が無事決まりそうで安心する。
この世界に来てから様々な事があり落ち着けなかったが、これからは落ち着いた生活を送って行ける事を祈ろう。
◆◆◆◆◆
その後、生活するのに必要な物を買おうと思ったが、現状営業をしている店が見つけられなかった。それもその筈で、買う側がお金を持たず、売る側も売る商品が存在しないからだ。お店に関しては、復興が進まなければ復帰は期待できそうにない。
食料に関しては配給制になっており、それは現在城に住んでいる俺達も例外ではない。生産が無いので一日で食べられる食事はかなり制限される。
その食事を孤児院から昼頃に戻って来た俺達は、助けた子供達と共に城の一室にて取っている。
一室といっても、数十人もの人数だ。そんな人数が収まる場所は限られている。
そこは催し物が行われる際に使用される部屋らしく、これ程の人数にも拘わらず全員が食事を取る事が出来ている。
そして、食事そのものは勿論だが質素な物だ。だが、それに文句を言う者は誰も居ない。それどころか、楽しげに会話をしながら食事をしている者ばかりだ。
食事の内容は少し硬めのパンに少量の肉が入っているスープ、それに種類の少なく調味料も掛かっていない野菜類だ。量の制限がされているので、お代わりも出来ない。
にも拘らず、この明るい雰囲気。少し不思議に思い、ククリに尋ねると「食べられるだけでも幸せです。捕まっている間は満足に食事も与えられなかったから」と言われた。成る程それならば頷ける話だと、納得した。
食事が終わり、俺は全員をその場に留め孤児院の話を行う。
「シノンやククリには話していた孤児院に関してだが、正式に貰い受ける事になった。従って、手続きが終了次第、俺達全員で孤児院に移り住む積もりだ。 もし、嫌な者が居れば言ってくれ。その時は他の孤児院に受け入れて貰える様に話は通しておく。誰か反対な者はいるか?」
俺が問い掛けると、全員が謀ったの様に一斉に首を横に振り、笑顔を浮かべ歓声を上げる。反対する者が一人もいない事にも驚いたが、この喜びようは何故だろうか?
「なあ椿姫、何故皆こんなに嬉しそうなんだ?」
「お兄ちゃん、分からない? 私は分かるよ、自分達を助けてくれた大好きなお兄ちゃんと一緒に居たいからだよ。親や保護者のいる子達もお兄ちゃんと一緒に居たがったんだけどね。流石に親と一緒にいるように説得したよ。少し大変だったかな」
「そうなのか……前から思っていたが、何故助けただけで俺を好きになったり、俺と居たがるのか良く分からん」
「それはお兄ちゃんだから、としか言い様が無いかな。もしお兄ちゃんじゃない別の誰かがあの子達を助けても、ここまで慕われる事は少ないと思うよ?」
「それは説明になってないぞ……」
「ふふふ、お兄ちゃんにはずっと分からないと思うし、分からないままで良いと思うよ。ただ、皆がお兄ちゃんの事が好きなんだって事さえ分かってればね。勿論、私もお兄ちゃんの事が大好きだよ♪」
「そ、そうか……」
花が咲くような笑顔を俺に向ける椿姫に、俺はそうとしか返せなかった……。
そして数日後に手続きは終了し、俺達は孤児院に移り住む事になった。




